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55 キャストのお仕事 1
しおりを挟む「三田はさ。
俺がしてる仕事について、誰から聞いてどれくらい知ってる?」
そう聞いた俺の脳内には、以前、『何人もの金持ち男転がしてるのに…。』と言った三田の言葉が蘇っている。その言葉がずっと引っかかっていた。
未だ学生の身分の三田が何故、クラブの情報を知っているのか。
ウチの店は、ある程度の社会的地位と財力を擁した男性しか顧客対象にしていない。勧誘の為の情報の共有だって、みだりに許されているものじゃない。キャストとの詳細な遣り取りなんかは特にそうだ。
口が固いかどうかは、キャスト・顧客、共に求められる最低限の部分だった。
勿論俺だって、これから三田に話す上でも必要以上の…例えば、顧客の名前や詳細は明かさない。ホームページにしたって検索避けがされてるし、関係者に知らされるパス無しでは入れない。早々一般人の目に触れるものじゃないのだ。
では何故、三田は店の存在を知っているのか。
俺が三田の顔をじっと見つめながら質問の答えを待っていると、三田は話し始めた。
「母方に、10歳上の従兄弟が居るんだ、爽兄って呼んでる。引っ越してから家が近くなって、俺は兄弟がいないからよく面倒を見てもらった。その従兄弟のお陰で、人との付き合い方も何とか覚えられた。」
「そうだったのか。」
良かった、向こうで三田を気に掛けてくれる人が居て、と思う反面、なるほど今の三田の仕上がりはその従兄弟の影響が多大にあるのかと思うと、ちょっとイラッとした。いや、カッコ良いけど。
「…で、年末年始に実家に帰省してその爽兄に会った時、話してる途中で爽兄のスマホが鳴ったんだ。」
「ふん、で?」
「で、横から画面が見えたから、それ何?って覗いたら、ご予約受け付けましたって文字と日時が見えてさ。」
「…あ、あぁ~…。」
何か見えてきたぞ~。
「それで、何の予約?って聞いてみたら、最近紹介されて行き始めた店の予約だって教えてくれて…。」
「…なるほどね。」
「あ、言っておくけど、爽兄には『誰にも言うなよ。』って口止めはされたからな。あっくんは関係者だから話してるだけで、他の奴には話してないから。」
慌てて爽兄さんの行為に対してフォローを入れる三田。律儀だな。
「あー、うん。わかってる、大丈夫。」
話したって"普通"の男しかキャストに居ない特殊な店になんか、その辺の学生は興味なんか示さないだろうけど、と思いながらも頷く。
その爽兄さんは、一応ちゃんと店の規約は守っているんだろう。只、仲の良い従兄弟の三田にだから信用して話した、そんな所か。
「で、店の名前とか聞いて、ホームページに載ってる爽兄が呼んでるって子の画像とか見せてもらって。でも、最初に本当に指名したかった子は競争率がバカ高くて諦めたって話になってさ。今呼んでる子は大体何時でも予約取れて、性格も合うからお気に入りなんだって話してて。」
「…なるほど。」
少なくとも俺の顧客ではなさそうでホッとする。しかし、ほんとに世の中には正気と思えないくらい奇特な金持ちがいるよな…。何故にそんなにも"普通"に拘る…。
「で、どの子って聞いたら、ズラッて。NO.1の下の顔見た時、死ぬほどびっくりしたかんね。」
「あー…なる。それはごめん、びっくりさせて。」
俺は顎に手を当てて、だよな~と頷いた。
そりゃ、こんな扁平な顔の冴えない男がNO.1にいたら普通びっくりするよな。しかもそれが俺だったとかな。俺だってめちゃくちゃ不思議だもん。あんだけ普通を集めた中で何故よりによって俺…って。こんなのに惜しげも無くはたかれる大枚が捨て金としか思えない。しかし将来的にはちゃんと生き金として役立てていくつもりだから安心して欲しいでござる。
「まあ、俺が店に勤めてるのを知った経緯はわかった。」
何処かでそれぞれ違う客と居るのを何度も見られたのかと思っていたけど、種を明かしてみれば、何の事は無い。情報源は単なる身内だったのだ。
いや、それだって本来は褒められた事ではないんだけどな。学生の従兄弟に話しちゃうとか。三田が爽兄さんとやらの信用に値しない馬鹿だったら吹聴しまくってただろう。
それにしても、ウチの顧客が親類にいるなんて。知ってはいたけど、やはり三田はあちら側の人間なんだなあと思う。
あちら側…つまり、一ノ谷さんや黒川さん達のような、セレブ側の。
…と、それはさて置き。
「じゃあ、ウチの店ではどんなサービスをするのかも聞いたのか?」
それが一番の核心部分だ。
俺は三田の目を真っ直ぐ見つめた。
三田は少したじろいだように一度目を逸らしたが、思い直したように俺に視線を戻した。
「…風俗じゃないから原則としては体の関係は無し。でもキャストによってサービスの許容範囲は違う…って。」
「うん、その通り。で、従兄弟さんは?」
「……抱いてる、って、その時は言ってた。」
「あっちゃー…。」
あまり売り上げの芳しくないキャストだと、そういう営業をする事もあるらしい。または、単純にお客を好きになってしまっても。まあ、ウチの店の顧客はイケメンスパダリ揃いと言えばそうだから、同性でも心を動かされる事はあるだろう。俺だって…。
しかしこうもハッキリ体の関係を示唆される発言を聞いてしまうと、何となく気不味い。
まあ、俺だって一線を越えてないってだけで、他人から見りゃ似たようなものかもしれないな…。
と自己嫌悪に陥りかけていたら、三田は思いがけない事を言った。
「でもその後直ぐに告白して店を辞めさせたって。」
「へ?辞めさせた?」
「なんか、抱いてる内に恋愛感情が芽生えちゃったみたいで…。」
「…ミイラ取りがミイラになっちゃったか~。」
まあ、本人同士が良いのなら、それはそれで良いのだが。
実はお客とそういう関係になって辞めるキャストは時々居るらしい。けれど、いざ自分だけのものになったらお客の熱が冷めたりして捨てられて、出戻りしてきたキャストも居たってのも聞くし、心配ではある。
三田の血縁者がそんなカスだとは思いたくないから、どうかその元キャストを幸せにしてやってくれと願うばかりだ。
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