拾う神なんていない

Q矢(Q.➽)

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親の不在を良い事に家をそんな悪さに使ってるなんて、日比谷の父親が知ったらどうなるんだろ?でも、俺んちを商売宿に使われるよりは全然良いから黙ってた。
叔母さんの遺してくれたマンションに日比谷とのセックスの記憶を刻み込まれただけでも腹が立つのに、余計な事を言ってウチでお客取れとか言われたら藪蛇だ。

それにしても、日比谷ってやっぱりわからない。

デカい家に住んで、親も金持ちで、顔も体も頭も良いように生まれて、親が離婚してる事なんて事差し引いても余裕で幸せな楽勝人生に見えるのに、何でこうもろくでもない事考えるんだろう。金に不自由してない日比谷からすれば、俺なんかで稼げる金なんてタカが知れてるだろうに。俺はずっとそれが不思議だった。

飽きたと言った割りには、日比谷もたまに俺を抱いた。お客にはさせない中出しをして、『俺は桜史のものです』って言わせるのがお気に入り。で、俺の中を散々汚した後に毎回、

『お前は死ぬまで俺のモノだからな、ちゃんと頭に叩き込んどけよ。』

って言われるけど、そんな訳なくない?ほんの2、3ヶ月で飽きた男を死ぬまで所有するなんて事ないだろ。今は飽きたオモチャを他人に貸して小遣い稼ぎしてても、オモチャだって生きてる限り歳は取るんだぞ。若さしか取り柄の無い平凡な男なんて、もう何年も経たない内に今度こそ賞味期限切れになる。

(今だけだ、もう暫くの我慢。)

俺はまた自分に言い聞かせて、再び日比谷の口から『飽きた』の言葉が出るのを待つ事にした。
3年になってクラスが別になれば、案外飽きたオモチャを手放してくれるかもしれない。
女の子も抱いてる日比谷は別にゲイじゃない。硬くて骨っぽい男の体が抱き心地が良いとは思えない。俺を抱きに来る物好き共だって、日比谷と同じだ。飽きるのは時間の問題。
ガキの頃に何年も耐えられた事を、今耐えられない筈が無い。そう思って心を殺して拷問のような時間をやり過ごした。

俺の期待も虚しく、日比谷とのつき合いは3年に進級してからも相変わらず続いた。そして、日比谷の恋人にされてそろそろ1年になろうかという9月。茹だるような残暑の中、俺は18歳になった。

この頃には、日比谷は俺を売る事にもやっと飽きたのか、毎週土曜日の"仕事"は徐々に減っていた。土曜に日比谷の家に呼ばれてもお客が居なくて日比谷と2人きりで過ごしたり、日比谷が俺のマンションに来たり。
しかも、何故か今までよりずっと優しくなった。まるでつき合う前の、友達だった頃みたいに。いや、セックスはされるんだけど、それも妙に優しくされて、俺が苦しくて泣くと止めてくれるようになったり、早目に切り上げてくれるようになった。
どういう風の吹き回しかと思ったけど、考えてみたら俺も日比谷も受験生なんだよな。特に俺は日比谷みたいに成績が良い訳じゃないから、余裕かましてられない。志望大学に合格する為には、これまで以上に成績を上げる必要があった。日比谷が何処の大学を目指してるのかは聞いてみた事は無かったけれど、多分県内偏差値トップの大学なんだろうなって予測はしてた。頭の出来の違う俺は、別のソコソコの大学。良いんだ、生きる為にそれなりの仕事に就ける程度の学歴さえあれば。日比谷みたいに全てが卓越した人間なら、輝かしい未来に向かう為にそれなりのレールに乗る必要もあるしそうする能力も備わってるけど、俺は違うから。

だから心の中で、大学進学が、日比谷が俺を捨てるタイミングだろうと踏んでいた。
大学に入れば学生の数は高校の比じゃない。洗練された綺麗な女だってたくさんいるだろう。そうすればアイツだって、俺に構ってる暇も興味も失くなる筈…。

俺は、完全に日比谷から解放される日を夢見て、ますます受験勉強に打ち込んだ。叔母さんみたいに立派な大人にはなれなくても、まともな人間にはなりたくて。俺なんかを引き取って、不自由無く大学に通える金を遺してくれた叔母さんの恩に報いる為にも、ちゃんと頑張ろうと思ったんだ。

そして、翌年3月。

高校を卒業して1週間後、俺は何とか志望大学に合格した。合格発表の日、日比谷からどうだったと連絡があって、合格したとだけ返すと、おめでとうと返信が来た。それは素直に嬉しくて、ありがとうと返した。日比谷は俺より何日か前に合格したと聞いて、発表日からしてやっぱり県内トップのM大なんだなと見当がついた。


けれど、その日を境に日比谷から連絡が来る事が無くなった。今までに無い事だったから変に思ったけど、俺から連絡を入れた事は無かったから放置していたら本当にそれきりスマホが鳴らなくなった。

それから1ヶ月くらいして大学の入学式で会った元クラスメイトから、日比谷が東京の大学に行ったと聞いた。てっきり県内のM大に行ったとばかり思っていた俺は、寝耳に水の話に暫く呆然とした。

俺は日比谷が嫌いでもないし、好きでもない。何なら、興味が無い。だから自分から日比谷の何かを知ろうとはしなかった。
俺の秘密を握って俺を好きに扱おうとする日比谷が只々鬱陶しくて、早く過ぎて行って欲しいと、そればかりを願って。
平穏で平凡な人生を望む俺にとって、日比谷は嵐だった。
突然俺の自由を奪った嵐は、また突然去って行った。

俺はやっと手放してもらえた。捨ててもらえたんだ。

なのに胸の中に吹くこの風は、一体何だろう…。



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