超高級会員制レンタルクラブ・『普通男子を愛でる会。』

Q矢(Q.➽)

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31 唸れない俺の回避スキル

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「まあね、そっちの会社の方は後継は既に長男の兄に決まってて、今のウチの店のオーナーは僕の二番目の兄なんだけど...。」

「道理で若いと思った…。」

俺は何時も洒落たスーツを着て、何処かふわふわした自由人な雰囲気のオーナーの姿を脳裏に思い浮かべた。30前くらいで、ご多分に漏れずイケメンである。
そう言われてみれば、オーナーも色素の薄い髪色だった。あれは天然だったのか。それも含め、今目の前にいるミズキと似ているような気がする。

「上の兄が会社を継ぐから、本当は二番目の兄も入社してその補佐につくように言われたのに、それを拒否してね。父さんが趣味で始めたこっちの店の方が面白そうだからって、5年前に店のオーナー業務を半ば強引に継いじゃって。」

「オーナー…。確かにフリーダムな人だなとは思ってたけど…。」

只歩いてた俺にもナンパの如く声を掛けてきたからな、と納得する俺。
するとミズキは、小さく溜息を吐いた。

「フリーダムにも程があるったらないんだよ…。
今度は来年にはイタリア人のカノジョと結婚して向こうに住むって言い出して…。」

「アクティブ~…。」

「アクティブ~、じゃ済まされないよ。
ちい兄さんのフリーダムは、そのまま僕やおお兄さんに皺寄せとして来るんだからね…?」

ミズキは小さな可愛い顔を険しくして、頬をハムスターのように膨らませた。
いやお前、男ってわかってても可愛いな。
美形溢れる現代でも卓越して可愛い気がする。
愛でるなら断然そっちの筈なのに、俺みたいなのが持て囃される今の世の中、完全にバグってるわ。

膨れっ面を解除したミズキは続ける。

「だから次のオーナーとして僕に白羽の矢が立ったんだ。最初は乗り気じゃなかったんだけど、大学で見るユイ君がウチの店にいるって知って...。」

「ん?ああ、まあ同じ大学だからな。」

「それで、店を継いでも良いかなって思い始めて。」

いやなんで?

この数日で危機察知能力の高まりによるスルースキルが急成長した俺は、ミズキの言葉に若干危険な匂いを嗅ぎ取った。そんな俺は、間違えてもそこで聞き返したりなどしない。
スルーする事により回避できるフラグが、きっとある...。
そんな俺の脳内を他所に、ミズキは続ける。

「でも僕、あんまり業務内容理解してなくてさ。
きちんと現場を理解する為に週一で営業に出てみてるんだ。で、残りの日はちい兄さんに付いて店舗運営を教わってんの。だから一応、出勤スケジュールの日は丸っと嘘って訳じゃなくて、オーナー室で仕事してるはしてるんだよ。」

「...いや、うん。それはわかったけど...。次期オーナーがわざわざ大変だな...。」

なるほど、と思えなくもないが、一部首を傾げた俺。
そんな事迄オーナーが知る必要ってあるんだろうか?

「でも何で大学で迄顔隠してんの?」

するとミズキは、何故か色白の頬を少し赤くしながら言った。

「…その方がワンチャンあるかなって。」

「......うん?」

「ユイ君も店のホームページ見る事あるだろうなって。同じ店のキャストだってわかれば、認識され易くなるだろうし。」

「...あ、うん...。」

「それにさ、何ての?
同じ仕事の苦労を分かち合いたいって言うの?」

「......そっ...かあ。」

...何かまた妙な流れになってきたなとわかるが、敢えてスルー。

「でもいやに細かい設定迄作ってたよな、親父さんの失業やら、授業料やら。」

「他のキャストでそういう子がいるから拝借しただけ。どうせウチの店って、キャスト同士が接触する事ってほぼ無いでしょ?
僕らが同じ大学だったのは、たまたまの巡り合わせって言うか...?いや、必然の運命だったりして...。」

「へ、へえ...そう。」

やばい。本格的に無視出来ない感じになってきたなと思ってたら、急にミズキがふふっと笑った。それで、構えていた俺の心が少し解れる。

「僕さ、大学でユイ君を知った時から、ずっと仲良くなりたかったんだ。」

そう言って、形良い小さな口で天むすを食み出したミズキにホッとした。取り越し苦労だったか。どうやらミズキが俺に持っているのは、好意には違いないが友情のようだ。

「そっか。でも何で俺と?」

大丈夫そうな雰囲気だなと判断して、何気なさを装って聞いてみたら、ミズキの澄んだ目が俺を映した。
ちょっとドキッとするのはミズキがちょっと美少女めいた顔立ちだからだ。俺より身長ある癖にお前~。

ミズキの唇が動く。

「ユイ君は、カッコ良いから。」

「カッコ良い?俺が?」

意外な事を言われて驚いた。お客に可愛いとか言われる事はあるけど、ウチの顧客は元々審美眼が狂ってるからこそのウチの客だからそこは良い。でもそんなお客達でもカッコ良いとはあんまり言ってはくれない。ミズキって変わってるな。
俺はまじまじとミズキを見つめ返す。

「ユイ君は、何時も一人でも堂々としてて、どんなにたくさんの視線にも動じずに前だけ見て颯爽と歩くから。」

いや、ぼっちなだけなんだが...なんて茶々を入れられる雰囲気じゃない。
ミズキは大真面目のようだった。

「だから僕、そんなユイ君に憧れて、見てる内に好きになってた。」

「......お、おう...?」

「好きです、ユイ君。」


...あれ...?回避スキルは?






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