知らない内に番にされ婚約させられたにも関わらず、本日婚約破棄を言い渡されたが俺はそれを甘んじて受ける

Q矢(Q.➽)

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1 婚約解消 (立川side)


「運命に出会ってしまったんだ。申し訳ないけど婚約と番を解消して欲しい。」
「わかった。じゃあ明日も講義ちゃんと出ろよ。」


伝票を掴み席を立つと、向かい合わせに座っていた2人が、(は?)といいたげな顔で俺を見上げた。

「…え?あ、割り勘が良い?」

別れる相手に借りは作りたくない感じか。本当に案外生真面目なところがあるな。

「…いや、いやいや、そうじゃなくて…いや、お茶代は呼び出したこちらが払うし…。
じゃない、そうじゃなくって…、」

要領を得ない。

「いや、この中で俺が1番年長者の上、社会人なんだから俺が払うべきだろ。」

俺の中ではそれは当然の事だった。しかし、彼が食い下がる。

「僕が払うってば!ああ、もう…そこじゃなくて…。」

じゃあ何なんだ。
立ち上がった彼をまじまじ見ると、微妙な表情で見返された。

「洸さんは、それで良いの?」

良いの?と言われても。

「お前が決めた事ならそれが一番だろう。運命が見つかったなら、めでたい事だ。おめでとう。」
「……ありがとう…。」
「そうと決まれば近々病院に行くから、それは付き合ってくれるか。隣の彼も、すまないがそれは目を瞑って欲しい。」
「いえ、あ、はい、それは。」
「ありがとう。じゃあ、また。」
「………。」


彼の隣に戸惑い顔で座っている華奢な男に話しかけると、慌てたように忙しい頷きで応えられた。
しかし、当の彼自身は無言。
どうしたんだろうか。
…まあ、また後できちんと日程の連絡を入れるか。それがはっきりしなければ予約を入れる事も出来ない。

2人に軽く会釈をして、今度こそ本当に俺はレジに向かい歩き出した。

もう声は追いかけては来なかった。






俺は立川洸、大学の准教授だ。

半年前に婚約したばかりだった。
その相手が先程の会話の彼である。
藤川丞20歳。俺の番だ。
大学の教え子であり、そして半年前に突如婚約して、つい先程本人希望によりおそらく解消となる…となれば、元婚約者、元番になるのか。

藤川はかなりの美男子。学内でも人気のある学生の1人で、周囲にはいつも幾人もの男女をくっつけて歩いていた。
そしてそれは、単に人気があるからと言うだけの理由ではない。
藤川が将来有望な、しかもまだ番を持たない‪、更には特定の恋人すら作っていないα‬だったからである。
周囲に群がる金魚のフン共は、藤川の番希望者達でもあったのだ。

そんなキラキラ大学生と、日々仕事しかしていない地味な日常を送っていた俺が、受講するされる以外の接触を持つ訳もなく。
只、何かと目立つ彼は何故か学内での行動範囲が結構俺と被る事が多く、嫌でも目についた。

それが急接近したのは今から半年前。
俺の行きつけの居酒屋に藤川が1人で現れた事で状況は一変した。

月に2度ほど、日頃の息抜きと自分への労いの為に、俺はその小さな居酒屋へ通っていた。
無口な親爺さんひとりで切り盛りしてる小さな路地裏の店だ。
でも、肴が美味い。干物の焼き加減も絶妙。
その上、俺の郷里の地酒も置いている。
5人入ればもう満員になるような、カウンターだけのその店は、誰にも教えた事の無い俺の心のオアシスだった。

あの夜、藤川が興味深そうな顔でその店の暖簾を潜ってくるまでは。



「あれ…立川先生…ですよね?」

生憎その日はまだ時間も早かったせいか、客は俺ひとり。
その店は他の来客の為、先客は奥に詰めて座るのが暗黙の了解。
当然のように隣に座った藤川は、俺に話しかけてきた。
俺の講義をとっているんだから、顔は知ってはいるだろうが、話しかけてくるとは思っていなかった俺は内心、少し驚いた。

「そうだよ。君はウチの学生だな。
えーと、」
「藤川です。藤川丞(たすく)。」

目立つ学生なので顔は認識していたが名前はうろ覚えだったので助かる。
正直、何千と居る学生達の名前など全部が全部覚えちゃいない。元々人名を覚える事自体が、苦手。

「僕の事、ご存知でいらしたんですね。」
「それはまあ、受講してる生徒の顔くらいはね。」

気分を害したかと思ったが、藤川はにこりと微笑んで、嬉しいです、と言った。

そこから、ポツポツと出身地やら当たり障りない事を話しながら飲み…
気づいたのは翌朝、藤川の部屋のベッドの上。
一瞬寝惚けて、(出勤!)と焦ったが、すぐに休日だったと思い出したのは、休日前にしか飲まないと決めているからだ。

ホッ…。胸を撫で下ろす。だが。

自宅ではない。それなりに広めの室内に、ウチとは違う、黒を基調とした高そうな家具に、ベッド。
見回しついでに横を見下ろすと、横に誰か寝ていた。
見覚えのありすぎる、彫りの深い美顔。

藤川だった。

体中が軋むように痛い。まさか。

思わず自分の喉元を指が探る。

チョーカーが無かった。

それを認識すると同時に項に激痛が走る。

噛まれているのは明らかだった。


酒に酔っていた間に、藤川の番になってしまっていたのだ。



















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