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63 夜のコンビニで
しおりを挟む話していたらすっかり19時を過ぎてしまった。今日は早く帰ってやる事やろうと思ってたのに、とんだところで無駄な時間を食ってしまった。
まあ、日が暮れたと言っても未だこの時間だから大丈夫かな~。タクシーで帰るかな~、とか思いながら窓の外を眺めていたら、男鹿が車で送ると言い出した。
俺ら珍種にも珍種ならではの大変さがある事を初めて知ったらしい男鹿は、俺を不憫に思ったらしい。
わかりゃいいのよ、わかりゃ。にしても、意外と此奴チョロいな。やっぱり育ちの良い奴はチョロ助が多いのだろうか。おおらかに育つのって大事なんだな。
「あ、マジすか。ならおなしゃす。」
普段なら馴染みのない人の車にも、場合によっては馴染みのある人の車でも警戒して乗らない事もある俺だが、男鹿の車にはあっさり乗せてもらう事にした。
一ノ谷さんに惚れているこの男の美的感覚はまともだ。あんな超絶美形を長年見てる男が俺みたいなのにとち狂う事は考えにくい。金もあるから売買にも興味は無いだろう。よって、無害。一応の和解も出来たみたいだし、信用して良いと踏んだ。でも一応、後部座席で。
何時も店の送迎車に来てもらってる近所のコンビニ前で下ろしてもらって、わざわざありがとうございましたと頭を下げると、
「今日は悪かったな。まあ…これからも頑張ってくれ。」
とか言われて微妙な気分になる。そんな風に態度を軟化させてるけど、実際は俺が一ノ谷さんとキスとか風呂とか色々してるのを知ったらめっちゃ怒りそうだよな。でも俺も仕事だから許してくれ。
しかしそんな余計な事は勿論言わない。人間、知らぬが花って事は多いものだ。
「男鹿…さんも、頑張って下さいね。ファイト!」
と、送ってもらった礼に特別サービスでかわい子ぶってみるが、微妙な無表情で返されてちょっと恥ずかしい。シャレの通じない奴だな。
「その、男鹿とさんの間にちょいちょい間が開くの、何?」
「特に他意はありません。」
気づいてたのか。
男鹿の車を見送った後、ついでだからコンビニで買い物をして帰る事にした。近いし走れば1分だから多分大丈夫だろう。
自動ドアを入るとお馴染みの入店音が鳴り、ふわっと香ばしい匂いがした。ホットスナックとか揚げてるのかな。何時も此処に寄るのは迎えに来た川口マネージャーと一緒だし、この時間に一人で外をウロウロする事が無いからちょっとワクワクする。バイトが無い日でも、帰宅は18時迄には帰るようにしてる。それより遅くなるようなら、タクシーを使うか駅迄祖父ちゃんを呼んだり。ま、もう祖父ちゃんも歳だからあんまり頼るのもどうかと思うんだけどな。
店内をぐるっと回ってドリンクコーナーを眺めてチェック。それからアイスの陳列ケースのある方へ歩く。新発売のピスタチオのアイス、買いたかったんだよな~。
そんな浮かれた俺は、陳列ケースの中を覗き込んで驚愕。何と…今季は、何だ?何処のメーカーもピスタチオ推しなのか。何故新発売のピスタチオ系アイスが4種類も?
これは…相当な吟味が必要か。…思い切って、4種類全部買うか…?
と、気持ちが全購入に傾きかけた時、入店音と共に一瞬の喧騒が耳に入ってきた。郊外店とはいえ車道沿いだから来客はそこそこなんだろう。
俺は通路の端にカゴを取りに行き、アイスを入れた。それから決済用アプリで支払おうかとポケットからスマホを取り出そうとしていた。チャージ未だ大丈夫だったっけ?
「買うの?」
背後に体温を感じたと思ったら耳のそばで声がした。
振り向くと、それは朝以来の三田だった。
「…うん。」
思わず返事をすると、
「そう。」
と言って俺のカゴをゆっくり奪う。
「え、いや何?」
「ついでだから俺が買う。」
「いや、何のついでだよ。いいよ。」
何だか気不味いのをおしてそう言うと、三田はきゅっと唇を噛んだ。三田って、子供の頃からそれ、癖な気がする。変わってないんだな。
三田はカゴを取り返そうとする俺の手をいなしながら、ゆっくり通路を歩いた。
三田はカゴに自分のアイスとメロンパンを突っ込んでレジに向かう。それを追う俺。待ってる客がいないからすんなり会計が進んでいく。
「小さい袋2つ下さい。こっちのアイス4個はそっちに纏めて。あと、スプーン5本下さい。」
三田がカウンターの上で俺の分のアイスと自分の買った商品を左右に分けながら店員に指示をした。
コンビニを出ると一瞬で生ぬるい風に包まれる。三田は、はい。と俺にコンビニの袋を手渡してくれて、俺はありがとうと言いながらそれを受け取った。
昨日の今日で三田にショックを与えてしまった俺が奢ってもらう謂れは全然無いのだが、何となく断り辛かった。これ以上三田のやる事を拒否したら、拒絶されたと思わせてしまいそうで。あと、単純に三田が声を掛けてくれたのが嬉しかった。
恋愛なんか要らない、一人で生きてく~なんて決意したそばから、俺って奴は…。
歩き出して数歩という時に、三田は立ち止まった。
「考えたんだけどさ。」
「うん?」
「そのさ、ゆっくんの目標にしてる金額って、将来的に俺が出すんじゃ、駄目なんだよね?」
「そうだな。」
一ノ谷さんといい、三田といい。金持ちって、大体同じ事を言うなあ。
「…大学卒業迄って、絶対?」
「うん。そう決めてる。だからそれ迄は稼げるだけ稼ぐ。」
「そっか…。」
三田はそう言って、口を閉じた。それから俺達は黙ったまま、暫く歩いた。
コンビニからウチは車道から曲がって徒歩三分くらいなので、直ぐに家は見えてくる。
家の前迄来て、不意に三田がウチの明かりを見上げた。横顔のまま、唇を開く。
「待ってても、良い?」
「…え?」
「どうしても諦められない。もしゆっくんが実は他の男とセックスしてたとしても、俺はゆっくんを諦めきれない。」
俺に向いて真っ直ぐにそう言った三田に、俺は何をどう答えたら良いのかわからなくなった。
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