運命だとか、番とか、俺には関係ないけれど

Q矢(Q.➽)

文字の大きさ
79 / 88

79 2人目のアルファ

しおりを挟む

当時から斗真には、恋人が出来るとその相手を最優先にする傾向があった。友人を大切にしなくなる訳ではないが、恋人が嫌がれば友人と会う事を控えたし、限られた時間も自ら全て恋人の為にあてた。
自然、恋人のいる期間は友人達とはどうしても疎遠気味になる。
だが、恋人を大切にする事自体は悪い事ではない。もし月岡が斗真と恋人になれたなら、やはり自分を最優先してくれたなら嬉しいと思うだろう。そう思えば、恋人優先の結果疎遠にされても、斗真や恋人を恨む気にはなれなかった。
世の中には、恋愛体質という言葉がある。斗真は過去のトラウマから、恋愛に対しては一歩引いたスタンスでいるようだが、月岡から見れば十分に恋愛体質だ。そうでなければ、いくら熱心に口説かれたからといって、最大のトラウマ要因であるアルファやオメガの告白を受け入れたりしない。一歩引いているのは事実だろうが、性格的に押しに弱く絆され易い。
そんな風に斗真を客観的に分析出来るにも関わらず、何故あと一歩の勇気が出せないのだろう、と思う。
本気過ぎて、僅かにでも引かれる事に臆病な自分が疎ましかった。


新たに斗真の恋人になった鷺宮という先輩アルファは強引な性格で、且つ嫉妬深く独占欲の強い…言わばアルファのステレオタイプのような男だった。そしてその性質をそのまま反映するように、付き合い始めて間も無く斗真の生活は彼に管理され始めた。それこそ、交友関係にも口を挟んできて、古くからの友人にも関わらずアルファというだけで、月岡は1番最初に撥ねられた。
大学の頃は斗真に恋人がいても、彼は月岡と同じマンションに住んでいて、恋人だった朝森自身も友人関係を左右する事を考えるような性格ではなかったから斗真の交友関係は保たれていた。しかし就職して斗真が部屋を探し引越して、鷺宮と付き合い始めてからは、会うどころか、通話、果てはLIMEでの遣り取りすら難しくなってしまい、じきに連絡が取れなくなった。
鷺宮はまるで、オメガに対するようにベータの斗真を囲い始めたのだ。
それは高校の頃に付き合っていた慶太の比ではなく、初めての状況に月岡の心には焦燥が生まれた。

あまりの連絡の無さに、まさか監禁でもされているのではと心配になり、斗真の会社の近くまで様子を見に行った月岡が目にしたのは…仲睦まじく揃って会社を出てくる斗真と恋人の鷺宮の姿だった。通りを隔てて立ち竦む月岡の存在に気づく事も無く、ほんの5、6メートル先で2人は笑っていた。しかしたったそれだけの距離が、今の月岡にはまるでスクリーンの向こうの別世界のように遠い。

(良かった、元気そうだ…)

 自分の心配が杞憂であった事に安堵する反面、胸の中は鉛でも飲み込んだように重苦しくなる。
今この瞬間、あの男といて笑顔を浮かべている斗真の心に月岡は存在しないのだろう。鷺宮以外の人間と連絡を取る手段を奪われてしまった事を、斗真は何とも思っていないのだろうか。5、6年越しの親友も、所詮はその他大勢と同じ扱いなのだと思うと、虚しさに襲われた。
あまりに拗らせ過ぎて気持ちを伝える事が出来ないから、良き友人として彼の幸せを願い、見守ろうと割り切った筈だった。だが、その友人の中でさえ、自分は特別にはなれなかったらしい。
2人から目を逸らし、月岡は帰路に着いた。


最寄り駅から乗り込んだ電車の中、たまたま空いた座席に座った月岡は、スマホを開いた。画面をスクロールしながら、頭の中には先ほど見た2人の姿が浮かんだ。
表示したのは斗真とのトーク画面。一昨夜送った月岡の送信に既読は付いているが、返信は無い。それどころか斗真からのメッセージは2週間前のものが最後だった。
既読は付くからブロックはされていないのだろう。しかしメッセージを入れても、間隔を開けて返ってくるのは、申し訳なさそうなごく短い言葉だけだ。きっと鷺宮にチェックされているからだろう。月岡や他の友人達からのメッセージに、独占欲の強い鷺宮は良い顔をしないに違いなく、何なら不機嫌になるのかもしれない。ブロックまではさせていないのは、流石にそこまですると斗真に嫌われると思っているからだろうか。
はぁ、と長い吐息が漏れる。同時に、それならもう良いか、と諦めのような感情が胸を過った。

子供でもあるまいし、友人が連絡をくれないからと拗ねても仕方がない。斗真にも、自分の幸せを守る為の事情があるのだ。

斗真は笑顔だった。相手がどんな人間であれ、今の彼は幸せなのだろう。アルファである鷺宮の束縛は、愛情の証だ。斗真は愛されている。愛されているから、ベータであるにも関わらずあれほどまでに囲い込まれているのだ。そして、そうする鷺宮の気持ちが月岡にはよくわかってしまった。おそらく月岡だってそうする、斗真が恋人ならば。
第一、斗真がその状況を受け入れているのだから、そこに月岡の心配や連絡は余計なお世話なのだろう。

ならばもう、今は変に接触せずにいよう。

何かあれば、きっと斗真の方から連絡してくる筈だ。もしその時に月岡が必要なら力になってやれば良い。それまでこちらから連絡をするのは止めよう。

そう気持ちの整理を付け、月岡は斗真への連絡を止めた。すると、今度は斗真の方から定期的に近況を知らせるメッセージが届くようになった。

『なかなか連絡できなくてごめん。俺は元気でやってる。実仁も体には気をつけて。』

それは毎回同じような文面の短いものだったが、忘れられていない事が嬉しく、月岡もやはり毎回同じような短い返事を返した。

『変わりないようで安心した。体に気をつけて、鷺宮さんと仲良く。』

そして、すぐに付く既読にホッとする。

互いの安否を気遣うだけのそんな遣り取りはその後暫く続いたが、次に月岡が斗真に会ったのは約一年後の事だ。

憔悴した様子の電話の声に、慌てて車で迎えに行ったあの日。
久しぶりに会った親友は、見る影も無く窶れていた。






しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

【if/番外編】昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、夢の中で僕と結婚する

子犬一 はぁて
BL
※本作は「昔『結婚しよう』と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する」のif(番外編)です。    僕と幼馴染が結婚した「夢」を見た受けの話。 ずっと好きだった幼馴染が女性と結婚した夜に見た僕の夢──それは幼馴染と僕が結婚するもしもの世界。  想うだけなら許されるかな。  夢の中でだけでも救われたかった僕の話。

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

嫁がされたと思ったら放置されたので、好きに暮らします。だから今さら構わないでください、辺境伯さま

中洲める
BL
錬金術をこよなく愛する転生者アッシュ・クロイツ。 両親の死をきっかけにクロイツ男爵領を乗っ取った叔父は、正統な後継者の僕を邪魔に思い取引相手の辺境伯へ婚約者として押し付けた。 故郷を追い出された僕が向かった先辺境グラフィカ領は、なんと薬草の楽園!!! 様々な種類の薬草が植えられた広い畑に、たくさんの未知の素材! 僕の錬金術師スイッチが入りテンションMAX! ワクワクした気持ちで屋敷に向かうと初対面を果たした辺境伯婚約者オリバーは、「忙しいから君に構ってる暇はない。好きにしろ」と、顔も上げずに冷たく言い放つ。 うむ、好きにしていいなら好きにさせて貰おうじゃないか! 僕は屋敷を飛び出し、素材豊富なこの土地で大好きな錬金術の腕を思い切り奮う。 そうしてニ年後。 領地でいい薬を作ると評判の錬金術師となった僕と辺境伯オリバーは再び対面する。 え? 辺境伯様、僕に惚れたの? 今更でしょ。 関係ここからやり直し?できる? Rには*ついてます。 後半に色々あるので注意事項がある時は前書きに入れておきます。 ムーンライトにも同時投稿中

処理中です...