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14 (壱与side 3)
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昼休みに、初めて訪ねたSクラス。こんなに奥の教室までせっかく出向いてきたというのに目当ての姿は見つけられない。それどころか教室後方の出入り口に立った俺の姿に、中に残っている生徒達はしぃんと静まり返ってしまっている。中には青ざめてる奴もいるが、逆に顔を赤くしてボーッと見つめてくる奴もいる。何時もの反応だから気にせずキョロキョロ目線を動かすが、やっぱり嵐太の姿は無かった。残った匂いも薄いという事は、昨日帰ってそのままって事か。
一番手近に居た純人の生徒に声を掛けてみた。
「なあ。今日、吉田は?」
「よ、吉田?」
戸惑ったように聞き返してくる生徒に少し苛立つ。だが、もしかすると吉田姓が一人じゃないのかもと思い直し、特徴を伝える事にした。
「レッサーパンダ獣人のちんまい子」
「あ、ああ、吉田か。うん。今日は…、」
その生徒が答えようとした時、違う声がそれに被さってきた。
「吉田は休みだ」
声のした方に視線を向けると、ひとりの男子生徒が俺の方に歩いてくる。背の高い、短髪に浅黒い肌の男子だ。その生徒が歩く度に鼻を突く獣臭で、お仲間だとわかった。それに、つい最近嗅ぎ覚えのある匂いだ。
(…嵐太に付いてた匂いのひとつ、コイツか)
多分、種類は違うけど俺と同じ熊。そして、あまり好きじゃないタイプの、甘ったるい匂いがする。好みとは正反対の匂い。アルファだな。
俺は少し眉を顰めてソイツを見た。ソイツも不機嫌そうな顔をしているからお互い様だ。
「…誰だ」
「佐久間だ。一応、吉田の友人」
ああ、そう言えば同じクラスにも仲の良い熊がいるって聞いたっけ。匂いに覚えがある筈だ。
「…壱与だ。C組の」
自己紹介されたので俺も名前を答えると、佐久間と名乗ったソイツは、ああ、というような表情になった。
「もしかして昨日、ランたんと飯食った人?」
佐久間の後ろから現れた別の獣人がそんな事を言ってくる。ランたんって嵐太のランか。おおかた昨日の昼の事を嵐太に聞いたんだろう。俺が頷くと、佐久間の張ってた微妙な警戒がふっと解けたのがわかった。
「へえ、そっかそっかァ。アンタがあの匂いの…。
あ、俺は稲取。ランたんの友達」
俺の周りをクンクン嗅ぎながら好奇心を隠しもしない。鋭い癖に悪戯っぽい目だ。稲取は狼らしく、嵐太からはコイツの匂いもしていた。そしてやっぱり稲取もアルファなのか。
「壱与だ」
獣種は、敢えて省いた。どうせわかってるんだろう。
それより俺は嵐太の事が知りたい。佐久間の顔をチラリと見ると、思い出したように告げてきた。
「病院に行くって連絡があった」
「…病院?」
「理由まではわからない」
「…そうか。ありがとう」
言いながら、少しモヤッとした。嵐太の事を他人伝てに知った事に苛立ちを感じている。知り合って間も無いのだからそんなもんだろうと思うのに、面白くない。昨日、マーキングするのに神経使ってて連絡先を聞きそびれたのが悔やまれる。今度は真っ先に連絡先を交換しないと。
だが取り敢えず、嵐太は休みという事か。病院…何かあったのか。昨日は元気そうだったのに。
「ら…吉田は、昨日帰りはどんな様子だった?
例えば、具合いが悪そうだったとか…」
昨日、俺は授業が終わってすぐに帰らなきゃならなかったから、昼休み以降の嵐太の様子は知らない。病院に行く理由はわからないが、体調でも崩したのなら心配だ。けれど、俺の質問を受けた佐久間も稲取も首を傾げている。
「いやぁ…強烈なニオイさせてた以外、全然普通だったけど」
「そうだな。すげーニオイがしていた以外は、むしろ何時もより浮かれていたようだった」
「スキップで帰った奴って初めて見たよな」
「…」
やたらニオイを強調させてくるのは、その強烈なニオイの主が俺だと知っていての事なんだろうか。まあ確かに初めてで加減がわからなかったからやり過ぎたかもとは思ってたが。
「…つまり、元気だったんだな」
俺がそう聞くと、2人は顔を見合わせてから頷いた。
「うん。だからそんなに心配しなくて大丈夫じゃねえかな」
「そう、か。邪魔したな」
俺はそう言ってSクラスを離れようと踵を返したが…
「そう言えば、ずっとリンゴの匂いがするって言ってたな」
「俺達には獣臭と甘ったるい匂いしかしなかったけど、リンゴリンゴうるさかったよな」
「…リンゴ?」
多分、それは俺が獣臭マーキングの上から掛けたフェロモンマーキングのせいなんだろうと見当はついた。しかし、そうか。嵐太には俺のオメガフェロモンがリンゴの香りとして認識されてるのか。
アルファとオメガが放出するフェロモンは、同じ人間が出す匂いでも、感知する側によりどんな匂いかは変わり、相性が良い相手の匂いほど自分の好物に近いか、自分にとって心地良いものに感じると言われている。
大抵は植物か果物に近い香りになると言われているけど…そうか。嵐太には俺はリンゴなんだな。
思わずフフッと笑いが漏れた。
昨日、嵐太が弁当を食べた後に出した小さな容器。その中にみっちりと入れられた、カットされたリンゴ。それを俺にも勧めてくれながら、嵐太が言った言葉を思い出したからだ。
『僕、リンゴが一番の大好物なんだぁ』
その時の笑顔は本当に、食ってやりたくなるくらい可愛い笑顔だった。
佐久間と稲取に礼を言って、廊下を歩く。今日は晴れてるから中庭にでも誘って一緒に昼を食べようと思ってたけど、一人ならクラスに戻ろうかなんて考えながら。
歩きながら、呟きが漏れた。
「そっか。一番好き、か」
俺も一番好きだよ。
「明日は来るかな…」
胸の中から溢れ出しそうなこの嬉しさを、どうしたら良いのかわからない。
今とても君に会いたいよ、嵐太。
たった2度一緒に過ごしただけで俺はこんなに君に夢中だ。
愛しい俺のアルファ君。
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