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16 一夜明けたら位が上がってた
しおりを挟むその後、俺と陛下は抱き合ったまま横になって、ぽつりぽつりと互いの事を話した。そうしている内に、さっきはあれだけ興奮材料になっていた互いの体温と声に、今度は心地良く睡魔を誘われて...。いつの間にか寝落ちてしまい、気づいたのは午前5時のアラーム。シュウメイさんにいわれて、色気の無い機械音じゃなくて鳥の囀りにしてあったから
(こんなんで起きられるかな)
なんて内心不安だったんだけど、案外すぐに目が覚めた。
囲われた腕の中から上半身を捻って手を伸ばし、ヘッドボードに置かれた小さな目覚ましをタッチして音を止める。 良かった。涎垂れ流して寝たりなんてだらしないところを見られるのは避けられたぜ。ふぅ...。
陛下を見ると、俺が動いたにも関わらずまだ目を覚ます気配はなく、穏やかな寝息を立てている。端正な顔に閉じた瞼、逆扇状に影を落とす睫毛。...え、睫毛なっが。俺も長い方だと思ってたけど、陛下の睫毛は黒くて長い上に密度がびっしり。思わず暫し観察する。
なるほどな、俺のは上向きにくるんとカールした睫毛なんだけど、陛下のは長いけどまっすぐなんだな。下睫毛も長い。額から鼻先までまっすぐに通った芸術的に高い鼻。唇は薄く見えて、実は下唇にやや厚みがあって肉感的。俳優やモデルにも、こんな完成度の顔、見た事ない。
はぁ~...、と感嘆が漏れてしまった。
まさかこんな人が陛下だったなんて。改めて嬉しい誤算だった。しかも俺の事がとっても大好きなんだろ?いや俺だって完全に惚れちゃったけど。
暫くじいっと陛下の寝顔に見蕩れていた俺だったが、ハッと思い出す。
(...あ、いけないいけない。人目につかないように朝は早目にお部屋に帰さなきゃいけないんだっけ)
よくわからないけど、初夜はそういうしきたりらしい。その後は、相性と関係性によるとシュウメイさんは言ってた。ちなみに先帝である上皇様は、関係性が深かった側室さん達とは一緒に朝食まで取ってから帰っていったとか。まあ、慣れた相手なのにいつまでも時間厳守ってのも堅苦しいもんね。俺も、本当に陛下が通ってくれたらその内一緒に朝食を食べたりするのかなあ、なんて自然と顔がにやけた、けど...。とりあえず、陛下を起こさなきゃな。
「っと、その前に...」
俺はベッドから降りてバスルームに向かった。正確には、バスルームの前にある洗面所にだ。急いで歯磨きをして、顔をぬるま湯ですすぐ。フェイスタオルで水気を拭いながら鏡に映る自分を見た。
うむ。短い睡眠時間だったにしては瞼や顔のむくみも無し。特に目立つ寝癖も無し。肌状態...何故かかなり良し。
...陛下のアルファフェロモン浴びたからか?
髪を手櫛でさかさか直してからベッドに戻る。
「陛下、陛下。そろそろ起きましょう」
すやすや寝ているのを起こすのは忍びないなと思いつつ、心を鬼にして陛下の肩を優しく揺する。陛下は目を閉じたまま眉を顰めて、小さく唸った。
「...ん...」
「陛下」
もう一度呼びかけると、 ふ、と薄目が開いた。それから、ぼんやりした目を俺に視線を向けて、数秒。
「...ユウリン...」
ふわっと微笑んで、陛下が俺を呼んだ。その甘えたような声にダメ押しのずっきゅん。
「はい」
「ユウリンと過ごした時間は夢ではなかったんだな...」
か、可愛い...。歳下ってこんなに可愛いのか?いや、陛下が可愛いだけだな。
言い寄ってくる相手にも歳下は居たけど全然興味を引かれなかったもんな。なんとなく自分には歳上が合ってるんだと思い込んでいた。だけど陛下とこうなってみると、必ずしもそうではないんだと思う。
年齢じゃない。相手によるんだ。
名残惜しいけど、という気持ちを込めて頬にキスをすると、途端に陛下の目が見開かれた。
「ゆ、ユウリン...今...」
と動揺したように言う陛下。驚いて目が覚めたもよう。良かったね。
「もう起きられてお戻りになるお支度をなさいませんと。初めてのお渡りはそういう決まりだって聞いています」
「そうだった...そうシュウメイに聞いていたのだった」
陛下の方もきちんとレクチャーされていたらしい。身を起こしてキリッとした表情でベッドの上に胡座をかいて髪をかき上げた。ほっぺちゅーの動揺の名残りか、少し顔が赤いような。
「陛下、洗顔されるならこちらへ。身支度のお手伝いをします」
「うん」
素直にベッドを降りて履き物に足を通し、差し出した俺の手を取る陛下に思う。
...なんだかマジで躾の良いワンコみたい。
それから15分程度ばかり、俺は陛下の支度を手伝った。と言っても、陛下も成人男性なので普通に自分で顔も洗うし歯磨きもする。俺がしたのはせいぜい、横でタオルを持って立ってたり、着てきた夜着を着せ直したり、髪を梳いてあげたりという程度のサポートだ。陛下は寝起きにも関わらずご機嫌で、目が合う度に照れ臭そうに微笑うので、俺の方もキュンキュンしながら微笑み返す。
ただ、せっかく梳いた髪を、部屋を出る前にばさりとすだれヘアーに戻した時は少し微妙な気分になったけど...。陛下、もしかして公の場でもあれで通してるの?嘘でしょ?
今まで夜伽に呼ばれる事も無かろうと陛下に全く興味も持ってなかったから検索した事無かったけど、陛下をお見送りしたら皇室関係の過去ニュース検索かけてみなきゃ。
だけど陛下を送り出した俺は、無事に(?)初夜伽を終えた事で昨日一日の緊張と疲労が一気に押し寄せたのか、即睡魔に襲われた。
後から聞いた話だと、朝食を持って来た侍女ちゃんの挨拶にも、「う~ん...」と1度反応しただけで、そのまま眠り続けていたらしい。
そのまま昼過ぎまで寝てしまい、目が覚めたのは13時を過ぎていた。
「おめでとうございます。総指南役様から2度ほど、ご連絡がございましたよ」
なんてニコニコしながら言われて、しまったと思う。ほんとはシュウメイさんからの連絡を受けて大体の事、報告しなきゃいけなかったのに。
うっかり寝てしまった俺の馬鹿馬鹿!!
だがその後、部屋を訪れたシュウメイさんは、俺が寝てしまってた事にも全然怒ってはいなかった。
それどころか、微笑みながら俺に言ったのだ。
「おめでとうございます、ユウリン様。
本日、貴方様は正式なご側室とおなりあそばされました。ご快挙でございます。
これを持ちまして、ユウリン様は嬪の位に就かれた事になります」
「ひ、嬪?」
「ご側室にも階級がございます事、先日ご説明申し上げましたでしょう。とりあえずの一番下の位ですが、今のところ唯一の位持ちですよ!その調子でガンガン行きましょう!」
「え、でもあの...実はまだ最後まではしてないんですけど...」
正直にそう言った俺に、シュウメイさんは肩を竦めながら答えた。
「良いんですよ、そんなの。そんな事言ったら私なんか今此処には居ません。お渡りがあったという事実が大事なんです」
「はあ、そういうものなんですか...」
「そういうものです。それに...、」
拍子抜けした俺に、シュウメイさんは意味深にニヤリと笑った。
「陛下のあのご様子からしても、どうせ時間の問題でしょうしね。これからは週に2日、スケジュールを組みますね」
「あっ...あはは...はい」
陛下、どうやら本気だったらしい。
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