異世界でも商売!商売!

矢島祐

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01 ヌーボー・レース

巨乳天才ララガとロリメイドのアデル

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 チェッカーフラッグは無かったが、
儀仗兵のような派手な兵士達がファンファーレのようにラッパを鳴らした。
これがゴールの合図のようだ。

 ずっと気を張っていたせいか、どっと疲れが襲ってきたものの
「この世界のラッパ?も形はよく似てるなぁ」
などとどうでもいい事を考える

 兵士が馬車に駆け寄って
「おめでとう。こちらへどうぞ」
というが、車輪が一個無いから無理だぞ?と思ったら
兵士の1人が車輪の無くなった右前を持ち上げて運んでくれた。
最初は両手で支えようとしていたが「うわ、軽っ!」と言って左手1本で運ぶ。

 その軽々と持つ姿を見て、徐々に集まってきた民衆達が
「なんだ?あれ!妙に軽そうだぞ!」
「片手で持てる軽さだと?!」
と、どよめく。

 停車させたところで馬車を降りたら、
「こ、腰が……もうあかん」
地面にへたり込んでしまう。
いくら若い体でも無理をさせすぎた。

「なんじゃ、さっきはちいと格好良かったのに。情けないのう」
「いやさすがに疲れたぁ……」

 兵士が無くなった車輪の代わりに木箱を重ねて支え、酒樽を下ろす。

「あの一番に来た新酒を飲めば無病息災と言われておるのじゃよ」
 それでか。
さっきからゾロゾロ人が城内に入って来ているのだが、
増える一方でどんどん人垣が大きくなっている訳は

「飲みに来ただけかよ!」

 いや、気持ちはわかるけど
こういう縁起物ってのは、どの世界でも共通なのかぁ

 と思ったら、人垣をかき分けてドレス姿の若い女性が出てきて
「ダニーっ!!!やったじゃねぇかぁぁ!」
と勢いよく抱きついてきた。
なんだ?誰だ!
「おめぇは凄いなぁぁぁ!本当に勝つとはよぉ!!」
ダニーの記憶を探っても出てこないので
このひと誰?という顔でリーナを見たが、リーナも首を横に振る。

 感極まったのか女性は涙を流しながら
「本当によぉ、おめぇのおかげでおいらはよぉ」
と感謝している様子だが、誰だかわからないのでちょっと怖い。

 それでも振りほどいたりしないのは
「……胸、でけぇ!本当にでけぇぇぇ」
柔らかいビッグな双丘をぐいぐい押しつけて来るのでこっちにもクルものがある。
このままだとなんだか
「みなぎってくる男の自信スッポン!」
みたいな事になりそうだ。

「はい、そこ離れろクソダニーとクソ御主人様」
抱きついていた女性が乱暴に引き剥がされる。
「アデルぅ、なにするんでぇ」
アデルとよばれた、女性を引き剥がした人は

「メイドか……」
「メイドじゃの」

 しかも、年端もいかない少女のメイド。
年の頃はリーナと同じ10歳くらいかな?
長い銀の髪に切れ長の赤い目、色素も表情も薄いクールな印象だ。
リーナも美少女の部類だが、この娘もなかなかに可愛い。
口はすっごく悪そうだが……



 ん?
記憶にひっかかる感じがしたので、よく思い出してみれば
メイドのアデルが仕える御主人様って言えば……
この抱きついてきた人は……

「え?!あんたララガだったのか!」
「ひでぇな!今の今まで気がついてなかったのかよぉ!」

 ララガ・ゲーンズリィ。若い女性だが、いわゆる天才だ。
この馬車の設計と製造をおこない、ゴムの改良――「加硫」を発見しただけではなく
芝居の台本、経営コンサルタント、さらには山師のような真似やオモチャの制作まで幅広く活躍するが、元々の本業は薬師らしい。

 ただ、いつもは自分で発明した上下ひとつなぎの作業服
(まぁただのツナギのようだ)
しか着ていないしダニーもそんな姿しか見てないから、こんなドレスだと

「いや本当に誰だかわからなかった……」
「なんだよぉ、おいらだってこんな格好する時もあるぜぇ」
 体の持ち主ダニーの記憶にすら無いもの、はさすがにわからん!

「だから御主人様はそんなにめかし込んでも無駄無駄。キャラじゃないからほら、ダニーもリアクションに困ってる。いや?御主人様がここまで綺麗になっているのに賞賛しないダニーは死すべき。抱きつかれて鼻の下のばしてたダニーは死刑。胸の感触を満喫していたダニーは死刑死刑死刑ぇぇぇぇぇぇ」

 いい感じで壊れてきたアデルは怖いのでとりあえず無視して
体から湧き上がる……ダニーが言いたかったであろう台詞を言う。

「ララガ、なんとか勝てた。これで君との約束を果たせたよ」
「死んでも勝つから心配するな、とか言ってたけどよぉ、本当に勝つとはなぁ」

ダニーの記憶にあるララガとの約束。
改良されたゴムの専売権を買い取りたいダニー。
しかし、どうやって売る気かいい手が無けりゃぁ売るわけにはいかねぇ、
こいつはおいらの命より大事なモンだ!
とララガに啖呵を切られて
「それならこのレースに(ゴムを使った馬車で)勝てば最高の宣伝になる」
とぶち上げ、そのために徹底して準備を重ねてきたダニー。

 本当に死んでも勝てたのは、ダニーの功績だとつくづく思う。
ここまでやりきった事が、俺にはあっただろうか……
だから、この勝利は俺の物では無いのだろう。

 アデルが俺とララガの間にグイッと割り込んでくる
「はいそこ、雰囲気出さない。もうすぐ表彰式と試飲式。悔しいけど主役がいないと祭りが始まらない」
「お、そうだったな。ダニー、行ってこいよ」
立ち上がると、どんっ!とララガに背中を押される。

「そうじゃな、おぬしにはその『資格』があるぞ。堂々と表彰されてこい」

 俺のためらいを察したのか、リーナが言葉で俺の背中を押す。

「あの状況からひっくり返したのは、間違いなくおぬしの功績じゃ。誇ってよいぞ」

 そう言ってくれると救われるな。
リーナ。ありがとう。

「……ところでよぉ、この娘、だれなんでぇ?」
「ダニーに娘がいたとは。女に縁の無いくされ商人だとばかり思っていた。いや、ダニーの娘にしては身なりがよすぎるから誘拐?監禁?このロリコン」

今気がついた、という感じでララガとアデルがリーナの事を聞いてくる。

「ああ、わらわの紹介がまだじゃったな」
リーナは腕組みして体を斜め45度、右足を半歩前、顎をあげ、
にたぁ、と笑って

「わらわは、このダニーの妻となるものじゃ。もう初夜は済ませておる」

ぶちかましてくれやがりました……
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