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60 一ノ谷さんの友人2
しおりを挟む男鹿は一ノ谷さんが幼稚舎から通う有名エスカレーター校に、中等部から外部受験で入学したんだとか。その時同じクラスに居た一ノ谷さんは、そりゃもう美少年だったらしい。が、一ノ谷家と言えば銀行も傘下に持つ日本有数の財閥系企業でセレブ中のセレブ。加えてあの容貌で、更には頭脳明晰だった事から、一ノ谷さんは虐めとは逆の意味で孤立していたらしい。それは一ノ谷さん本人からも聞いた事があるし、やっぱ他人事とは思えないけど、敬遠のされ方が明らかに違う種類なんだよなあ…。(卑屈)
まあ、それは良いとして。
クラスの委員長だった一ノ谷さんは遠巻きにされながらも、学校に不慣れな男鹿をよく助けてくれたそうな。多分、寂しさの裏返しだったのかもしれないと男鹿は言う。俺もそう思った。尊ばれ過ぎるのもアレだよな。珍獣扱いされてる俺が言うのもなんだけど。
男鹿は父親の会社の事業拡大の為に関西から関東に拠点を移した為に家族で移り住んで来たんだそうだ。関西弁独特のイントネーションに嫌悪感を抱かれ、怖い程整ってはいるが仏頂面でいる為に孤立した男鹿と、ぼっちスーパーセレブ一ノ谷さんは、性格は正反対なのに何故かとても気が合った。常に一緒に行動している内に自然と親しくなり、何時しか親友になったらしい。それから高等部を卒業する迄、2人は一緒だったのだが、一ノ谷さんはアメリカの大学に進み、男鹿は将来的に父親の事業の一部を担う為に、とある有名料理教育機関の本校のあるフランスへ行く事を半ば強制的に決められたのだという。そして2人は別れ別れに…。
背負ってるもんがデカいのも大変ですね。
そして料理学校を卒業した男鹿は、引き続きフランスの有名店にて修行。数年後帰国してからはオーナーとして出店して現在に至る。因みに強制的にフランスに行かせた父親とは帰国後絶賛親子喧嘩中との事で、その辺はちょっと微笑ましい。
店を出したら早速一ノ谷さんが駆けつけてくれて、再会が泣く程嬉しかったと、男鹿は無表情で言った。(ホントか?)
「それは…お疲れ様でした。そしておめでとうございます。」
「どうも。」
男鹿はコーヒーを啜りながら一言礼を言った。礼か?これ。
「せっかく商売軌道に乗せたと思ったら、ある日突然君を連れて来るようになって不思議だった。どういう関係なのか聞いてみても濁されるばかりで。」
「あー…まあ、でしょうね~。」
そりゃまあそうだ。悪戯にレンタルクラブから呼んだキャストだ、なんて言えないだろ。親友だからこそ知られたくない事もあるだろうし。
俺はスマホをチラ見しながらそう考えていた。
「アイツは昔からちょっと変わった奴だったし、好む物も変わってた。でもまさか、君みたいな珍…いや、"普通"の子を…。」
「あの、今珍獣って言いかけませんでした?」
「…いや。」
「そうですか。」
薄々わかってたけど、此奴やっぱり俺の事、そういう風に見てたんだな。
「ついこの間話してくれたんだ。将来的に君と結婚したいと考えているって。」
「あ~…いや、それは…。」
「聞いてる。プロポーズしただけで、返事は未だなんだってね。」
そう言った男鹿の顔からは無表情が消えて、酷く不快そうだった。眉根がだいぶ寄っている。
それを見ながら、俺はぬる甘くなったコーヒーの残りを飲み干した。
「でも彼奴がそこ迄考えている相手が、まさかレンタルクラブなんていかがわしい店の人間だとは思ってなかったよ。法外な金を巻き上げてるらしいじゃないか。」
ピクリ、と自分の左眉が吊り上がったのがわかった。は?
「…いかがわしい?何処でどうお調べになったのかは知りませんけど、ウチはそんな事言われるような類の店じゃありませんよ。風俗でもないですし。」
俺は男鹿を真っ直ぐに見てそう言ったが、男鹿も目を逸らそうとはしない。きゅっと細められた目には凄味がある。多分それはイケメンだから。俺が睨んだって、そんな迫力は出ない。
けれど逸らす訳にはいかなかった。
確かに俺がしてる仕事は世間適度には褒められた事じゃないんだろうが、実態も知らないような人間に貶められる筋合いは無い。お客は定められたサービスと料金に納得して支払ってくれている。それに、あのレンタル料を法外だと思うお客は、ウチの店の会員には居ない筈だ。
「…似たようなものだろう。金を取って呼ばれるなんて。」
苦々しそうにそう吐き捨てた男鹿に、俺は呆れた。
「あなた、あの一ノ谷さんが、男とのセックスを買う人だと思ってるんですか?本気ですか?」
「それは…。」
俺の問いに、男鹿が言葉に詰まった。
「一ノ谷さんには可愛がっていただいてます。接客業ですから多少の接触が無いとは言いません。でも、俺と一ノ谷さんはセックスしてはいませんし、俺は俺の目標があってこの仕事をしてるんです。
内側を何も知らないアンタにとやかく言われたく無いんですよね。」
淡々とそう言うと、眇められていた男鹿の目が見開かれた。レストランで顔を合わせても笑ってるか美味しかったですしか言わない俺が、ここ迄言い返すとは思ってなかったのかもしれない。だが、俺が大人しそうなのは見た目だけだ。言う事はハッキリ言う。そこがまた、敬遠されるとこな訳だが。
「アンタは俺を一ノ谷さんの金に集る虫くらいに思ってんでしょうけど、俺は一ノ谷さんに俺を呼んで下さいって言った事なんて無いですからね。自分から何かを望むなんて図々しい事をした事もありません。」
男鹿の表情は険しくなっていく。だが俺だってそれくらいの事を言い返して良い筈だ。最初に俺を蔑む発言をしたのは男鹿だ。
そして俺は、恐らく男鹿の核心を突く一言になるであろう言葉を投げてみた。
「そんなに一ノ谷さんが好きなら、俺に嫌味を言う前に本人に直接ぶち当たってみたらどうですかね。」
男鹿の目が、今度こそいっぱいに見開かれた。
こっわ。
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