19 / 36
19 運命じゃなくても (藤川side)
しおりを挟む季節が幾度も巡り、俺は社会人になった。
卒業した後、俺は父の会社に入り後継者修行に多忙な日々を送っていた。
ウチの家業はフランチャイズ展開している外食産業だ。
学生の頃、バイトのひとつも経験の無かった俺には、現場を経験する為の最初の研修期間はなかなかハードだったが、数年経った今では本社勤務に戻っている。
大学に通っていたあの頃、榊とよくつるんでいたカフェもウチのチェーン店だった。仕事を始めてそれを知った時ほど、俺は世間知らずで親の仕事というものに無関心だったと反省した事はない。
俺って奴は何も知ろうともせず、本当にぬくぬくと 享受だけをしてきたのだ。
あの頃ーーー、
あの20歳の頃、熱病に罹ったように夢中になった恋。
泡沫のようにあまりにも不意に消えてしまったから、諦める事さえできないまま、俺は未だにあの人の面影に囚われていた。
忘れる事が出来ないなら、せめて遠くから見ている事くらいは許して欲しかったのに。
囲い込みに失敗して、みすみす逃して、悔やんで悔やんで 焦がれて恋しくて、先へ進む事すら出来ない。
あの人に何処か似た誰かを抱いてみても、終わった後に思い知らされるだけだった。あの人に似た人間なんか他に存在なんかしないと言う事を。
他人と無為に肌を合わせるくらいなら、未練たらしくても思い出の中のあの人を抱いている方がずっと良い。
相も変わらず左手の薬指にある指輪は、俺の未練なのか執着なのか…。
番を解除しても、αにはほぼリスクは無い。
相変わらず他のΩの匂いは感知するし、俺の匂いに誘引されてくるΩもいる。
でももし、あの人に今 会えても…俺達が、お互いの匂いを嗅ぎ取れるのかは、わからない。
それでも俺はあの人がいい。
フェロモンを嗅ぎ取れなくても、運命じゃなくても、
あの人があの人であるだけで、俺は欲しい。
視界の端に入るだけでも愛しさに胸を高鳴らせる事ができるような人になんて、もう2度と出会えない。
「招待状届いたよ、おめでとう。」
マンションに帰ると暫く会ってなかった榊から結婚式の招待状が届き、久々に電話をすると相変わらずワンコールで出た。
どんだけスマホ弄ってんのお前は。
呆れながらどかっとカウチに腰を下ろす。
「ありがとう。まあ、ほんとはもう少し俺の仕事が落ち着いてからって気持ちはあるんだけど、香織がさ…。」
「そうだなあ。もう長いもんな、お前ら。」
かれこれ10年近い付き合いだもんな。
そりゃ痺れも切らすか…。
なんて考えてたら、榊が少し照れたように、
「いやさ、妊娠して…」
と来たので、
「え、お前妊娠したの?」
と素で返してしまった。
「んな訳あるか?香織に決まってんだろが…。」
「…だよな、すまん。重ねておめでとう。」
榊と香織ちゃんはβカップルだもんな。
そりゃ妊娠するのは香織ちゃんだよな。
自分で言っといてちょっと笑ってしまった。
榊もつられたらしく声が笑ってる。
「ありがとう。」
榊は電話の向こうで、クスッと笑って、
「まあ、なんだな。そういうタイミングなのかな、って思ってさ。で、腹が目立たない内にやりたいって言うから少し急ぎでやる事にした。」
と言った。
タイミングか…。
逃しちゃならないもの。
逃したらまた、巡ってくるまで待たなきゃいけないもの。
それはチャンスと同じ。
子供ができた事が榊のターニングポイントになったんだな。
「そうなのかもな。何はともあれ、良かったな。」
「うん。なんか未だ実感は無いけどな。」
何やかや、声も穏やかで幸せそうだ。
「式、出席できそうか?」
日時を見ると、2ヶ月後で本当に早い。
「大丈夫。全然調整利く。」
「良かった。じゃあ、返送よろしくな。」
電話を切ると、途端に静まり返った部屋に戻る。
卒業してから結婚の連絡が来たのは、何も榊が始めてではない。
俺だって卒業したら直ぐに結婚しようと思ってたくらいだからな…。
あの時順調に結婚できていたとしたら、今頃は洸さんと暮らしてて、もしかしたら榊のように子供も…。
そこまで考えて、ふるふると頭を振る。
過ぎた事を考えても仕方ない。
ifを考えるなら未来の事を考えないと。
スマホをガラステーブルに置き、立ち上がる。
風呂にでも入ろうとネクタイを外してバスルームに向かった俺は、気づかなかった。
着信音量を最小にしたスマホに、一通のメールが届いた事に。
343
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる