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69 そして巡り来る週末
しおりを挟む俺の気持ちを知ったからか、ここ数日の三田は落ち着いて見える。そんで、大学の行き帰りも一緒に送ってくれる。バイトの送迎が大学近くに来る時は、送迎車が来て俺が乗り込むのを見てから一人で帰っていく。三田なりに俺を守ろうとしてくれてるんだろうな…。それが嬉しいような、負担になっているんじゃないかと心苦しいような。
「お友達ですか?」
車に乗り込んで、暫く三田の後ろ姿を見送っていると川口マネージャーが質問してきた。何気なさを装ってるけど目がキラキラしてるから興味津々ってのがダダ漏れだ。
「うん、まあ。幼馴染み。」
「え、そんな人いたんですね。」
「実は居たみたい。」
「居たみたい?」
「わかったの、つい最近だから。」
「へえ。すごくイケメンですねえ。着てる服も靴も持ち物もハイブランドでしたね。」
相槌を打ちながら三田について油断ならないコメントをする川口マネ。流石、職業柄というか、見るとこ見てるな~。
「ウチの店のお客様方と同じ匂いがしますね。」
「まあ確かに良い家の子だよ。」
「やっぱり。あ、昼過ぎの出確の返事、見てくれました?本日は…。」
それから今日の予定の話に移行し、時間の確認をした。1件目は清水さんという、2ヶ月に一回くらいのペースで指名してくれる80代のお客さん。ほぼ歩けなくてご自宅に呼ばれるんだけど、大きなお屋敷に住み込みのお手伝いさん2人と住んでて、何つーか…たまに遊びに来る孫的なおもてなしを受けつつ話し相手になってる感じ。お手伝いさん達も気さくで優しいし、ぶっちゃけ一番気楽な仕事先だ。
2件目は、久松さんという月に1回ペースで呼んでくれる50代の物静かな紳士。地方から東京に出張滞在する数日の間に呼んでくれるんだけど、滞在してるホテルの部屋で一緒にルームサービスで何か頼んで飲み食いしながら話してるだけで良いってお客さんだ。理由は知らないが、何年か前に奥さまとお子さんを亡くされてると聞いた。それで何故俺を指名してくれてるのかというと、女性を呼ぶのは奥さまに申し訳ないって事でご友人に相談したらウチの店を紹介されたんだと。ホームページを見せてもらってる内に、何となく亡くなった息子さんと俺が似てるなと思ったらしい。そしたら指名で呼んでみた俺の話し声が息子さんとすごく似てたからという、とても好感の持てる理由だった。因みに、そんなに似てるのかと見せてもらった息子さんの映った動画は、ヘアスタイルが同じくらいの長さの黒髪ってだけの美形イケメンで、声は確かに少し似ているかなって以外は、同じ日本人って共通点くらいしか探せない感じだった。
ま、久松さんが良いなら良いんだけどさ。
「今日は癒しのラインナップだな…。」
俺が呟くと、川口マネが笑った。たまにはこんな日も無いとな。
久々に穏やかな気持ちで仕事をして、翌日には大学へ行って、また週末一ノ谷dayがやってきた。
何時もの金曜、パールパレス2001号室。
一ノ谷さんにはどのタイミングで辞める事を打ち上げるべきかな~と思いながら部屋の扉をノックする俺。
どうしよう。あれだけ告げられてきた一ノ谷さんの好意をきっちり蹴らなきゃならないって事だから…それ相応の説明が要るよな。いや、プロポーズ迄されてる相手にどう言ったら良いんだろ。一ノ谷さんには情が移ってる自覚があるからめちゃくちゃ気が重い。
それに、一ノ谷さん、ガッカリするだろうな…もう一緒に風呂に入れないって言ったら。アベレー神になれない俺は今夜でお払い箱かも。ごめん、オーナー、川口マネ。
そんな事を逡巡する俺の前の扉が開いた。
「いらっしゃい、ユイ君。」
「こんばんは、一ノ谷さん。」
何時もと変わらず俺に笑いかける一ノ谷さん。だけど、何だろう。妙な違和感がある。
俺は招き入れられるまま、部屋に足を踏み入れ、奥のリビングへ進んだ。
見慣れた窓辺のテーブル。
一旦座って少し話しましょうと言おうと思った時、先に一ノ谷さんの声が響いた。
「あの、ユイ君。今日は少し、話したい事があるんだ。」
い、以心伝心?
考えていた事を先に言われて驚く俺に、何故か少し耳が赤い一ノ谷さん。
(…?)
一ノ谷さんが、こんなにかしこまって話しがある、なんて。こんな事は初めてだ。すんごく話の内容が気になるけど、でも願ってもないタイミング。
「俺も、ちょうどお話があったんです。」
俺はにこりと笑ってソファに腰を下ろした。
この時は未だ、想像すら出来なかった。会わない一週間足らずの内に、俺のせいで一ノ谷さんの身にそんなとんでもない事が起きてたなんて。
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