86 / 101
86 やっぱり一ノ谷さんは一ノ谷さんだった
しおりを挟む金曜日。
退店カミングアウト後からこっち、平和なお友達営業となっている一ノ谷さんとの外食デート。お友達営業って言ったって、風呂とかの甘々タイムや過剰な身体接触が無くなっただけで、後は普通にレンタル業務なので、他のお客としてるように買い物も行くし食事にも付き合う。
今日なんか隣県迄中華を食べに行って、その後中華街をプラプラしつつ買い物しながらパールパレスに帰ってきた。
往復の移動時間とか考えると3時間や3時間半の枠ではなかなか厳しいけど、まあ一ノ谷さんの場合は8時間丸々貸し切りだから余裕で出来る。
パールパレス2001号室に帰り着いたのは、23時過ぎ。一ノ谷さんが、残り時間はまったり過ごそうと言って俺をソファに座らせてからカフェラテを入れてくれ、それからは買って来た中華菓子をつまみながらのお喋りタイムに突入。
気兼ねなく話せる友人が少ないという一ノ谷さんは、最近ではこうして俺相手に色々話すのが楽しいらしい。
だが今夜は、会った時から何時もとは少し様子が違っていた。
「あの、さ。ユイ君は、もう…彼と、シた?」
「え?」
何を、と聞き返しかけて、ハッとする。まさか。
やや驚愕しながら一ノ谷さんを見ると、彼は少し落ち着かない様子でカフェラテを飲んでいる。
珍しくもじもじして言い難そうにしてるから何かと思ってたら…。
俺が次の言葉をどうしたものかと思っていると、一ノ谷さんはカップを置いて、また口を開いた。
「光一郎と、その…しちゃって…。」
「こう…あ、男鹿さん?」
こくり、と頷いて、また沈黙。話し始めたからには話したいんだろうに、言葉に詰まっているんだろうか。
少し助け舟を出すべきか、と今度は俺から。
「男鹿さんとしちゃったって……え、まさか、セックスですか…?」
口にしてしまってから思わず目を伏せる。
何故か口にするのも恥ずかしいのは、俺が童貞で言い慣れないからなのか、それとも恥ずかしいと思うのが普通なのか。でもスムーズに会話進めたいしな~、と思いつつ一ノ谷さんに目を戻すと、一ノ谷さんも真っ赤になってた。ありゃ。
「…うん、そう。セックス…。」
消え入りそうな声で答える一ノ谷さん。
「えええええ?!マジですか?!」
ビックリした。いや、え、もう?
そりゃ俺と三田だってちょっと前に際どい事はしてるから人の事は言えないが…。一ノ谷さんを物凄く大事にしてる男鹿は、もっとゆっくりじっくり進めてくものかと勝手に思ってた。でも、考えてみたら男鹿も一ノ谷さんも良い歳の大人なんだよな。
…そういう事も、あるか…。
いやでもやっぱ急じゃね?つか…。
「大丈夫でした?無理矢理とかじゃないですよね?」
一ノ谷さんLoveの男鹿に限って、一ノ谷さんの許可無くご無体な事はしないとは思うんだけど、一応心配になって聞いてみた。いや、有り得ないとは思うんだけどな?
すると一ノ谷さんは、首を振った。
「大丈夫。大丈夫なんだけどさ、その…、」
ホッ。無理矢理ではない。合意合意。なら外野の俺が心配する事じゃないな、と安心したが、どうやら一ノ谷さんの言葉は未だ続きがあるようだ。
「まさか、僕があんな風になるなんて。自分で自分が信じられない。光一郎の前で、あんな…。」
ほう、と悩ましげな風情でそれを言われても、俺はどう答えたら良いんだ。
「光一郎があんなに逞しかったなんて、全然意識してなかったよ。」
艶っぽい吐息、やめて。
別に一ノ谷さんに変な気起こす訳も無いけど、何だか心臓に悪いから。
そんな俺の心を他所に、一ノ谷さんは妙に色っぽい視線で窓の外の夜景を眺めては、吐息を吐く。
三田、助けて。
「で、でも嫌じゃなかったんですよね?」
当たり障りない質問で場を濁すべくそう言うと、一ノ谷さんはまた頷いた。
「全然。そうなるのが自然な流れだったし、光一郎もそれを望んでいるのを感じてたから、抱かれて良かったと思ってる。でも…。」
あ、やっぱり一ノ谷さんがそっちなんだ、とぼんやり思う。だよな。男鹿と一ノ谷さんだと、そんな気はしてた。男鹿は精悍でオスみが強いし、一ノ谷さんは優男でおっとりしてるし…まあ、どっちがどっちなんて一概には言えないかもしれないけど。
でも取り敢えずはそれで上手くいった訳だよな。じゃあ何が問題で、一ノ谷さんは俺にこんな超プライベートな話を振ってきたのか。
「良かったならおめでとうございますって感じなんですが…何か気になる事でも?」
そう聞いてみた。
まさかとは思うが、単なる惚気…なんて事は無いよな?と、一ノ谷さんを見ると、目が合った。…ん?あれ?思ってたより切実そうな表情。マジで何か問題発生したのだろうか。
じっと見つめて真剣に聞いてますよアピールすると、一ノ谷さんはまた目を伏せて溜息。そして、口を開いた。
「実はね…。
セックスの後、指輪渡されて。一緒になってくれって。」
「えっ??!」
「困ったな。フランスに住んでた間にずっと考えてたんだって言われて。
嬉しいんだけど、簡単にはね。」
ビックリした。
男鹿の行動の速さよ。指輪て。だがビックリから気を取り直して、尤もらしく答える真面目な俺。
「そうですよね、結構問題が色々ありますもんね。なかなか簡単には頷けませんよね。」
日本にも一部地域でパートナーシップ制度が認められているとはいえ、同性婚って事になるとまだまだだし、立場的にも海外に住んでって訳にもいかないだろうし。応援したいけど、難しいだろうな~、と思っていると、一ノ谷さんも困ったように頷いた。
「結婚は良いけど、海外に暫く行くとなると纏まった休暇がなかなかね~。」
…あ、問題ってそっちなんだ…。 結婚は、良いんだ。
相手が俺に結婚結婚って迫ってた一ノ谷さんだって事、すっかり忘れてたわ。
22
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
僕の、しあわせ辺境暮らし
* ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。
ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります!
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる