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7 人はそれを未知との遭遇という。
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「久しぶりだな、リディア」
はちみつ色の髪に緑色の瞳。濃いか薄いかの違いしかない、己と同じ色を纏った第二王子を前に、リディアは名前はなんだっただろうかとそんなことを考える。
「……お久しぶりでございます、クロメレッド殿下」
条件反射のように出てきた言葉に、ああ、そういえばそんな名前だったと思い出し、改めて彼らを見る。
リディアと向かい合うように椅子に座っているのはクロメレッドだけで、その後ろに攻略者たちが控えるように立っている。
正直名前は忘れた、というか覚えている必要性を感じていないので思い出す気もないが、たしか伯爵家の次男と、騎士団長の三男と、筆頭魔法使いの次男、だったはずである。
ちなみに、彼らの椅子もきちんと用意されているのだが、リディアは特に何も言っていない。座りたいなら座ればいいし、立っていたいのなら立っていればいいと思っている。
「それで殿下。何かお話があるとのことですが?」
「ああ、リディア、まずは君に謝罪を」
「……まあ」
思わずリディアは扇を広げ、口元を隠す。
まさかこの王子から謝罪なんて言う言葉が聞けるとは思わなかった。
「謝罪、ですか」
「ああ、本当にすまなかった。決して君を蔑ろにしていたつもりはないのだが、そうとられてもおかしくなかったと、ようやく気付いた」
「…………」
リディアは扇の下で薄く微笑みながら、沈黙する。
グリーフィッドに頭を下げられるのはもってのほかだが、クロメレッドに下げられるのならば別である。
「……もう済んだことです。謝罪はお受けいたします」
「――!! 感謝する」
クロメレッドがほっとしたように笑う。
そして、続けた言葉にリディアは言葉を失った。
「ならばどうか、ネイラを愛妾とすることも許してほしい」
「――は?」
思わず素の声が出た。
今、この王子は何と言った?
「僕はネイラに出会って本当の愛を知ってしまった。これはどうやっても変えられない」
「……はあ」
「だが、君も大切にすると誓うし、決して蔑ろにしたりはしない。いつだって君を一番に考える。だから、愛妾としてネイラを愛することだけは許してほしいんだ」
「………はあ」
リディアには、意味が分からなかった。
もはや頭の中は、何言ってんだこいつ頭大丈夫? 状態である。
それと同時にネイラをこの部屋に呼んでいなくてよかったと心底思う。
なにせ王子たちがどういう態度で来るのかわからなかったので、まずはリディアだけで対峙することにしたのだが、それは正解であった。
もちろん、ネイラも隣の部屋で見てはいるのだが。
「……殿下。仰られている意味が分かりかねます」
「ああ、やっぱりまだ怒っているんだねリディア」
「いえ、そうではなく。私たちの婚約は破棄されております」
「ああ、だからそれはまだ君が僕を許してくれていないからだろう?」
「は?」
なぜだろう、先ほどから疑問の言葉しか口から出ていない気がしてならない。
とにかく話がかみ合わない。
けれど、同時に理解する。
グリーフィッドが言っていたのは、これかと。
だからこその、現実をわからせてほしい発言だったのかと。
リディアは、なんとも言えない表情を浮かべそうになるのを、培ってきた淑女教育でなんとか抑え込む。
「殿下。これは許す許さないの問題ではなく……」
「リディア嬢、あなたにも事情があるのでしょうが、それを呑み込むのもまた淑女として大事なことだと進言いたします」
「は?」
遮られた言葉に、さすがにリディアは固まる。
発言したのは、某伯爵の次男。それに続き、騎士団長の三男や筆頭魔法使いの次男も好き勝手に発言し始めた。
「俺は殿下の態度も確かに悪かったとは思う。でもな、愛妾を認めないってのはどうかと思ってな」
「そうですね。夫が愛妾を持つのはステータスの1つ。それを認める寛容さが妻には必要なことでしょう」
なにやら盛大に勘違いも甚だしいことを言っているのだが、リディアには一つだけどうしても確かめたいことがあったので、いろいろとのみ込む。
そして、ゆっくりと口を開く。
「……とりあえずお三方にお聞き致しますが、たしかあなた方も彼女に好意を抱いていたように見受けられましたが?」
そう、完璧な逆ハールートに入っていると思ったのだが、どうも違うように感じる。
その問いに、三人は顔を見合わせたかと思うと、やや辛そうに表情をゆがめた。
「……確かにその通りです。ですが、我々では彼女を幸せに出来ないと感じました」
「ああ、悔しいが俺では無理だ。だから殿下に託したんだ」
「ええ、そうです。殿下ならば、彼女もきっと幸せになれる」
「……そう、ですか」
これまた勘違いにもほどがある。
彼らの中で何がどうなってそういう結論に達したのかはわからないが、どう考えてもネイラは幸せになどなれるわけがない。
いったい彼らの中のネイラ像はどうなっているのだろうか。
隣室で、ネイラが額に青筋を浮かべているだろうことは、想像に難くない。
「リディア、僕は彼女を幸せにしたいんだ。だから頼む、愛妾として認めてほしい」
「お願いします、リディア嬢」
「俺からも頼むよ。愛妾の一人や二人、貴族の義務だろ?」
「そうです。殿下がここまで言っているのです。寛大な心でどうかお許しを」
「――。――」
リディアは揃って頭を下げるその様子を、ただじっと見る。
前世の記憶が戻ってからのリディアは、とにかくクロメレッドが好みではなかった。
では、戻る前のリディアはどうだったかというと、顔は好きでも嫌いでもなかった。
けれど、何処か好きにはなれなかった。それは何故か?
