超高級会員制レンタルクラブ・『普通男子を愛でる会。』

Q矢(Q.➽)

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81 50年後も特権は手放さない宣言

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各駅停車で3駅の隣町からブラブラ帰って、コンビニ寄って、好きなドリンクとか買って、三田の家に帰りついたのは21時前。

少し遅めの晩飯は津村さんが三田のリクエストで作ってくれたというタンシチューとサラダ。真夏にシチューってどうよ、と思ったけど、どうせ冷房の効いた室内で食べるんだからあんまり季節は関係無いなと気づく。それに、三田の好物らしい。誕生日なら好きなもん食べたいもんな。
それにしても津村さん、何でも美味いな。蕩けるわ~このタン。

「ケーキもあるから加減して食べなよ。」

そういうお前はかなり良い食べっぷりだけど、大丈夫なのか?

「あ、でも食べるの夜中だから、その頃には小腹減ってるか。」

「え、夜中?」

「だって日付け変わってからはぴばするじゃん。」

「…なるほど。」

腹が膨れてもうちょっと眠いんだが、と思いながら相槌を打つ。起きてられるだろうかと不安に思ってたら、三田が言った。

「大丈夫だよ、寝てても。3分前になったら起こすからさ。」

ギクッ 見抜かれた。

駄目だな、仕事なら気が張るからある程度コントロール出来るのに、三田と一緒だと気が抜けてしまってそうもいかない。

「じゃあまあ、寝ちゃってたらよろ。」

「任せて。」

そんな会話の後、食事を終えて食器を食洗機にかけてから、リビングのソファに一緒に座った。カーテンを閉め、照明を落としてプロジェクターでDVDを観た。画面の中には人類を守って持てるスキルを活用しつつ、縦横無尽に敵と戦うヒーローが。そうか、三田はこういう系が好きか。
たまにコーラを飲みながら真剣に鑑賞してる横顔を見てたら、ウトウトしてきて、何時の間にか寝てしまった。




「…くん、ゆっくん。」

肩を撫でるように叩かれて、ふっと意識が浮上した。

「あ、ごめん。」

やべえ。三田の部屋着のシャツの肩が濡れとる…勿論、俺の涎で…。恥ずかしい。

「いやマジでごめん。洗濯するから脱いで。部屋着って2階だよな、持ってくる!」

俺は慌てて立ち上がり、三田のシャツを脱がせようとして、その手を掴まれた。

「後で着替えるから、座って。」

「でも、」

「あと2分もないから、お願い。」

「あ…。」

そっか、日付けが変わる迄もうそんだけなんだ。
俺は座り直して、ごめんなと言った。つーか人の服を涎で汚すとか恥ずかし過ぎてテンパったけど、羞恥は一先ず置いといて静かに時を待つとしよう。
そう思って、エンドロールが流れる画面を見て時間を潰す。


「ゆっくん。お誕生日おめでとう。」

「三田、」

「三田じゃなくて。」

「あー…あっくん、誕生日おめでとう。」

日付けが変わった瞬間、三田が最初に俺に祝いを告げて、俺がそれに返した。
三田がテーブルの上の照明のリモコンを手に取り調整すると、室内がぼんやりとだけ明るくなる。座り直した三田が、ふふっと笑う。

「どうした?」

俺が聞くと、三田はまた笑いながら答えた。

「これって、同じ誕生日同士の特権だよね。」

「ん?まあ、そうだな。」

確かに、と思いながら答えると、三田は目を細めて穏やかな表情で俺を見つめながら言った。

「今年から、来年も再来年も、10年後も50年後の今日も、ずっと。俺はゆっくんとこうしておめでとうって言い合いたい。」

「そう、だな。」

答えながら、そんなの出来るだろうか、なんて考える。
三田は本当にずっと俺といるつもりなんだろうか。
中年になっても、爺さんになっても?
何年か付き合ったとしても、付き合ってる内に俺への執着が冷めていくかもしれないのに。
そして、それを承知で三田の気が済む迄付き合おうと思ってる俺も俺だけどさ。
20歳の誕生日を迎えて数分の内にそんなお先真っ暗な未来を考えてやや凹む俺の表情から何かを読み取ったらしい三田が額を軽くデコピンしてきた。痛い。

「今、変な事考えてなかった?」

此奴、鋭い。

「別に。」

「なあ、ゆっくん。俺と付き合ったら、死ぬ迄別れられないと思っといてね。」

「…へ?」

「俺、執念深いから。何年かで飽きられるだろうとか、もしそんな風に考えてるんなら、無駄だから今の内にその考え捨ててね。」

考えてた事をタイムリーに突かれてちょっとドキッとする。え、俺ってそんなにわかり易い?

「俺、引っ越す車の中で考えてたからね。
大事なものは、いっかい捕まえたら、絶対離しちゃ駄目なんだって。」

「引っ越す車…。」

って、5歳のあの時に?

「いっかい捕まえたら、雨が降っても雷に撃たれても、殴られても蹴られても…殺されても、離しちゃ駄目なんだよ。」

一瞬、俺を見る三田の表情が抜け落ちて、瞳が暗く陰ったような気がした。ゾクッと尾骶骨から背筋を上る悪寒。

「だからね、安心して。一時の戯れ言で終わるもんじゃないから。」

「…あ、うん。」

俺の返事に、ニコッと何時もの明るい笑顔になる三田。

「ケーキでお祝いしよっか!持ってくるね!」

と、立ち上がりキッチンに向かって歩いていく後ろ姿を見ながら、俺は思った。


三田の執着を、まだまだ甘く見ていたのかもしれない、と。





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