超高級会員制レンタルクラブ・『普通男子を愛でる会。』

Q矢(Q.➽)

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76 兄弟間の力関係

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いや、聞いてはいた。
ミズキは元オーナーの末息子で現オーナーの弟、そして近々店を引き継ぐ次期オーナー。
だからオーナーとの話し合いに同席する事を想定出来なかったのは俺の迂闊さだ。

「ミ…刈谷、君…。」

「何時もみたいにミズキで良いよ。」

そう言いながら笑うミズキは日頃の地味コスが嘘のようにキラキラしてる。三田や一ノ谷さんが正統派王子様だとしたら、ミズキはちょっと華奢な可愛い系王子様か。やっぱりあっち側の人間なんだな…醸し出す雰囲気が全然ちげーわ。

しかし困惑は隠せなくて、俺はミズキの奥に座っているオーナーを見た。

「同じ大学なんだってね。ウチの可愛い末っ子と仲良くしてくれてたなんて、やっぱりユイ君とは縁があるんだなあ。
さ、座って座って。」

フワ~ッとした笑顔で俺を促すオーナー。気を取り直して個室に足を踏み入れる俺。追ってくる2人分の視線。や、やりづれえ~。

「瑞稀が自分も同席したいって言うからさ、連れて来ちゃった。この子が店継ぐの、ユイ君も知ってるならいっかなって。」

相変わらず向日葵のような笑顔。アラサー男性がこんなんで良いのか。…別に良いな。

「そうですか。何も聞いてなかったから、少しビックリしちゃって。すいません。」

畳の上に敷かれたお高そうな座布団に腰を下ろして、座卓の向こうに並ぶ2人を見る。
年の離れた兄弟だと言っていたオーナーとミズキは、こうして並ぶとやっぱり似ている。茶色いふわふわの猫毛に茶色い瞳。目鼻立ちも良く似てて、10年歳を重ねればミズキもこんな風になるのかなと思うくらい。
まあ、性格は真逆みたいだから、浮かべる表情はだいぶ違うけど。

座って間も無く中居さんが御品書きとお茶を持って入って来た。

「好きな料理頼んでね。コースでも何でも。」

オーナーの言葉に頷く俺。
何食べよっかな~、と思いながら御品書きに目を通した。





コース料理の旬菜の鰊と茄子を食べているところで、オーナーが口火を切った。

「それで、話って?」

「…んぐ、」

はっ。そうだった…。

俺は思い出した。何時もお客と一緒にいる時と同じ調子で飯堪能してたわ。つーかやっぱミズキは言ってないのか。

「あ、えーとですね…。」

卒業迄頑張ります‪☆と言ってた手前、それを覆して半分迄でっての、言い出し難い…。でも言わねばならん。

「来年の3月迄で引退させていただこうかと…。」

言った途端、オーナーの目が点になった。

「え?え、何で?ウチの待遇が不満?引き抜きでもあった?」

「いえ、まさか。お店にはこれ以上ないくらいに良くしていただいてます。
辞めるのは、その…個人的な理由、なので…。」

歯切れの悪い答え方しかできなくて申し訳無い。オーナーは見るからに眉を下げ、しょんぼりした顔に。

「個人的理由…。」

「はい。」

オーナーの隣でミズキが気の毒そうにオーナーを見ているのが罪悪感を煽ってくるな…。

「勿体ない。店じゃなくてユイ君じゃなきゃ無理ってお客様も結構いらっしゃるよね…。」

オーナーは呆然と呟く。全くの新規で最初から俺指名で入って、俺だから継続してくれてるってお客は指名の半数程。後の半分は店自体に付いてて、そういうお客は呼んでるキャストが辞めれば他のキャストを呼ぶ。俺じゃなくても支障は無い客、の筈だ。たぶん。

けれど、No.1の俺が抜ける事で、おそらく店の月間売り上げは3割は下がる。42人もいる在籍キャストの中から、俺1人が抜けるだけでそれだけの損失が出るんだから、幾ら楽天家のオーナーと言えども動揺するのは当然と言えば当然だった。多分運が良かったんだろうけど、俺のお客はロングコースや1日買い切りの客が異様に多いらしいのも、売り上げが上がってる要因だと思う。

予想はしてたけど、ここからオーナーの残留要請が始まってしまった。

「何とか延ばせたりしない?ほら、ウチの店、3年になるのと同時にミズキが継ぐんだよ。ユイ君が抜けちゃったらいきなり苦しいとこから任せる事になる。それは流石に可哀想と言うか…。」

「兄さん。それはいつも途中で全てを僕とおお兄に丸投げしてる兄さんが言って良い事じゃないからね。」

「ぐっ…。」

「大体、兄さんが決めた事を勝手に投げてイタリアに行くなんて言い出すから僕が継ぐ事になったんだろ。完全に内輪の事情だから。幾ら売り上げ持ってるNo.1でも、1キャストのユイ君にそんな風に罪悪感押し付けるような言い方止めなよ。」

「や、だって、みぃ君…。」

「みぃ君ゆーな。僕が今大変なのも、これから大変になるのも元はと言えばちい兄のせいだろ。ユイ君に変な事言わないで。」

お、おお?

てっきりミズキもオーナーと一緒に引き留める気で来たのかと構えていた俺は、突如目の前で始まった兄弟喧嘩(?)という名のオーナー糾弾に戸惑う。

あ、お造り来た。

俺は中居さんが運んでくれた旬のお造り盛り合わせを食べながら、2人の遣り取りを眺めた。

「大体ちい兄は何時もそうだよね。僕とおお兄がどれだけ…、」

「うう…みぃ君、ごめんよぉ、ごめんよぉ…。」

「いぃや、今日という今日は絶対許さない。ユイ君がアガりたいって言ってんだから気持ち良く辞めさせてあげたら良いだろ!半年も前に申告してくれる律儀な子なんて他にいた?」

「…ま、せん…。」

「自分は好き勝手するばっかの癖に他人に求め過ぎ!」

「ゴメンナサイ…。」

「はー、全く。やっぱ一緒に来て良かったよ。」

あ、何だ。俺1人だと口八丁手八丁のオーナーに丸め込まれるかもって思われてた?

つーかミズキ、みぃ君なんだ。そしてめちゃくちゃ気ぃ強いな。




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