知らない内に番にされ婚約させられたにも関わらず、本日婚約破棄を言い渡されたが俺はそれを甘んじて受ける

Q矢(Q.➽)

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2 番ができました。(立川side)

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「すまない。責任は取る。」
「それ、逆では。」

深々と下げた俺の頭を、藤川が慌てて宥め、上げさせてくれた。良い子だ。

「噛んじゃったの、俺ですし。」

まさか先生がΩだったとは…。

そう、藤川は笑った。しかし笑い事ではない事態になってるの、君は気づいていないのか?




実は俺がΩなのは、学内でもごく一部の人間しか知らない事だ。
時代が変化してきたとはいえ、まだまだΩに対する偏見は根強い。
仮にも准教授である俺の場合、‪‪α‬を名乗るのは無理があるにせよ、βだとしておく方が何かと上手く回るのだ。
だから表向き、俺のバース性はβという事になっている。
幸い、抑制剤がしっかり効く体質で、ヒートで苦労した事は殆ど無い。
抑制剤で匂いさえ抑えれば、幸か不幸か俺はβにしか見えない筈だった。
見た目からして、本当に並。
Ω特有の華奢さや中性的な可愛らしさ、美しさ…、そういう特徴は何一つ持たずに生まれた。
ごく普通の少し細身の男。そんなのβならゴロゴロいる。

小さい頃から常々、自分にΩの生き方は向いてないと思っていた。Ωらしさの感じられない ごく普通の容姿に生まれた事は不幸中の幸いだ。

こんな地味な自分には必要ない代物かもしれないと思いつつ、念の為にワイシャツの下に目立たないタイプのカラーやチョーカーはつけるようにしてるが、これまで1度たりとも
(つけてて良かった…)
と思うような不測の事態には陥った事がない。

自分が他人に興味が無いように、他人も自分に興味が無いのだ。

こんな自分は、誰かへの想いに身を焦がす事も無く、突き動かされるような衝動を感じた事も無く、誰からも求められる事も無く、只、無為に。
ひとりでこの生を消費して、そのままひとりで朽ちていくのだろうと、そう思っていた。


そんな自分に、まさか番ができるとは。




藤川は‪α‬、俺はΩ。

藤川は20、俺は30。

やや年齢が離れてはいるが、当人同士が納得していれば、通常の範疇の取り合わせだ。

納得、していれば。

しかしだ。

これは明らかに酒の勢いである…。

前途洋洋な将来を嘱望される‪α‬の大学生を
地味~なΩの年増が誑かした…

周囲はそう見るだろうし、親兄弟は納得いくまい。特定の相手はいないようだったが、それは本当にそうなのか。もし将来を共にと考えている相手がいたのなら、誠に申し訳ないし、それに、何より。何より、本人の気持ちが、俺は心配だった。

セックスで盛り上がってる最中、‪α‬はΩの項を噛みたくて噛みたくて仕方ない衝動に駆られるというし、何より藤川は、若い。その上まだ番も持っていないとなると…と、そこまで考えて、ふと 待てよ…?と思う。
相手はイージーモードでモッテモテランウェイを歩いて来たような男だぞ。
何なら中高時代から取り巻きの魅力的な男女とそれなりに遊んできている筈だ。それでも番未満の恋人すら作らずに来ているのだ。
色事には慣れているだろう。
そんな男が今更、俺みたいな冴えない年増を相手に抑制出来ないなんて事、あるだろうか?

いや。いや、駄目だ。打ち消す。
それは責任逃れだ。

結果は結果だ。
俺は責任を取らねばならない。


「話をしよう。」


ソファに藤川を誘った。

取り敢えず、これから先の事を話し合わねぱなるまい。
藤川も大人しく座…るかと思いきや、思いついたようにキッチンへ向かい、コーヒーを淹れてきてくれた。
あ、砂糖は5つでお願いします。

品の良い手つきでカップの中をスプーンで混ぜる姿もサマになっている藤川。流石色男。

「どうぞ。」
「ありがとう。」

ガラステーブルの上に同じマグカップが置かれる。

…コーヒーカップは同じもので何客も揃えたりするけど、マグカップを揃えてるのは珍しい…気がした。人によるか…。

ある程度冷めるまで待たなきゃ飲めないので、話を始めてしまう。


「とにかく、起きてしまった事は、申し訳ないが仕方ない。」

そう頭を下げると、藤川も僕が悪いので…と頭を下げた。

「いや、噛んでしまいたくなるのは‪α‬の本能だと聞くから、それは仕方ない。そもそもがベッド・インするに至ってしまったのが、こちらの落ち度だ。
いつも、記憶を無くすような飲み方はしないと心掛けていたんだが…。
言い訳だな、すまない。」

そう、何故自分の適量を越えて飲んでしまったのか。
思いがけず話し相手が出来たから、知らず知らずのうちに気分が良くなっていたんだろうか。


「……いや、僕もその辺は記憶が曖昧なのでお互い様ですよ。」

一瞬間が空いて、藤川が言う。
何か思い出そうとしたのだろうか?

「いや、どうにしろ、俺が悪い。
俺はいい歳の大人で、君はまだ学生だ。」
「年齢は関係無いと思いますけど。」

藤川が苦笑する。

「僕、一応18歳以上ですし、セックスの事だって責任は持てるつもりです。」
「セックスだけならな。」

ハア、と溜息を吐く。

「では、それらはお互い様という事にしてもだ。問題は、俺と君が番になってしまった事だよ。君が…、」

そこまで言って、一旦息を整える。

「君さえ希望するなら、番契約を解消してもらっても構わない。」

藤川が目を見張る。
彼の驚きは至極尤もだった。番の解除なんて、Ω側にはリスクだらけの事だ。普通は素直に応じるようなΩはいないし、ましてや自分から申し出るなど聞いた事もない話だ。それに、実際にそれを実行したらしたで、‪α‬にだって一時的ながらも、それなりに傷はつく。人間性への不信感という。
 世間の人々が‪α‬に番を解除されたΩの悲惨さを知らない訳では無いからだ。



「そんな事、本気で仰ってるんですか?」

先刻までとは声のトーンが違った。
少し怒っているような、低い声。

「君は俺の後々を心配しているんだろうが、」

俺は温度の下がってきたコーヒーを一口含んだ。甘い。
良い豆使ってるっぽいし、砂糖5個は入れ過ぎたか…。

「君にはどう見えているのかはわからないが、俺には、番を解除されたからと言って、特にデメリットは無い。
これまでもこの先も、誰かと番になるつもりも無かったし、経済的に困る予定も無いからな。」

経済。
恐らく‪α‬に捨てられたΩが悲惨な末路を辿るのは、ヒートは相変わらず来るのに、他の‪α‬を受け入れる事が出来ず 次の番を作れなくなる事が大きい。扶養先を失うのだ。
しかもヒートにより就労も困難。
どこの会社だって定期的に長期休暇を必要とする社員なんかすすんで雇用したくはない。
リモート?
ヒート中のΩに出来る事はただただ、抑制剤を飲んで布団にくるまって悶えている事くらいなのだ。
一方の‪α‬の方はもう他の誰かとよろしくやっているだろうに、すごく理不尽な話だ。

その点、俺の場合は。
ヒートも軽い、抑制剤で抑えも効く。
元々人肌が苦手で性欲も薄いから番を必要ともしない。
そんな体質だから仕事にも支障が無いし、自分ひとり食っていくくらいなんて事はない。

投薬での解除になるだろうからネックはその高額さだが、そこは悪いがやはり折半で…。


そこまでつらつらと考えて、ふと藤川を見ると、手にしたカップの中をじっと眺めて何かを考えている。

「藤川?」

呼びかけると、我に返ったように俺を見た。
どっちが解除される側かわからんなこの感じ。



「はずみで番になった俺がいたんじゃ、後々君にとっても不利益になるんじゃないかと思うんだが。」

俺は特に困らない。目下俺の気がかりは、俺なんかよりよっぽど輝かしい未来が待っているであろう、いたいけな学生の将来である。
腐っても教鞭を執る者として…。


暫く沈黙が続いた後、藤川は漸く口を開いた。


「どうせ解除する前提なら、試しに付き合ってみませんか。」
「…それは…」

耳を疑った。何故だ。


「先生は、どう思われてらっしゃるかわかりませんが、」


俺なんかを相手に、緊張しているのだろうか。藤川は下唇を舐めて、意を決したように続けた。

「夢中でしたけど…実は、ところどころ覚えてるんです。最中の事。」
「………。」
「…凄く、良かったんです」

いや何を言い出すんだ藤川。

「先生とは肌が合うと思いました。」

正気にかえれ藤川。

「即、解除とか、僕は納得出来ません。」

ええ…。

嫌な予感しかしない流れだ。

「大人として責任をとって下さる気があると仰るなら、結婚して下さい。」
「…………」

圧の篭った、低い声。結婚して下さいませんか、ではなく、して下さい。
‪α‬のそれは、丁寧な形を取りながらの命令である。決定事項なのだ。
その場合、Ωが‪α‬に、逆らえると思うだろうか。

「…はい。」


頷くと藤川は、静かに続けた。


「では、先ずは婚約からで。
卒業したら直ぐに婚姻届を出しましょう。」



まあ、もう結婚してるも同然なんですけどね。


藤川が笑顔で言い放った言葉が纏わりついてくるかのように感じた。


藤川の両親が反対してくれる事を期待していたが、Ωであるにも関わらず准教授の職を得ている事で妙な高評価を得てしまったのか、淡い期待は虚しく裏切られ…、2週間後、俺達は恙無く婚約の運びとなった。








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