運命は意地悪で、それでも貴方が恋しくて

Q矢(Q.➽)

文字の大きさ
1 / 7

1 壁

しおりを挟む



その日は空の高くなってきた、秋晴れの日だった。

雑踏をしなやかに泳ぐように抜け、彼は突然 現れた。

そして僕は、その人混みの中から彼が現れるのを、知っていた。

彼は迷いの無い足取りで僕の前に立ち、僅かに高い目線からこちらを見つめてきた。
その時、その形良い 美しい唇から放たれた声を、言葉を、僕は一生忘れないだろう。
期待に満ちた、美しいテノール。




「運命(俺)を、受け入れてくれますか?」


一目会う瞬間を迎える何分も前から、僕も彼もお互いを認識していた。
その、惹かれ合う芳香によって。体中の、血のざわめきによって。
そして、探しあてたのだ。
この、幾千幾万もの人いきれの中ですら、それを見失わず。

そして、出会えた。
誰とも取り違わず、間違わず。
嬉しかった。体中が歓喜に震え、そして底無しに絶望した。
やはり、彼だったのかと。
どうして、彼なのかと。


そして彼の問いに、僕は答えた。



「いいえ。」


瞬間、彼の顔からは喜色が消え、哀しげに歪められた表情がのった。

それは見ている僕の心に深く刺さった。けれど、返答は決めていた。覆らない。

出会えた。一目で愛した。彼の瞳に僕への愛が灯るのも見られた。

それだけで、十分だ。


「みつけてくれて、嬉しかった。ありがとう。

他に良い番をみつけて下さい。お元気で。」



僕は、彼と結ばれる訳にはいかなかった。


どれだけこの心と体が、彼を呼び求めようとも。




糸井 波緒、18歳、男性。

そして、Ω。



この日僕は、運命の番に出会い、そして別れを告げた。







…と、そこ迄なら綺麗な別れだったのだが、そうは問屋が卸さなかった。

僕は、αの執念深さと独占欲を甘く見ていたのだ。




僕は現在高3。本来なら受験生ではあるのだが、真面目なだけが取り柄だったのが幸いしてか、そこそこの大学への推薦入学が見込めるとお墨付きをいただいている。
Ωの生徒は定期的に訪れる発情期や安定しないホルモンバランスの関係で、最高学府への進学を諦める者も多い中、僕は幸運な部類だと言えるだろう。
Ωは決して、他のバースより能力的に劣る訳では無い。
只、他より明らかに劣る体力面と脆弱な体、独特の匂いを発する事や発情期に左右される事が足枷になり、何をするにも気力が殺がれていってしまうのだ。
よほどのメンタルの強さを持っていなければ、モチベーションを維持出来ず、それなりの所で諦めてしまう。
だから多くは、高校を卒業すると、恋人や、見合いで会った相手と番契約をして家庭に入る。
番を見つけずΩに理解ある会社に就職したり、フリーターになったりもいて、身の振り方は様々だ。
僕の家は、典型的なα家系で、父もα、母はΩ。
だから本来なら9割がたはαが産まれる筈なのに、僕はその9割から漏れた不運な人間だった。生まれながらに人生ハズレくじ。
因みに五歳下に生まれた妹はαだった。

そんな感じで90%の賭けに外れた僕だけど、家庭運には恵まれた。
父と母は傍目に見ても仲が良く、愛情かけて育ててくれたし、妹も可愛い。
親族内でもΩが生まれる事は少ないから、可愛がってもらえた。経済的にも困った事は無いし、抑制剤の効きも悪くない。
容姿だってそれなりだと思う。少なくともブサイクとか言われた事は無い。
Ωにしちゃ全般的に恵まれている方だと思う。不満は無い。

たったひとつ、知ってしまった秘密を除いては。




僕と、愛しい運命の彼の間には、越えてはいけない壁がある。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

オメガの復讐

riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。 しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。 とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

欠陥αは運命を追う

豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」 従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。 けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。 ※自己解釈・自己設定有り ※R指定はほぼ無し ※アルファ(攻め)視点

【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない

天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。 ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。 運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった―――― ※他サイトにも掲載中 ★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★  「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」  が、レジーナブックスさまより発売中です。  どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

大好きな婚約者を僕から自由にしてあげようと思った

こたま
BL
オメガの岡山智晴(ちはる)には婚約者がいる。祖父が友人同士であるアルファの香川大輝(だいき)だ。格好良くて優しい大輝には祖父同士が勝手に決めた相手より、自らで選んだ人と幸せになって欲しい。自分との婚約から解放して自由にしてあげようと思ったのだが…。ハッピーエンドオメガバースBLです。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

運命よりも先に、愛してしまった

AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。 しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、 2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。 その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。

処理中です...