30 / 101
30 ミズキ、爆弾投下
しおりを挟む「え、それだけ?」
「?」
食事を再開したのが悪かったのだろうか。ミズキにそんな事を言われ、俺は再びご尊顔を拝する事になった。
…また、すごい怪訝な顔するじゃん…。
「いや、ユイ君のお母さんが昔好きだったって本の話はなかなか興味深かったけどさ…。」
「そうか?良かった。」
「その中に僕みたいに顔隠してるってパターンが存在するってのも、へえって感じだけど…。」
「うん、俺もへえって思ったわ。」
「あ、やっぱり?
……いやそこじゃじゃなくて。」
ミズキはまどろっこしくなったのか、とうとう核心を突いてきた。
「僕が店のルール違反を犯して就業してた事とか、何も言わないの?」
その言葉に、今度は俺が怪訝な顔をせざるを得ない。
「いや、別に。店の面接通ってんだろ?」
「...まあ。」
「なら俺がどうこう言う事でもないし。」
変な事を聞く奴だな、と思いながらもおにぎり一つを食べ切って、麦茶を飲んだ。さっきより少し温んできたけど、まだまだ十分冷たくて喉が潤う。
実際、本当にその辺のところは俺的にはどうでも良かった。ミズキが店の面接に受かっている以上、俺が介入する問題ではないと思う。採用担当の最終責任者である鴻池さんには勿論俺も面接で会った事はあるけど、素人に出し抜かれるようなボンクラとは程遠い鋭さを持つ人だったし、オーナーは会う度にニコニコ柔和で如才無い感じの人だけど腹の奥では算盤弾いてるんだろうなって人だ。
ぼやっとしてる俺や店の平スタッフ達はともかく、あの2人が素人の稚拙な変装に誤魔化されるとは思えない。多分、その時のミズキの事情を汲んで、敢えて見逃したんだろう。
この時点迄、俺はそう、好意的に考えていた。だがこの後話は思わぬ方向へ。
そしてミズキは、その口火を切った。
「…前に、学費稼ぐ為にって話した事あったじゃん?」
「うん。でも学費や生活費以外にも色々ありそうだなとは思ってた。」
じゃなきゃあんなに鬼出勤しないだろう。ナンバーに入ってるのにあの出勤予定は、もしかしてミズキが家族の生活を支えてるのかと勘繰ってしまうものだった。下手すると、それ以上の事もあるんじゃないかと。つまり、借金、とか。
でもそんな事、聞けないだろ。
俺は2個目のおにぎりを頬張りながら、チラッとミズキを見た。目が合った。
ミズキの大きな茶色の瞳は真っ直ぐに俺を見ていた。
「ごめんね。ほんとは、違うんだ」
「違う?何が?」
「僕、別に金に困ってないんだ。」
「えっ?」
唐突に予測してなかった言葉が。何それ?
「実は店の出勤スケジュールも殆どフェイクで。実際現場の営業に出てるのは週一くらいなんだ。」
「は?」
思いもよらぬビックリ情報を小分けに聞かされ、狐につままれたような気持ちになる俺。申し訳無さげな表情で話すミズキ。
「実は僕、正規のキャストでも無いんだ。」
「…はあ??」
「嘘ついててごめんね。」
「……いや、は、え?ちょっと待ってくれな...。」
情報過多で頭の中がこんがらがってきた。
俺はおにぎりを胡座をかいた太腿の上に載せ、空を見上げて目を閉じ、情報の処理に入った。
――2人の間に数十秒間の沈黙が流れた。
その間にも耳に入ってくる、近いのか遠いのかよくわからない蝉の声。じわじわと背中を伝う汗。
そして、心を落ち着けた俺はミズキに顔を向けて聞いた。
「えーと…。聞いて良い?
それ、何の為に?」
ミズキは困ったように眉を下げて、もう一度『ごめんね』と言ってから話し始めた。
「僕、あの店(愛でる会)の元オーナーの息子なんだ。っても三男で、上の兄2人とは少し歳が離れてるんだけど。」
はい。多分今日イチの爆弾投下されたんじゃないのかコレ。
まさかさっき暴露された数々の事実よりも破壊力あるヤツ来ると思わなかった。
元オーナーの息子って...。
「何で、そのオーナーの息子が何で…?」
そう問い返すのがやっとだ。
ミズキは済まなそうなのに、けれど何処か晴れ晴れとした顔で答える。
「ウチの店って親会社があるの、知ってる?」
「ああ、うん。刈谷コーポレーションってとこだろ?ここ10年くらいで急成長してるっていう...。...あ、刈谷...。」
間抜けな事に俺はその時初めて、親会社のとミズキの名字が同じ事に気づいた。
ミズキはこくりと頷いて、また話し出す。
「そう。元々は街の小さな会社だったのが、父が思いつきでこの店を出店してからはその顧客達との繋がりもあって急成長したんだよ。」
「そう、だったんだ...そこ迄は知らなかった。」
なるほど。急成長の裏にはそんな理由が。
頷いている俺に、ミズキは続けた。
18
あなたにおすすめの小説
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
僕はお別れしたつもりでした
まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!!
親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる