超高級会員制レンタルクラブ・『普通男子を愛でる会。』

Q矢(Q.➽)

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61 セレブにはわからない苦労

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「な、なっ、にを…。」

今更驚愕を誤魔化すように、俺から目を逸らしわかり易くテンパる男鹿。
いや、モロバレだから。
恋愛偏差値3くらいの俺でも流石にわかるから。

「好きならさっさと告ったら良いじゃないですか。一ノ谷さんの見えないとこで小細工なんかせずに。」

「す、好きって…。俺はただ…。」

「そういうの、もういいんで。あ、ちょっと失礼。」

俺はおもむろに立ち上がり、注文カウンターへ歩いた。ちょうど客が途切れてて、壁に掛かっていた広告の抹茶フラペチーノに惹かれていたからだ。

抹茶フラペチーノを手に席に戻ると、男鹿は信じられないという顔で俺を見た。無表情だったあの頃のアンタは何処へ。

「…言えば買ってきてやったのに。」

「アンタに奢られる義理はございません。」

そして、次のドリンクが必要かも聞かずに自分の分だけ買いに行ったのも、男鹿が俺のお客でも無く、友人でも無く、そんな彼とこの先も馴れ合う気は無いからだ。しかもつまらない嫉妬だかで俺の貴重なオフを台無しにしてくれた罪は重い。でも客じゃないから金は取らない。よって気遣い不要と判断したのだ。
だけど、もう少し此奴に言ってやりたい事があって追加ドリンクを購入した。

「男鹿…さんも、追加買ってきたいなら、どうぞ?」

危うく呼び捨てにしかけたのを誤魔化しながらそう言うと、男鹿は一瞬考えて席を立ち、またコーヒーを買って戻ってきた。
好きだなコーヒー。

そうして男鹿が落ち着くのを待って、俺は口を開いた。

「一ノ谷さんがポッと出の俺に惹かれたのは、寂しかったからだと思います。」

「寂しかった?」

「男鹿さんと一ノ谷さんも、最初はお互いボッチだったから仲良くなったんでしょ?」

「まあ、取っ掛りはそうだったかもしれない。」

「俺とも同じですよ。言っちゃ何ですが、俺ってこうでしょ?一ノ谷さんとは違う理由ですけど、物心ついてからずっと周りに友達と呼べる人はいませんでした。ここ最近、やっと一人友達らしき人が出来たかな。」

思い浮かんだのはミズキの顔だ。友達…友達、で良いんだよな?
三田は……、三田とはもう、友達ですら無理だろう。俺は彼奴を傷つけたんだし…と、今朝の三田の泣きそうな顔を思い出してまた気分が落ちた。
持ち直したり落ちたりを繰り返して、最近忙しいな俺のメンタルは。

「…"普通"って、人に囲まれるもんじゃないのか?」

「囲まれてるの見た事あります?」

「……どうだったかな。」

男鹿は腕を上げ組み、考えているようだった。男鹿は多分、"普通"に興味の無い人間なんだろう。

「多分、一人でいる子の方が多いと思いますよ。俺達みたいな人間って、珍種扱いで狙われ易いんで用心するようにって親に口酸っぱく言われるんです。
どうやら小さい内ほど愛好家が多いみたいで。」

運良く金持ちの家に生まれたらSPとか雇えるみたいなんですけどね、と付け加えると、男鹿が息を詰めたのがわかった。
まあ普通、考える事なんかないよな、そんな事。

"普通"の子供が誘拐される場合、身代金目的なんてほぼ0だ。受け渡しのリスクより、金持ちの好事家に売り渡す方が何倍もの高額を稼げるからだ。そんな手段で連れて来られた子供を買い取るのなんて、当然モラルの欠如した変態しかいないから、その先は言わずもがな。中にはコレクター体質で変態なりにコレクションとして大切にされる場合もあったらしく、誘拐されて10年後に警察に踏み込まれて無傷で救出された事もあったらしいが、それはレアケース。性奴隷で殺されない場合もあるけれど、それをラッキーとも言えないし、スナッフフィルムの主演をキメた後でバラバラ死体で発見されてニュースになった事件も一度や二度じゃない。そしてその被害に遭っているのは、殆どがセキュリティを雇う余裕の無い一般家庭の子供ばかりなのだ。
そして最悪な事に、そういった誘拐犯を逮捕してみると、その大概には被害者になった子供の同級生の親が関与していたりする。
自分の子供が"普通"の子供と親しくなって家に遊びに来ているのを見て、親自身が血迷って欲を出す事もあれば、誘拐に協力しなければ自分の子供に危害を加えると脅迫されて犯人グループに協力させられる事もあるらしい。つまり、"普通の子供"と親しくなると、その子供は誘拐の為のおとりに使われる。
ワイドショーでもニュース特番の再現ドラマでも、そのパターンはよく出て来た。
その事を両親から言い含められる"普通"の子供は、クラスメイトと親しくなるのを避ける傾向があるし、逆にトラブルを避けたい美形勢の親達も、あまり普通の子に構わないように子供に言い含める。
だから"普通の子供"は孤立しがちなのだ。
学校の送迎にも原則家族が付く事が義務化されていて、それでも共働きだとそれが守れない家もあったりして、年に何度かは大人の手が回らないふとした隙を狙うようにして、子供達が犠牲になっている。GPSを埋め込むのが義務化されるかもなんて噂も聞くけど、判断力の備わってない子供に親や政府が勝手に…と吠える人権派と揉めてるって話だ。

そんな面倒な"普通"に生まれついてしまった俺だが、幸運な事に俺には超絶頼りになる祖父ちゃんがいた。
現役の頃にそんな事件に携わる機会が何度もあった祖父ちゃんは、どんだけ過保護と言われても俺が中学を卒業する迄の送迎を欠かさなかった。"普通の子供"の商品価値は、15歳を境に暴落すると言われているからだ。今、俺がこうして無事で育って此処にいるのは、祖父ちゃんを始めとした周囲の大人達のお陰だ。感謝してる。
でもそんな事なんて、下々の事に興味の無いセレブ層の耳目には入らないんだろうな。

抹茶フラペチーノに乗ったホイップクリームをスプーンでちまちま食べていると、視線を感じたので向かいの男鹿を見ると、何かすげー悲しげな顔で俺を見ていた。

「そんな苦労を…。
普通なのを良い事にそれを利用して稼いでるなんて思って申し訳なかった。」

「あれ?めっちゃdisってたんじゃん。」

わざわざ全部口に出す意味。

此奴め…。
















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