運命だとか、番とか、俺には関係ないけれど

Q矢(Q.➽)

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23 心変わり

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「そう…なんだ。」

平坦な声。雅紀の声ではないみたいだと斗真は思った。付き合っていた頃の雅紀は、素直に感情を出すタイプだった。けれど、今は逆だ。辛い経験が彼を変えたのだろうが、それでも以前の明るい雅紀を知っているから胸が痛んだ。

「何時からか、聞いても良い?」

雅紀の問いに、斗真は少し言いにくそうに答えた。

「…一昨日だ。」

「一昨日…。」

僅かに表情を歪める雅紀を見ていると、やっぱりバツが悪い。気持ちを知りながらスルーして庄田を選んでしまったようで、何か悪い事をしてしまったような気分になってくる。とはいえ、斗真は雅紀に対して友人としての同情は持っているが、以前のような恋愛感情は無い。雅紀もそれは心得ているのだから、罪悪感を持つ必要などない筈なのに。何とも言えない気分だ。

雅紀の質問は更に続いた。

「…あの人が好きなのか?」

そう聞かれて、何と答えたら良いのか戸惑った。好きだと正直に言ってしまって良いものだろうか?余計に雅紀を傷つける事にはならないだろうか。

(いや、今まで十分傷つけてるか…。)

再会してから雅紀の目の前で2人と付き合っていたのだから、今更だ。そう思って、はっきりと気持ちを口にした。

「…うん、好きだ。」

聞いた雅紀の顔に驚きの色が滲んだ。何故なら雅紀の知る限り、今までの斗真の恋愛と言えば。最初は相手から押せ押せで来られて、熱意に押し切られて始まり、次第に斗真の方も気持ちが傾いていくというパターン。雅紀の時もそうだった。なのに、今回は出足から違うらしい。
どうせまた半年か1年だろう、待ちついでに待つかと決めかけていた雅紀の心に、僅かに嫌な予感が落ちた。
何なのだ、あの男は。最初から斗真の心を手に入れているというのか…と、じんわりとした何かが湧き上がる。
さっき帰ってきた斗真の服装や持ち物から察するに、金曜の仕事帰りにそのまま泊まってきたという感じだろうか。

(金曜日の晩から、日曜日の昼まで…?)

その間の事を嫌でも想像してしまって、嫉妬で胸が焦げそうになった。金曜から付き合って、もう体を許したというのか。雅紀の時にはキスまで進展するのに3ヶ月かかった。最初の別れが手酷くて、臆病になっていた斗真を口説き落として、やっと心を開かせた。好きになってくれてからは、全てを雅紀最優先にするほど愛してくれた。  
…それを裏切ってしまったのは、自分だけれど…。

とにかく、人を好きになるのにそんなにも慎重な斗真に、これだけはっきり言わせるとは大したものだ。

しかし。

「でも、斗真。違ったら悪いけど、あの人って…アルファじゃないのか?」

雅紀の言葉を受けた斗真が僅かに肩を揺らしたのを見て、やはりと思った。

マンション手前の道に停めた車の横で抱き合っていた2人を見ていた時から感じていた事。愛しげに斗真を抱きしめていた長身の男の特徴は、どう見てもアルファのものだった。距離もあったし、近くに寄ったとしても嗅覚が殆ど失われている雅紀には匂いは嗅ぎ取れなかっただろう。けれど、わかる。伊達にアルファと番になってきていない。

じっと凝視していると、斗真は諦めたように頷いた。

「…うん。言う通り、あの人はアルファだ。」

やっぱりと言う気持ちと、軽い失望感。そんな失望感を感じる資格が無いのはわかっていても、止められなかった。つい恨み言のような言葉が口をついて出てしまう。

「斗真、もうアルファとオメガとは恋愛したくないって言ってたじゃん…。なんでものの数週間で心変わりしたの?」

あれだけ泣き落としても、あの後連絡一つ寄越さなかった癖に、まさか裏に別の人間が居たなんて予想もしていなかった。別れたばかりの斗真は何時だって立ち直るのに何ヶ月もかかると知っている。だからこそ、逆に安心していた。今の状態の斗真なら、新たに近づいてくる人間を受け入れたりはしないだろうと。真摯な告白をした雅紀を気にかけるだろうと。

とんだ目論見違いだった。

「…俺も、そんな気は全く無かったんだ。でも、何だろ…?あの人の、何も見返りを求めて来ない優しさとか、背負ってる痛みを感じさせない強さとか…。気がついたら惹かれていたっていうか。」

「…気にならなかったの、アルファだって事。」

「うん。あの人も雅紀と同じでさ、番と別れてるんだよ。…あの人の場合は、死別だけど。」

「……死別…。」


(やられた…。)

上には上がいた。
悔しさに目の前が真っ赤に染まるようだ。鳶に油揚げを攫われるとはこういう気持ちなのか。
斗真の優しさに漬け込もうとした雅紀が言えた事ではないが、やられたと思った。いや、本当にそんな不幸を味わった人に、こんな事を思うのは間違っているのだろうが、それにしても悔しいと思う気持ちは止められない。
だが、そんな悔しさを斗真にぶつける訳にはいかない。勝手に目論んで期待したのは自分自身だ。

雅紀は目を閉じて、ふぅ、と息を吐いた。自分を落ち着かせる為だ。今は静まれ、この場だけでも冷静になれ。

そして、再び目を開いた時には何時もの薄い微笑みを浮かべて、言った。


「そっか。斗真がそれで良いと決めたのなら、仕方ないね。おめでとう。」


今は笑ってやるよ。
そして待つだけだ。

また傷ついた斗真が、雅紀の前に落ちてくるのを。








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