「…………」
手に持つ扇を閉じて、そして開き、また閉じる。
ゆっくりと息を吸って、そして静かに口を開いた。
「……つまり皆様方は、私を愛妾の存在も認められない狭量な小娘だとお思いで?」
「「「「え?」」」」
先ほどからそれなりに我慢していたのだが、流石に限界である。
貴族の令嬢としての教育を受けてきたリディアである。夫が愛妾を持つことも必要だと思っているし、それは記憶がよみがえった後でも変わらない。
それなのに、王子は、彼らは、リディアはそれが認められなくて、ネイラに嫉妬して婚約を破棄したのだと思っている。
つまりそれは。
「……ずいぶんと、我がオルコット家は侮られたものですこと」
そう、それはリディアを令嬢失格だと、オルコット家の教育に不備があったのだと言っているのに他ならない。
それに怒りを覚えるのは当然であった。
「だ、だがっ」
「そもそも私が婚約破棄を申し出たのは、殿下が生徒会の仕事を放棄なさったのが原因です」
何かを言いかけたクロメレッドの言葉をさえぎって、リディアは言う。
「なぜ、仕事も碌になさらない方を我が家の婿として向かい入れなければならないのでしょう」
学園ではそれぞれの学年で生徒会が存在しており、ここにいる、リディアを含めた全員が生徒会に属していた。
そして、その生徒会の仕事というのはそれなりに多岐に渡り、決して少なくはない。
だというのに、途中からリディア以外のものがことごとく放棄していったのだ。では、そのしわ寄せがどこに来るのかというと、当然リディアである。
つまり、リディアは約1年間ほぼすべての業務を一人で片付けていたのである。
今思えば、本当に記憶が戻る前のリディアは、よく我慢したなと思う。いや、ひょっとしたら我慢の限界で、前世の記憶とやらがよみがえったのかもしれないが。
「ですので、私が婚約破棄を申し出たのに彼女は全く、欠片も、関係ありません」
「だ、だが」
「そもそも、本人に確認したのですか?」
「え?」
「ですから、愛妾になるか否かを」
もちろん、確認なんてしているはずもなく、していてもネイラは承諾などしなかっただろう。
わかりきった質問なのだが、念のため何と答えるのか聞いてみたかった。
「いや、それはまだこれからだが。その、ネイラはきっと喜んでくれると思うんだ」
それはない。
「それに、君がネイラをここに連れて来たんじゃないのか? 僕から離すために」
それは嫌がらせで、ということだろうか。
先ほどまでいったい何を聞いていたんだと、思わず扇を持つ手に力が入る。
「……私の言葉は理解できていますか? 何処に、ネイラを連れて行く要素がございました?」
「だが! ならばなぜネイラは僕から離れた! 君の言葉は矛盾だらけだ!」
思わず、といった様子でクロメレッドが叫び、周りの3人も厳しい眼差しでこちらを見る。
それにリディアは、とうとう淑女としての微笑みの仮面が保てなくなった。
呆れた表情を隠すことなく、視線を返す。
「そもそも、なぜそんなにまでネイラに好かれている自信があるのか甚だ疑問なんですが」
そして、言葉も崩れ始める。
若干訝しげな視線が注がれるが、そんなものはもはや無視である。
「思い込みが激しいと、誰かに言われたことはありませんか?」
「なっ、無礼な!」
「無礼なのはどちらです? ありもしない嫉妬を疑われ、さらに誘拐の罪を着せられたのはこちらです」
「それはっ」
「そもそもあなたは私の好みからは、ものすごく外れたところに存在するので、嫉妬はあり得ません」
「――!!」
絶句の表情をするクロメレッドと3人。
まあ、それなりに顔がいいのでこんな態度など取られたことがないのだろう。
だが、とらないだけで、そう思うものはそれなりに存在するのをリディアは知っている。
「まあ、なぜそんなに驚いてますの? まさか自分を好きになるのは当然だとでも思ってますの? とんだナルシストですわね」
さらに畳みかける。
グリーフィッドからお墨付きは貰ったと言えど、最初はそれなりに言葉を選んでいた。けれどもはや遠慮する気は一切ない。そうさせたのは、他ならないクロメレッド達自身であるのだが、本人たちは気付かない。
