超高級会員制レンタルクラブ・『普通男子を愛でる会。』

Q矢(Q.➽)

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92 意外な所で意外な再会

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バックドアを開けたのは黒いフードに黒いマスク姿の2人の男。その2人にそれぞれ上半身と下半身を抱えられて、すぐ側の建物の中に運び込まれた。レンガ造りの洋館っぽい感じかなと思ったけど、何せ暗いし荷物みたいに抱えられてて下の方しか見えないから、ぽいとしか言えない。

しかも運び込まれたのは何だか湿っぽい匂いのする部屋。その奥にあった埃っぽいベッドに俺を放って、2人はさっさと出て行った。ドアが閉まると廊下からの灯りが遮断されて、真っ暗になって、まるで世界中から隔絶されたような絶望感に襲われた。

俺、今、芋虫みたい。

目が暗さに慣れてきて、見える範囲の部屋の中の様子を窺う。
俺の居るベッドから見て左側に5、6メートルの位置に、さっき入ってきたドア。ドアの右横に椅子がある。首を捻って背中側を見ると、そこは壁。
窓は一つだけ。でもカーテンが閉まってて、その向こうがガラスだけなのかはわからない。

「…くしゅ…っ」

いかん、身動ぎすると埃が立ってくしゃみが…。

ベッドと椅子の他には何も無く、壁にも何が掛かってる訳でもない、本当に殺風景な部屋のようだった。しかもベッドがこれだけ埃を被ってるって事は、長く清掃もされてないって事だろう。この部屋だけがそうなのか、この家全体がそうなのか。

(…今って何時だろ…。)

拉致されてからどれくらい経ったのか、どれくらいの距離を移動したのか。
俺のカバンどうなったんだろ?と気になった。拉致現場に落として来たんだろうか。もしかしてあの連中が持ってる?
中にはスマホも入ってるし、あの場に証拠を残したくないなら拾って持って来てるだろうな…。

疑問ばかりが次々湧いてくる。でも、希望は一つも湧いて来ない。俺は一体何処に売られるんだろうか。
国内かな…せめて国内であれ。いやでもどうせ監禁とかされるなら何処でも同じか…。どうせしこたま遊ばれて、死んだら死んだでどっか山の中だかに埋められたり、何なら薬剤で跡形も無く溶かされて流されたりするんだろうな…。

そんな最悪の結末が頭を占めて、胸が重苦しい。


まったく。ひとつも。
何とかなりそうな気がしない。だって、こんな拘束、どうやって解いたら良いんだ。これじゃ逃げるどころか立つ事すら出来ない。
猿轡が唾液塗れで不快だ。

詰んだ。





ガチャ。

遠くでドアが開く音が聞こえた気がして、意識が呼び起こされた。頭が重い。
それを堪えて、何とか重い瞼を開く。

ベッドの横、つまり寝転がった俺の視界の真ん前に、誰かが立っていた。でもその顔は、覚めたばかりのぼやけた目と廊下からの逆光ではっきりとは見えない。

悶々としている内に、何と俺は呑気にもウトウトしていたらしい。あれだけ絶望と恐怖緊張してたってのに、俺って奴は…。

自分にちょっと呆れていると、真っ暗なシルエットにしか見えないその人が、喋った。


「…ユイ君?」

「…?!」

その声には物凄く聞き覚えがあった。

その声の主は、慌てたように俺に駆け寄ってきた。

「ユイ君、ユイ君?大丈夫?何だ、これは…何故こんな事に??」

俺の猿轡と手足の結束バンドを見て、動揺したように言うその人は、店での俺の長い指名客である黒川さんだった。

黒川さんは背にした廊下に向かって叫んだ。

「どういう事だ?何故ユイ君がこんな状態で此処に居る?
君達は誰なんだ。此処は一体何処なんだ。
何故俺とユイ君をこんな場所に…?」

すると3人の人間が、廊下から部屋に入ってきた。途端に、間接照明のようなぼんやりとした灯りが点いて、少し視界が良くなった。
声の主はやはり黒川さんで、入ってきた男達は、小柄な細身の男を前に、その後ろに付き従う大柄な3人の男。大柄な内の2人は黒フードに黒マスクで、多分さっき車から俺を運んだ2人だろうと思った。もう1人はフードではなくシャツ、短髪に、顔にはマスクだけ。
だが、その3人の男達より何より、俺は彼らの前に居る華奢な男に見覚えがあった。
あれは、三田の相手の女王様男子なんじゃないのか?

(どういう事だ?何故、黒川さんまで此処に?)

黒川さんは俺とは違い拘束はされていない。だが、さっきの言葉から察するに、俺と同じように何も知らずに連れて来られたと見て良いような…。
え、ちょっと待て。黒川さん、俳優だぞ。芸能人誘拐したって事?
 
黒川さんの登場と女王様の登場で、俺は訳がわからなくなった。


これって、何が目的の誘拐なんだ?


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