超高級会員制レンタルクラブ・『普通男子を愛でる会。』

Q矢(Q.➽)

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86 やっぱり一ノ谷さんは一ノ谷さんだった

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金曜日。

退店カミングアウト後からこっち、平和なお友達営業となっている一ノ谷さんとの外食デート。お友達営業って言ったって、風呂とかの甘々タイムや過剰な身体接触が無くなっただけで、後は普通にレンタル業務なので、他のお客としてるように買い物も行くし食事にも付き合う。

今日なんか隣県迄中華を食べに行って、その後中華街をプラプラしつつ買い物しながらパールパレスに帰ってきた。 
往復の移動時間とか考えると3時間や3時間半の枠ではなかなか厳しいけど、まあ一ノ谷さんの場合は8時間丸々貸し切りだから余裕で出来る。

パールパレス2001号室に帰り着いたのは、23時過ぎ。一ノ谷さんが、残り時間はまったり過ごそうと言って俺をソファに座らせてからカフェラテを入れてくれ、それからは買って来た中華菓子をつまみながらのお喋りタイムに突入。
気兼ねなく話せる友人が少ないという一ノ谷さんは、最近ではこうして俺相手に色々話すのが楽しいらしい。

だが今夜は、会った時から何時もとは少し様子が違っていた。


「あの、さ。ユイ君は、もう…彼と、シた?」

「え?」

何を、と聞き返しかけて、ハッとする。まさか。
やや驚愕しながら一ノ谷さんを見ると、彼は少し落ち着かない様子でカフェラテを飲んでいる。
珍しくもじもじして言い難そうにしてるから何かと思ってたら…。
俺が次の言葉をどうしたものかと思っていると、一ノ谷さんはカップを置いて、また口を開いた。

「光一郎と、その…しちゃって…。」

「こう…あ、男鹿さん?」

こくり、と頷いて、また沈黙。話し始めたからには話したいんだろうに、言葉に詰まっているんだろうか。
少し助け舟を出すべきか、と今度は俺から。

「男鹿さんとしちゃったって……え、まさか、セックスですか…?」

口にしてしまってから思わず目を伏せる。
何故か口にするのも恥ずかしいのは、俺が童貞で言い慣れないからなのか、それとも恥ずかしいと思うのが普通なのか。でもスムーズに会話進めたいしな~、と思いつつ一ノ谷さんに目を戻すと、一ノ谷さんも真っ赤になってた。ありゃ。

「…うん、そう。セックス…。」

消え入りそうな声で答える一ノ谷さん。

「えええええ?!マジですか?!」

ビックリした。いや、え、もう?
そりゃ俺と三田だってちょっと前に際どい事はしてるから人の事は言えないが…。一ノ谷さんを物凄く大事にしてる男鹿は、もっとゆっくりじっくり進めてくものかと勝手に思ってた。でも、考えてみたら男鹿も一ノ谷さんも良い歳の大人なんだよな。

…そういう事も、あるか…。
いやでもやっぱ急じゃね?つか…。

「大丈夫でした?無理矢理とかじゃないですよね?」

一ノ谷さんLoveの男鹿に限って、一ノ谷さんの許可無くご無体な事はしないとは思うんだけど、一応心配になって聞いてみた。いや、有り得ないとは思うんだけどな?

すると一ノ谷さんは、首を振った。

「大丈夫。大丈夫なんだけどさ、その…、」

ホッ。無理矢理ではない。合意合意。なら外野の俺が心配する事じゃないな、と安心したが、どうやら一ノ谷さんの言葉は未だ続きがあるようだ。

「まさか、僕があんな風になるなんて。自分で自分が信じられない。光一郎の前で、あんな…。」

ほう、と悩ましげな風情でそれを言われても、俺はどう答えたら良いんだ。

「光一郎があんなに逞しかったなんて、全然意識してなかったよ。」

艶っぽい吐息、やめて。
別に一ノ谷さんに変な気起こす訳も無いけど、何だか心臓に悪いから。
そんな俺の心を他所に、一ノ谷さんは妙に色っぽい視線で窓の外の夜景を眺めては、吐息を吐く。

三田、助けて。

「で、でも嫌じゃなかったんですよね?」

当たり障りない質問で場を濁すべくそう言うと、一ノ谷さんはまた頷いた。

「全然。そうなるのが自然な流れだったし、光一郎もそれを望んでいるのを感じてたから、抱かれて良かったと思ってる。でも…。」

あ、やっぱり一ノ谷さんがそっちなんだ、とぼんやり思う。だよな。男鹿と一ノ谷さんだと、そんな気はしてた。男鹿は精悍でオスみが強いし、一ノ谷さんは優男でおっとりしてるし…まあ、どっちがどっちなんて一概には言えないかもしれないけど。
でも取り敢えずはそれで上手くいった訳だよな。じゃあ何が問題で、一ノ谷さんは俺にこんな超プライベートな話を振ってきたのか。

「良かったならおめでとうございますって感じなんですが…何か気になる事でも?」

そう聞いてみた。
まさかとは思うが、単なる惚気…なんて事は無いよな?と、一ノ谷さんを見ると、目が合った。…ん?あれ?思ってたより切実そうな表情。マジで何か問題発生したのだろうか。
じっと見つめて真剣に聞いてますよアピールすると、一ノ谷さんはまた目を伏せて溜息。そして、口を開いた。

「実はね…。

セックスの後、指輪渡されて。一緒になってくれって。」

「えっ??!」

「困ったな。フランスに住んでた間にずっと考えてたんだって言われて。
嬉しいんだけど、簡単にはね。」

ビックリした。
男鹿の行動の速さよ。指輪て。だがビックリから気を取り直して、尤もらしく答える真面目な俺。

「そうですよね、結構問題が色々ありますもんね。なかなか簡単には頷けませんよね。」

日本にも一部地域でパートナーシップ制度が認められているとはいえ、同性婚って事になるとまだまだだし、立場的にも海外に住んでって訳にもいかないだろうし。応援したいけど、難しいだろうな~、と思っていると、一ノ谷さんも困ったように頷いた。

「結婚は良いけど、海外に暫く行くとなると纏まった休暇がなかなかね~。」


…あ、問題ってそっちなんだ…。 結婚は、良いんだ。

相手が俺に結婚結婚って迫ってた一ノ谷さんだって事、すっかり忘れてたわ。

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