一般人な僕は、冒険者な親友について行く

ひまり

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110 予定は未定で皆無ともいう

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 1.昔々、すっごく悪い王様がいました。
 2.それを英雄王がやっつけました。
 3.  そしてサンドラス王国が誕生しました。

 ――以上、『三行でわかる英雄王の偉業』より。


「……。……」

 世の中には三行で語るのはどうかと思ってしまうものもある。
 タイトルに惹かれて開いていた本、と呼ぶにはぺらっぺらなそれを閉じた聖は、なかったことにしようと笑顔でそれを元の場所に戻した。

 現在いるのはルーカスの家。
 城からここまで1時間くらいだろうか。目に入るものが物珍しく、のんびり歩いてきたため実際はもう少し近いのだろうが、中心部から少し離れた静かなところにそれはある。

 リビングへと案内され、寛いでくれと言われたのだが、何やら人が来てルーカスは城へと戻って行ってしまった。
 そのさい渡されたのがこの本たちであり、この国では何処の家庭でも似たようなものを必ず持っているらしい。
 まあ、子供向けの絵本のようなものなのだろうと思う。
 では、大人向けの本はないのかというと、途端に分厚くなる。

 視線の先では、春樹がその分厚い本を真剣な表情で、且つ高速で読み進めている。正直聖にはできない芸当である。
 なので、まだまだある絵本のような、それでも先ほどのよりはきちんとした本を手に取り読み進めることにする。

 どのくらい経っただろうか。
 本が閉じられる音が聞こえ、聖は顔を上げる。

「あ、読み終わったの?」
「ああ、そっちは……なんか、気になる題名の本だなそれ」
「これ?」

 言われて手元の本を見る。
 『英雄王が残した偉大なる文字~いつの日か解読されるといいな』というこれまた何とも言えない題名だった。

「日本語だよ。なんか英雄王が紙の端っこに書き記したものとかを、書き写してまとめたものだって」
「へー、例えば?」
「『笑えるほどのブラック企業』『殴らせろ神』『どこに訴えればいいんだ』『スローライフって夢だよな』『今日はすき焼きで』……とか?」
「……………苦労したんだな、英雄王」

 春樹が目頭を押さえる。
 はっきり言って、ご苦労様ですとしか言えない内容だった。同時に解読されてなくてよかったですね、と思う。イメージって大事。

「それで春樹の方は?」
「ああ、こっちは……」
「……」
「……」

 などと話していると、なにやらだいぶお疲れモードなルーカスが戻ってきた。
 城で何かがあったらしい。

「どうしたんですか? すごくお疲れな感じですけど……」
「ああ、いや。大丈夫だ」
「そうですか?」

 椅子に腰かけ、それより先ほど聞けなかった話を聞きたいと言われ、姿勢を正す。

「まず、何故城にいたかだが、……入りたくて入ったんじゃないんだよな?」
「はい」
「もちろん」

 入る気も、その選択肢もまるでなかったので頷く。

「じゃあ、どうやってあの場所にいた?」
「どうやって、というか……」
「城に入るには許可が必要だ。うっかりで入れるような場所じゃない」
「えーと……」

 思わず口ごもって春樹を見ると、同じようにどうしたものかと迷うような視線が帰ってくる。

 なぜかというと、先ほど春樹が読んでいた本は、かなりいろいろ詳しく書かれたものであり、その中にはなんと『英雄王と盟約を結び、その手助けをした白き聖なる獣』というものがあった。
 それで思い浮かぶものなど、聖と春樹には一匹しか思いつかない。ひょっとしたら何処かに別の、英雄王と盟約を結んだ聖なる獣とやらがいるのかもしれないが、残念ながら状況的に見て間違いはないと思われる。
 ……ひょっとして英雄王が名付け親ですか? と一瞬思考がそれたが。

 それはさておき、それを込みで話すといろいろとめんどくさい事態になりそうな気がしてならなかった。
 よって、

「えーと、なんというか、親切な人(?)に送ってもらったような感じなんですけど、ちょっと場所が予定とは違ったというかなんというか……」

 誤魔化して話してみたが、どう聞いても怪しさ満点である。
 これで納得出来たら逆に大丈夫かと聞きたいくらいだが、何故かルーカスは頷いた。

「「えっ」」
「うん、頑張って誤魔化そうと試みたのは微笑ましいと言いたところだが、誤魔化せてないからな。無理だからな」
「……ですよねー」
「……だよなー」

 ははは、と思わず乾いた笑いが零れる。
 これはあれである。
 恐らくルーカスはどうしてこうなったのかを知っている。
 まあ、誤魔化さなくていいので楽と言えば楽なのだが。

「……さっき城に呼ばれたのは、これか?」
「そうだなー、宮廷魔術師たちが走り回ってたなー」
「え? どうして走り回るんですか?」
「盟約の白き聖なる獣との道が一瞬とはいえ繋がれたから、らしいぞ? 一生懸命探してたな」
「「……。……」」

 まさかの事態に、すぐさま城を離れてよかったと胸を撫で下ろす。

「ああ、ちなみに落ち人との関連を知ってるのは俺を呼び出した張本人だけだから安心しろ、……まあ今のところは」
「「今のところは!?」」

 そっと目を逸らされた。
 どういう意味ですかと問い詰めたい。

「……ルーカス、あんたが俺たちのことを話したのか?」
「お前たちの印象を話したことはあるが、今回のことに関しては否だな。……そもそも最初の依頼を出してるのはこの国だ。本当に基本的なことだけだが、報告されてるのは説明されただろ?」

 言われて頷く。
 伝えられるのは、本当に最初にギルドで見たステータスの内容だけ。
 けれど、どうにもルーカスの様子を見ていると知られているのはそれだけではない気がしてならない。

「……あんまり言いたくないんだが、俺を呼び出した人はあちこちに人を放っていてな。なんというか、それで情報があげられてるんだが、かなりお前たちに興味を持ってしまったようで……」

 途端、ルーカスの瞳に憐みの色が宿った。

「え、なんで興味!?」
「てか、どんな奴だよそれ!?」
「いや、うん、なんていうかまともな人、ではあるぞ? けっして無理強いするような人でもないし……」
「じゃあなんでそんな目をそらすんだよ」
「……なんていうか、ちょっと癖の強いというか……すまん」
「謝らないでください! というか会わなきゃいけないんですかそれ!?」

 本来自由な冒険者であるはずのルーカスが、言っている内容はどうしようもないながらも敬意を払っているのは理解できるし、いやいや従っているようにも見えない。
 なので、悪い人ではないとは思うが変な人であることは確かだった。
 できれば会いたくない。
 そんな気持ちを込めて見ると、ルーカスは慌てて首を振る。

「あ、それは大丈夫だ。本人が了承したら、と言ってある」
「……よかった」
「……なら、いいか」

 ほっと一息。
 だが、ルーカスは何とも言えない顔をしている。

「……あー、気が向いたらでいいんだが、その時は会って欲しいなと思うんだが……」

 やや歯切れの悪い言い方に、聖と春樹は一度顔を見合わせたのち、にっこりと笑顔を浮かべる。

「気が向いたら、ですよね?」
「気が向いたら、会ってもいいぞ?」
「……まあ、そうなるわな」

 ルーカスが苦笑する。
 なにせ気が向く予定は今のところない。
 それに気が向くかもしれない日は、きっとこの国を堪能して離れる時である。

 面倒なことになったら一目散に逃げよう。

 それが聖と春樹の出した答えであった。


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