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81 本心
しおりを挟む全ての経緯を聞いた月岡は、またか、と思った。
また、斗真だけが…。
月岡だってアルファだが、慶太や鷺宮の葛藤を理解出来るようでいてわかりたくもないと思うのは、未だに斗真以上に心惹かれる相手に出会った事が無いからだろうか。
運命の番のフェロモンとは、そんなにも本能を揺さぶり理性を蕩かしてしまうものなのか?嗅いだ一瞬で、今まで心の中を独占していた存在を忘れさせるほど?
静かにカップを啜る斗真を見つめながら、自分ならばどうだろう、と月岡は想像してみる。
自分なら……自分が斗真の恋人だとして、理性を奪われたままに斗真を裏切ってしまったとしたら…。
きっと命を絶つのでは、と思う。
生きて斗真ではない人間との未来を生きるなんて拷問だ。しかも斗真は、別れた相手との連絡を一切断つと傍で見てきて知っている。
連絡をブロックされ、顔も声も、文字ですら繋がれない。そんな日々は月岡の精神を確実に蝕むだろう。ならば生きていても仕方ないと、自分なら結論付けるだろうと思った。
斗真の人生から遮断されて未だに普通に暮らしている元の恋人達が、月岡には不思議なくらいだ。
ただ最近になって知人伝てに、斗真と月岡が大学進学で地元を出た後、慶太は精神を病んで一時的に入院していたと聞いた。
慶太は斗真と別れた後も、別れの原因となったオメガに執拗いく言い寄られていたらしい。最初は従兄弟共々慶太に締め上げられ、アルファの本気の怒りに距離を取っていたらしいが、半年も経つとほとぼりがさめたと言わんばかりに再び近づいたのだとか。
斗真が県外に出てしまい姿すら見られなくなった慶太は意気消沈し、更に相手のオメガを拒絶する為だったのか、抑制剤の過剰摂取もしていたらしい。それが自律神経を乱し、ストレスに拍車をかけたのだろう。だが、運命の番と思しき強烈なフェロモンに抗うにはそれくらいしなければ対抗できなかったのかもしれない。
慶太はあのオメガ女子高生を憎んでいた。例え運命でも、2度と関係など持ちたくはないのだろう。その気持ちは、月岡にもわかった。
そして退院後、慶太も他県に住む親戚を頼り高校を転校したという。それ以降の事は、地元の誰にも知らされていないという事だった。
慶太の顛末を思うと、やはり彼も本気で斗真を愛していたのだとわかり胸が痛む。
せめて新しい場所では心を癒せていれば良いと願った。
つまり、愛する人との別離はそれほどダメージのある事なのだ。それを思う時、月岡の中では斗真を失う選択肢など無い。
だからこそ、少しでも別れの可能性を感じる行動は取れなかった。
ありったけの勇気を振り絞って気持ちを告げて、もし斗真が頷いてくれなかったら…気不味くて元のような親友には戻れないだろう。そうなっても、月岡は生に未練を持てなくなると思う。
本気だからこそ、告げられない。
だが、これ以上他の人間に斗真を傷つけられるのを指を咥えて見ていて良いのか?という葛藤も確かにあるのだ。
「…なあ、斗真」
名を呼ぶと、斗真は顔を上げてまっすぐに月岡を見た。
「ん?」
「慶太の時に…もう特殊バースには関わらないって言ってただろ?俺もその方が良いと思った。
お前にはこれ以上泣いて欲しくないと思ったし、今でも思ってる。
斗真には、特殊バースの性質に左右されないところで恋愛して幸せになってくれたらと……。
なのに何故いつも、特殊バースを受け入れるんだ?普通にベータ同士で恋愛するよりリスクが高いのは身に染みてるだろ?」
静かに月岡の言葉に耳を傾けていた斗真は、目を伏せて少しの間考え込むようにしていたが、スッと目を上げて口を開いた。
「さね、ありがとな。」
「え?」
突然礼を言われて面食らう月岡に、斗真は続けた。
「雅紀の時も、翔太郎さんの時も、付き合う報告した時にさねはすごく心配してくれたよな。
俺が傷つくんじゃないかって、ほんとにすごく。」
「…ああ。」
「心配かけてるのわかってるんだ。実際、やっぱり言われたように別れる事になって、こうしてさねに甘えてるもんな。ごめん。でも、救われてる。ありがとう。さねが親友で良かった。」
「…そんなの当たり前だろ。」
親友、という言葉は嬉しいのに心臓がちくちくと針先で刺されたように痛い。けれどこの程度の痛み、斗真の傍に居られる対価としては安過ぎるくらいだ。…でも、やっぱり苦しい。
それでも月岡は、斗真の言葉に耳をそばだてる。
「前にも言ったけど、アルファとオメガに関わりたくないと思ってるのは本当なんだ。でも、何なんだろうな、同じベータよりも絶対数が少ない筈の特殊バース性にやたらと縁がある気がする。」
聞きながら、否定できないなと思う。事実、アルファである月岡自身が出会った時から斗真に惹かれていた事を考えれば。
「特殊バースの人ってさ、ベータの人より愛情表現が熱烈なんだよ。一生懸命ってのかな。とにかく、本当にこの世界で俺だけって勢いで好意を示してくれる。だから、距離を取って気をつけてるつもりでも何時の間にか好きにさせられてる。絆されるってのかな。…まあ、俺がチョロいだけなんだろうけど。」
そう言って苦笑いする斗真。
だって、俺だって…!!と胸の中では血反吐を吐く程に叫んでいるのに、喉に石でも詰まったようにそれらは唇から出たりはしなかった。
「好きになり過ぎるなって自分に言い聞かせて、何時でも退けるようにしてるつもりではあるんだ。俺だって慶太の時みたいに傷つきたい訳じゃないから。でも…、」
「…でも?」
「どこかで信じたいのかもしれない。
今度の相手は、運命とか、そんな相手が現れても……俺を選んでくれるんじゃないかって。そんな相手が現れたら、俺も全力で愛を返せるかもって、期待してるのか、な…。」
「そう、か…。」
「いや、うん。本能に抵抗しろなんて無茶だよな。運命なら運命同士でくっつくのが1番良いのに、何言ってんだろ、俺。ははっ」
変な事を言った、忘れてくれと儚げに笑う斗真に、月岡は頷く事しか出来なかった。
ただ、斗真も、誰かを。
自分の全てを賭けて愛せる誰かを、強く強く求めているのだと知った。
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