運命だとか、番とか、俺には関係ないけれど

Q矢(Q.➽)

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60 内藤と鳥谷 2

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当時、遥一の世話係についていた内藤の祖母は自身の体力の衰えから、新たに若い世話係に交替、もしくはサポートをつけて欲しいと鳥谷家に願い出ていた。だが、鳥谷家は邸の内部に入れる人間の出自を限定していて、内藤・酒田・三井という古くからの従家からしか人を採らない。そして折悪しくと言うのか、その頃の三家の中には内藤の祖母・八重の代わりが勤まりそうな者がいなかった。年齢的には問題無くとも、遥一との相性という点で。
そんな時に現れたのが、中学に上がったばかりの八重の孫、内藤 貢だった。だが勿論、遥一が気に入れば良いという問題でもない。
鳥谷家側の理想としては、遥一が中学に上がるまでの世話係は30~50代までの女性、その後からは歳上の男性を、と考えていたからだ。未だ義務教育中の男子中学生の貢を世話係に付けるのは、論外中の論外。貢の学業の妨げにもなるし、何より幼児の世話など荷が重かろう…と、遥一のお強請りは一度却下されかけた。

しかし。

「あの…お元気のあまってらっしゃる坊ちゃまの遊び相手を代わってもらえるだけでも、幾分ラクなのです。」

八重はそうボヤいた。

「お世話自体はもう赤ん坊のころのように手間がかかる訳ではございません。遥一坊ちゃまは賢くていらっしゃいますので。ですが、高い高いや飛行機ごっこを所望されましても、とてもお応えできません。学校から帰った貢が少しの間だけでも遊び相手になってくれたら、坊ちゃまの不満も解消されるのではないかと。」

祖母の八重は70代半ば。日常生活の世話は問題無くこなせているが、自分の足であちこち歩き回り始めた子供を追いかけるのには無理が生じていたのだ。しかも遥一は人一倍活発な子供だった為、八重の疲労は蓄積していく一方だった。しかし他に適当な人材が無く、従三家の人間が縁故の者を連れて来ても、遥一が気に入らず立ち消えになり困っていたところに、まさかのダークホースが現れた訳だ。しかもそれが、末の孫の貢だった事に驚きはしたが、嬉しさもあった。
中学一年生と若過ぎるきらいはあるが、同学年の少年達より体格も良く体力はある。今の内からサポートで仕事を覚えさせておけば、遥一が中学に上がっても貢で世話係を継続出来るのでは、と鳥谷家側も考えた。
しかし、それはあくまで貢本人が了承したらの話。あの年頃の少年が、幼子の世話係などという面倒な事を引き受ける訳がない…とは思いながらも、鳥谷家は当主の側仕えに就いている彼の父親を介して貢本人に打診を出したのだった。


「良いよ。やります。ばあちゃんも大変だろうし。」

鳥谷家からの打診にあっさりと頷いた貢に、説得にかかるつもりでいた父親は肩透かしを食らったような気持ちになった。

「…本当に良いのか?お前はまだ13だぞ。末の坊ちゃんのお世話係になれば、放課後はすぐにお邸だ。自分の時間は取れなくなるぞ?」

説得しようとは思っていたが、こうもあっさり了承されると逆に大丈夫かと思ってしまう。しかし貢はシレッと答えた。

「部活の勧誘を断るのも面倒だったし、これで口実ができた。」

小学校の頃から体格にも運動神経にも恵まれていた貢は、運動部からの勧誘が多かった。中学でも既に幾つかの部から声がかかっていて、どうしようかと決め兼ねているらしいのは知っていた。というのも、貢自身は打ち込みたいほど好きなスポーツは無く、勧誘を面倒臭いとしか思っていなかったからだ。
正直、気が乗らない運動部に所属するより、綺麗なお邸であの可愛い坊ちゃんの遊び相手になる方が良い。
その後、鳥谷家と内藤 貢との間で一応の契約が交わされたのだが、鳥谷の邸では珍しいオヤツも食事も出されたので、貢は概ね満足した。就業可能な年齢に達していない為、給料の名目では支払われないが、中学3年間にかかる費用の一切を鳥谷家で支払うという措置が取られる事になった。
高校は、鳥谷家の勧めで有名校に進学。小学校に上がった遥一のボディガード業務もこなせるようになる為に柔術の師範も付けられ、鳥谷家の邸内の道場で訓練を受けた。年々美しく成長していく遥一を守る為には力をつけなければならない。まだほんの6歳だが、遥一の美しさと賢さは突出している。何よりアルファ家系の鳥谷家だ。溺愛される末息子もきっとアルファなのだろうと、そう目されていた。
貢はそんな遥一を誠心誠意守り仕えたし、遥一の方も貢を兄のように慕っていた。中学を卒業するまでの遥一は、今とは全く違った。多少金持ちの末っ子特有のワガママさはあるものの、素直で優しいところも持っている、可愛らしい少年だったのだ。
それが少しずつ変わってしまったのは、高校入学前に受けた検査の後。遥一のバース性が確定した後からの事だった。
おおかたの予想を裏切り、遥一の判定欄に記されていたのは、Ω。

誰よりも遥一自身が混乱していた。彼はずっと自身がアルファだと信じていた。血筋も、あらゆる特徴も、彼をアルファだと告げていた筈だ。まさか今更、それら全てに裏切られるとは…。
傍で見ている貢の胸が締め付けられる程に、遥一の悲嘆と絶望は深く、貢も散々当たり散らされた。それでも、余計に遥一を支えていかねばと、その決意を深めていった。

そしてそんな貢と遥一の関係も、それを境にまた変化していく。







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