超高級会員制レンタルクラブ・『普通男子を愛でる会。』

Q矢(Q.➽)

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68 前向きに検討いたします

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「先週はごめんね…。」

席に着く前にカウンターでオーダーしたカフェラテを受け取って、席についた途端に頭を下げられた。
さっき、何時ものカフェの何時もの席で待っていた天堂さんの向かいに座った俺を見て、天堂さんはホッとしたような表情を浮かべた後で直ぐに頭を下げてきた。いきなりお客にそんな事をされ、ビクつく俺。

「天堂さん…。」

「もうオミって呼んではくれないのかな…。」

何時もは陽気な天堂さんに少し寂しげな様子でそう言われて、しまったと思う。その設定、未だ継続中なのか~。

「それは、あの…もう呼ばれないだろうと思ってたので…。」

いやマジでそう思うじゃないですか?離婚するから付き合ってと言わても断って、その後愛人5号迄いま~すなんて聞かされたら。

「何故?選んでもらえなかったからって拗ねて根に持つ程子供じゃないよ。」

苦笑しながら言う天堂さんからは、大人の男の余裕を感じる。つっても、あっち方面の感覚も性欲もぶっ壊れてるらしいけどな…。
もし俺がOKしたとしたら、5、6人で解消してたリビドーが全て俺に一極集中するって事だろ…ゾッ。

そんな事を考えていたら、今度はしんみりした口調で語り出した天堂さん。

「俺、欲張り過ぎたんだよな。」

「欲張り?」

何の話?愛人?5人は確かに。でもそっちの話では無さそうな雰囲気だ。

「彼奴に似てる君に出会えて、あの頃に戻れたような気分になって。彼奴に言えなかった事や、出来なかった事を君と出来たらって思っちゃったんだよね。
そんな訳がなくて、君は彼奴じゃないのに。」

「そう、ですね。」

やっぱり俺が感じてた通り。俺が口に出す迄もなく、天堂さんは自覚していたのだ。言わなくて良かった。他人の癒えない傷をつつく趣味は無い。

「でも俺はユイ君の事、ちゃんと好きなんだよ?だから振られた事は残念だったけどさ。でも、ユイ君と過ごす時間が俺の癒しになってるのも事実なんだ。
だから、ユイ君とは別に今迄のままでも良いかなって。」

「い、良いんですか…。」

やっぱりメンタル強靭だな、この人。
まあでも、それならそれで俺にとってはありがたい。本来天堂さんは少しエスコートが過ぎて癖は強いけど、良客ではあった。先週は思い詰めてたのか不意打ちにキスはされたけど、何時もは無理に身体的接触を求めてくるタイプでは無かった。以前のような感じで良いなら俺は気が楽だから願ってもない事ではある。

「これからも呼んで良いかな。」

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

そう言ってからふと思った。天堂さんには、辞める事をどのタイミングでいうべきだろうか。やっぱり早目に言っとくべきか。

「あの、実は…。」


俺が後7ヶ月ちょいで辞めると知って、天堂さんは少し落ち込んだようだった。
俺は大学4年間は続けると言ってたから、ありがたい事にお客もそのつもりでいてくれてる人ばかりなんだよな。罪悪感…。これから何人にこの話をしなきゃなんないんだろ。

「まあ、仕方ないよね。でも未だ半年以上は会えるんだから、その間は食事に付き合ってくれたら嬉しいな。」

本当に寂しげな笑顔でそんな事を言ってくれる天堂さんにちょっと感動した。

「勿論。よろしくね、オミ。」

「ユイ君…。ありがとう。」

俺が今日初めてオミと呼んだからか、少し泣きそうになってる天堂さん。
俺が辞めた後でも、この人の心を慰めてくれる相手に出会えるようにと、切実に思う。
天堂さんもまた、愛しい人を亡くして孤独を知っている人だから。





天堂さんの後に呼ばれた佐川さんは、やっぱり結構あっさりしていた。

「残念だけど仕方ないよね。学生は忙しいものだし。」

「すいません。」

「でもこれだけ前もって予告して辞める子って珍しいよ。本当にもう決めたの?」

「はい。俺も残念なんですけど…。」

そりゃ、億を稼げる可能性を捨てる訳だから葛藤はあった。金は大事だ。必要だ。それでも金は、自分次第で他に稼げる手段を見つけられるかもしれない。

でも、三田の心は違う。
我慢や忍耐は心をすり減らす。長引く程に形を変えてしまう。
5歳で別れて俺に会う迄10年以上を耐えた彼奴にこれ以上長い我慢をしろなんて、俺には言えなかったしさせる訳にはいかないと思った。俺は早く、彼奴だけの俺になって安心させてやりたいんだ。

「まあ、ユイ君が決める事だからね。事情なんか一々聞くのもって思うから聞かないけど…。」

佐川さんは神妙な顔でそう言って、それからふぅ、とやたら色っぽく吐息を漏らした。

「辞めるまでの間は勿論変わらず指名させてもらうよ。でも、一つ気になってる事があるんだけど…。」

「ありがとうございます。え、何ですか?」

呼んでくれるのは嬉しいけど、佐川さんがそんなに気にする事ってあったっけ、と身構えながら聞いてみた。すると佐川さんは悲痛な面持ちで…。

「毎回僕にしてくれてたマッサージはもう無理なの?」

「あ、いや別に俺がする分には…。」

「あ、マジ?やったぁ。アレが無いと僕、疲れが取れなくてさ。じゃあ、前言ってたアロママッサージは?やっぱ駄目?」

「あ、アロマですか…。」

そういや先週言ってたな、と思い出す。

「してくれるだけでも全然良いんだけど。何なら声出さないように猿轡しても良いよ!」

そう言って目をキラキラさせる佐川さん。

それ、何かのプレイみたいだよね。セーフかアウトか、ちょっと俺じゃ判断つかないなー。三田に聞いてみようかなー。

「…前向きに検討させていただきますね…。」


……猿轡かー。







  

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