超高級会員制レンタルクラブ・『普通男子を愛でる会。』

Q矢(Q.➽)

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40 母の知る事実

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「それにしても珍しいわよね、唯斗が友達だなんて。
ご飯、キッチンにあるからあっためて食べな。」

「うん、ありがと。」

食べるけど、手を洗ってから一旦部屋に荷物を置いてきてから…。そう考えて歩き出した時、ふと思いついて足を止めた。問いかけてみたのはほんの軽い気持ちだった。

「母さん、俺が幼稚園の時にさ、一度家に来た子の事、覚えてる?あっくんって言う…。」


テレビから俺に視線を向けた母さんは、すごく驚いたような顔をしていた。


「アンタがそんな事を聞いて来るなんて…。ほんとどういう風の吹き回し?もしかしてアンタも熱中症になりかけてんじゃないでしょうね。」

息子に向かってなんつー言い草だ、と思ったが、実際周囲に無関心に生きてきた俺は昔の事を気にした事も、同級生の誰かを覚えててそれを口にするなんて事もなかった。それは事実だから、母さんの驚きは当然のものと言えなくもない。ないけど、だな…。
いやまあそれは今は良い。

「…覚えてんの?」

「あっくんて、三田さんとこの息子さんでしょ?三丁目の。」

「うん。」

覚えてた。そうか、あの辺って三丁目になるのか。此処が五丁目だからマジで近所だ。そこに戻って来てもう1年以上経つというのに、駅で会った事も近所で遭遇した事も無かったのは何故なんだ。一年の頃も二年の今も、一限から被ってる事は結構あるのにニアミスの1つもなかったのは不自然な気もする。

(ま…交友関係とか活動範囲は違うからそんなもんなのかもな…。)

自分を納得させて、母さんに聞いた。

「何で覚えてんの?チビだった俺はともかく、母さんも仕事忙しくて俺の幼稚園事情にそんなにタッチしてなかったのかと思ってたんだけど。」

幼稚園の送り迎えだって祖父ちゃんの担当だったから、連絡帳の遣り取りくらいしかしてなかったように見えていた。だから純粋に不思議に思ってそう言うと、母さんは眉間を寄せた微妙に難しい表情を作って答えた。

「あっくんは、ちょっと色々気になる事があってねえ…。あの頃の三田さんの家はこの辺りではちょっとした噂だったし。」

「嫁姑関係?」

「まあ、それも…あ、一度話した事あるっけ?」

「…まあ。」

「大人の事情に挟まれて、子供が割りを食うなんてね。」

母さんはしみじみといった風に、当時を回想しているかのように言った。

「でもま、一番の理由はそういう事じゃなかったけどね。」

「…?そうなの?」

「だってあっくんとアンタ、誕生日同じ日じゃない。私、紗英さん…あっくんのお母さんと産院同じだったのよ。それで同じ日にお産になったから覚えてるのよね。
…あ、そう言えば来月じゃないの、誕生日。」

「えっ、同じ?!」

「そうよ。…あれ?アンタ確か、幼稚園でお誕生日会同じだったって言ってたじゃない。」

「…お、覚えてない…。」

俺は呆然とした。
すっかり忘れてたけど、言われてみれば確かに同じ月の誕生日の数人が纏めて祝われたのは薄ら記憶がある気が…。そうか。あの中にあっくんも居たのか。綺麗さっぱりそれも忘れてたし、日にち迄同じだったなんて当然の如く覚えてない。

「まー、わかってたけど犬猫以外にはほんとに薄情ねぇ、アンタって子は。
こんな子をあんなに慕ってたなんて、あっくんが可哀想だわ~。」

「…ぐっ…。」

俺だって前時代的な"普通"じゃなくて皆と同じように美形に生まれてたらもっと社交的になって人並みの交友関係を築けてたと思いますけど?というクレームは、口にしたら駄目なやつだから言わないが。マイノリティに生まれてしまったが故の幼子なりの防衛本能だという事は、普通が普通の時代に普通に生まれた母には、言ったってきっとわからないからだ。

そんな俺の気持ちを他所に、母さんは続ける。

「少しの間でも同じ産院で過ごしたから顔見知りではあったんだけど、まさか引越しちゃう迄揉めてたなんてね。
あっくん、可哀想だったわよね。綺麗な顔した可愛い子だったから、きっと今頃はさぞかしイケメンになってるんだろうな~。」

「……。」

あ、母さんもあっくんがあの家に戻ってる事知らないのか。そりゃそうか。普段仕事だし、ご近所との付き合いは祖父ちゃんの担当だ。通勤で使う訳でもない、普段通る事も無い道沿いにある家の事なんて知らないよな。そう思ってたら、今迄黙って会話を聞いていた祖父ちゃんが口を開いた。

「三田さんの息子、住んどるだろうが。」

「えっ?」

「会う度に挨拶してくるぞ。同じ学校行って仲良くしてるらしいじゃないか。」

「そうなの?唯斗。」

何故か少し興奮している母さんに振られて、俺は頷いた。

「…今日、熱中症で倒れたのも三…あっくんで…。」

と答えると、母さんが言った。

「何で早くそれを言わないのよ!!
ちょっと、アンタあっくん1人で置いてきたの?!」

「そりゃ、あっくん一人暮らしなんだし…。」

「可哀想でしょ!!」

「え、ええぇ…?」

何で母さんはこんなに興奮してるんだ…。

「あっくんのご飯はどうしたのよ?」

「え?炊飯器で粥を作って、梅干しのっけたら全部食べてたよ。」

「あ、そう。アンタにしちゃ上出来よ。よくやったわ。」

「あ、うん…。」

何か久々に会話したのにこの言いよう…。母さん、やっぱりイケメンの息子が欲しかったの?



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