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お泊まり
しおりを挟む「泊まってきなよ。
大丈夫、緋夜が嫌がる事はしないからさ。」
緋夜の決心がつく迄、我慢できるよ。と覚に言われ、俺はいそいそと母に電話を入れた。
友達の家に泊まる、と。
母は戸惑っていたようだけれど、すんなり わかった、と答えた。
事件以来塞ぎ込み、時折夕方になると出かけていくだけの俺が、友人の家に泊まると言い出した事を、良い変化だと受け取ったのかな。
声は少し弾んでいたようだった。
実際のところ、この間初めて覚に会い、帰宅してからの俺は、家の中での口数も増えていて、両親ともポツポツ会話するようになっていた。
そういった点を踏まえて、歓迎すべき変化だと捉えたのかもしれない。
以前の俺は、活発な方ではなかったけれど、非社交的な訳ではなかった。
一緒に出かける友達も、家に遊びに来る友達もそれなりにいたのだ。
けれど、事件以降の俺は人目を気にして、自ら交友関係を絶っていた。
いじけていたんだ。
他人が皆、俺を嗤ってるか哀れんでると思って。
春兄に別れを告げられた事が、俺に僅かに残っていた自信を粉々にして、被害妄想を助長した。
実際は、俺を一番哀れんでいたのは自分だったのに。
気にせずにいてくれる、そんな人だってちゃんといたのに。
覚と出会えて、それがわかった。
両親だって友達だって、俺が醜いからと嫌ったりなんかしなかったって気づいたんだ。
「泊まっていいって。」
通話を切って覚を見ると、覚はにっこり笑って俺に擦り寄った。
「じゃあ、簡単にご飯作るからそれ食べて、その後は、何したい?
ゲームでもする?DVDでも観る?それとも一緒にお風呂入って、楽しい事、する?」
最後はわざと耳元に唇を寄せてた。
顔が熱くなった俺が耳を押さえて睨むと、覚はあははと笑って俺の頭を撫で、立ち上がった。
「じゃあ、ちょっと待っててね。
食べたいもの、ある?何が好き?」
「親子丼。」
「…そっちかあ~…。」
もしかしてハンバーグとかパスタとかを想定してたんだろうか。
オシャレな料理作れそうだもんね。俺と同い年の癖にさ。
αって何でも出来るんだね。
俺なんかどんなに頑張ってみても未だに目玉焼きすら焦がすよ。
将来、家庭に入る可能性の方が高いΩだってのにさ。
覚はキッチンに向かっていき、冷蔵庫を開けてブツブツ言ってる。
「卵はある、鶏肉確か昨日買っといたのどっちだっけ…あ、モモ肉か、良かった…玉ねぎ…あ、セーフセーフ。」
「……。」
…主婦みたいだね、覚。
それから30分もしない内にローテーブルの上には親子丼と味噌汁と温野菜サラダが並んだ。
「ちょっと合わないかもしれないけど、野菜も食べないとね。」
「うん。美味しそう。いただきます。」
手を合わせてから箸を持つ。
卵がとろとろで鶏肉もジューシー。
「うま…!」
「ほんと?良かった。
緋夜、卵料理が好きなんだね。」
「好き。卵料理は大概好き。」
「覚えた。卵レシピ増やさなきゃな。」
横でニコニコしながらそんな事を言う覚。
俺の為にレシピ増やしてくれるのか。嬉しい。
自然、頬が上がってしまう。
誤魔化すように聞いてみた。
「覚、卵レシピ、どんなの出来るの?」
覚は少し思い出すように考えて、
「そうだねえ…だし巻きとか、あ、オムライスも作れはするよ。勿論オムレツもね。
キッシュとか好きかな?」
と逆に聞いてきた。
「好きっ!!」
「じゃあ、今度作るね。」
「うん。楽しみ。」
今度。今度があるんだ。
俺、ほんとに覚と付き合ってるんだな…。
(…嬉しいな。それに、楽しい。)
何だか未だ夢見てるみたいな気がする。
親子丼、美味しい。
味噌汁には大根とワカメが入ってて、また美味しい。
サラダのブロッコリーも美味しい。
(俺の、好きなものばかり…。)
何だか幸せで、胸がいっぱいになってきた。
涙も出てきた。
「緋夜、どうしたの?大丈夫?味噌汁、熱かった?」
俺の様子に気づいた覚が慌てて覗き込んでくる。
それにううんと首を振って、笑った。
「違う、只、幸せだなって思った。」
覚は少し驚いて、次に安心したように微笑んだ。
素っ気ない、メールだと思ったけど、勇気出して良かったな…。
そう思った。
きっとこのまま順調に、覚と幸せになれるよな、って 思ったんだ。
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