運命だとか、番とか、俺には関係ないけれど

Q矢(Q.➽)

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20 告白

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その店は見た目よりもカジュアルなフレンチの店で、メニューを見てみるとコースは2種類のみ。ワインは色々揃えているようだが、よほど拘るのでなければ利用し易い店だろうなと斗真は思った。
庄田は斗真の好みを聞いてから、魚と牛肉がダブルメインになったBコースをオーダーした。

運ばれてきた食事はどれも斗真の口に合い、魚好きな斗真には特に真鯛のポワレが絶品だと思えた。

食事が済んで、夜景を見ながら食後のコーヒーを飲んでいる時、斗真は思い切って聞いてみた。

「あの…聞かれたくなかったら答えてくれなくて良いんだけど…。」

「なに?何でも聞いて。」

「今日って大事な日なんだよな?この店も特別な場所なら、俺なんかを連れてきて良かったのか?」

席と席は離れているから聞こえはしないだろうが、声量は少し落としている。庄田は斗真を少しの間見つめてからそれに答えた。

「とまくんだから連れて来たんだよ。彼がいなくなってから、他に連れて来ようなんて思えた人、いなかった。」

庄田みたいな人間なら、他にも寄り添ってくれる友人も、それ以上の関係の相手もいそうなものなのに、何故付き合いの浅い自分を。そんな気持ちで庄田を見返す。庄田はそんな斗真に、また少し笑った。

「とまくんは本当に分かり易いね。なのに何で自分を?って顔に書いてある。」

「…。」

図星を指されてバツが悪い。その通りなので反論できずに黙っていると、また庄田が口を開く。

「俺の中で、とまくんが特別な人になってるから…って言ったら、困らせるかな?」

困らせるかと斗真の様子を窺うようにしていながら、自分の方が困ったような顔をしている庄田に、斗真は少し胸を打たれた。
今でも亡くなった番の事を想い続けている事からも、庄田が一途な人間なのだとわかる。いたずらにこんなセリフを口にできる人間だとは思えない。
最初に寝てしまって以来、斗真に気遣ってその事にも触れずにいてくれた。思いやりのある誠実な人だ。そんな彼の言葉を冗談で流してはいけないと思う。誠実には誠実に答えなければ。でも…。

「困…るという、か…。」

従来なら、フリーでいる時は相手が真摯だと感じれば応じる事が多かった。真面目で優しい庄田のような相手なら、特に。けれど、斗真はこの間の失恋で、二度とアルファやオメガとは恋愛をしないと誓ったのだ。もう裏切られたくない。傷つきたくないからだ。
でも庄田と知り合って、彼の負った心身の傷を知ってしまうと、自分が傷ついた事などは大した事ではないような気になっている。
でも、だからといって。庄田もアルファである事には変わりない…。
斗真は考え込んでしまった。そして、そんな斗真を見て、また庄田は気を遣う。

「…ごめん。とまくん、もうアルファもオメガも嫌なんだよな。」

「あ…。」

そうだ、酔っ払った日に愚痴をたくさん吐いてしまったんだった。庄田が聞き上手で、何でも包み込むようにきいてくれたものだから…。断片的だが慰められた記憶がある。庄田はそれをしっかり覚えているのだ。アルファの庄田にアルファなんてとクダを巻いてしまったのが今となっては本当に申し訳ない。

「アルファとオメガ、信用無いよね。ごめん。忘れて。」

苦しそうに微笑む庄田に、胸が痛む。反射的に斗真は言ってしまっていた。

「庄田さんは、ちがう。庄田さんは別だよ。」

しかも、言いながら、テーブルの上に置かれた庄田の左手にまで触れて。そうしてしまってから、ハッと我に返った。自分は何をしてしまったのだろうか。

「あ、の…これは、」

「とまくん、俺は別なの?」

自分の手に重ねられた斗真の手のその上に、庄田は更に自分の右手を重ねた。

「俺、期待しても良いの?」

周囲の目など気にもせず、ただ自分の目だけを見つめてくる庄田に、斗真は頷く事しかできなくなった。

「…うん。」

「嬉しいな…。また好きになれる人が現れるなんて思ってなかったから…。とまくんに出会えたのは奇跡だ。」

「大袈裟だよ。」

噛み締めるように言う庄田に、斗真はそう答えた。だが、一方で考える。
自分はきっと庄田に惹かれている。付き合う事になれば、今までの恋人達よりも深く愛してしまう予感がする。でももし、また庄田も別の誰かを選んだら…。

それを考えると、怖い。

斗真の不安が伝わったのだろうか。庄田は斗真の手を、少し力を込めて握った。

「とまくん、そろそろ出ようか。」

「…はい。」

庄田がチラリと一瞥すると、顔馴染みらしいギャルソンがすぐに気づいて明細を持って来た。庄田がカードで会計を済ませる。車に戻ったら自分の支払い額を渡さなければと思っている間に、庄田が立ち上がった。

「とまくん、行こう。」

斗真は頷いて立ち上がり、庄田の後について店を出た。
出入りまで見送りに来たギャルソンに、振り向いて小さく会釈をすると、それまですまし顔だったそのギャルソンは、少し目を見開いた後、柔らかく笑った。


店の横手の駐車場に停めていた車の助手席に乗り込むと、斗真は急いで鞄から財布を出そうとした。いつもの食堂の時にはお金を受け取ってくれないからありがたくご馳走になっているけれど、今日はそうもいかない。手頃なカジュアルフレンチとはいえ、食堂の会計とは訳が違うのだから、ご馳走様では済まないだろう。

「あの、庄田さ…」

と言いかけた時、不意に抱きすくめられて唇を奪われた。
柔らかい、でも最初から舌を捩じ込まれて、舌を絡めとられて、吸われて、激しく求められるようなキス。
息苦しいほどの密着、舌も唇も溶け合ってしまいそうなほどに。最後に飲んだ筈のコーヒーの味も、庄田の唾液の味に上書きされてしまった。


「好き。好きだよ、とまくん。斗真。」

やっと離された唇から放たれた、絞り出すような声。
それは斗真を恋に堕としてしまうのに十分だった。





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