「それに私、よく考えたら昔からあなたのその、いかにも自分が正しいことをしているんだと言わんばかりの態度が嫌いでしたの」
そう、それが嫌だったのだ。
一見反省しているように見せかけて、それでも自分の主張は正しいと信じてそれを押し通そうとするその態度が。
「ですからあなたと結婚なんて、まったく、これっぽっちも、欠片も、する気はございません」
にっこりとほほ笑んで、きっぱりと告げる。
唖然としたその表情に、リディアは少しだけすっきりとした。
これでリディアの言いたいことは、まあ、それなりに言った。
ならばあとは任せようと、隣の部屋にいるネイラに合図を送る。
さあ、真打の登場である。
はちみつ色の髪に緑色の瞳。濃いか薄いかの違いしかない、己と同じ色を纏った第二王子を前に、リディアは名前はなんだっただろうかとそんなことを考える。
「……お久しぶりでございます、クロメレッド殿下」
条件反射のように出てきた言葉に、ああ、そういえばそんな名前だったと思い出し、改めて彼らを見る。
リディアと向かい合うように椅子に座っているのはクロメレッドだけで、その後ろに攻略者たちが控えるように立っている。
正直名前は忘れた、というか覚えている必要性を感じていないので思い出す気もないが、たしか伯爵家の次男と、騎士団長の三男と、筆頭魔法使いの次男、だったはずである。
ちなみに、彼らの椅子もきちんと用意されているのだが、リディアは特に何も言っていない。座りたいなら座ればいいし、立っていたいのなら立っていればいいと思っている。
「それで殿下。何かお話があるとのことですが?」
「ああ、リディア、まずは君に謝罪を」
「……まあ」
思わずリディアは扇を広げ、口元を隠す。
まさかこの王子から謝罪なんて言う言葉が聞けるとは思わなかった。
「謝罪、ですか」
「ああ、本当にすまなかった。決して君を蔑ろにしていたつもりはないのだが、そうとられてもおかしくなかったと、ようやく気付いた」
「…………」
リディアは扇の下で薄く微笑みながら、沈黙する。
グリーフィッドに頭を下げられるのはもってのほかだが、クロメレッドに下げられるのならば別である。
「……もう済んだことです。謝罪はお受けいたします」
「――!! 感謝する」
クロメレッドがほっとしたように笑う。
そして、続けた言葉にリディアは言葉を失った。
「ならばどうか、ネイラを愛妾とすることも許してほしい」
「――は?」
思わず素の声が出た。
今、この王子は何と言った?
「僕はネイラに出会って本当の愛を知ってしまった。これはどうやっても変えられない」
「……はあ」
「だが、君も大切にすると誓うし、決して蔑ろにしたりはしない。いつだって君を一番に考える。だから、愛妾としてネイラを愛することだけは許してほしいんだ」
「………はあ」
リディアには、意味が分からなかった。
もはや頭の中は、何言ってんだこいつ頭大丈夫? 状態である。
それと同時にネイラをこの部屋に呼んでいなくてよかったと心底思う。
なにせ王子たちがどういう態度で来るのかわからなかったので、まずはリディアだけで対峙することにしたのだが、それは正解であった。
もちろん、ネイラも隣の部屋で見てはいるのだが。
「……殿下。仰られている意味が分かりかねます」
「ああ、やっぱりまだ怒っているんだねリディア」
「いえ、そうではなく。私たちの婚約は破棄されております」
「ああ、だからそれはまだ君が僕を許してくれていないからだろう?」
「は?」
なぜだろう、先ほどから疑問の言葉しか口から出ていない気がしてならない。
とにかく話がかみ合わない。
けれど、同時に理解する。
グリーフィッドが言っていたのは、これかと。
だからこその、現実をわからせてほしい発言だったのかと。
リディアは、なんとも言えない表情を浮かべそうになるのを、培ってきた淑女教育でなんとか抑え込む。
「殿下。これは許す許さないの問題ではなく……」
「リディア嬢、あなたにも事情があるのでしょうが、それを呑み込むのもまた淑女として大事なことだと進言いたします」
「は?」
遮られた言葉に、さすがにリディアは固まる。
発言したのは、某伯爵の次男。それに続き、騎士団長の三男や筆頭魔法使いの次男も好き勝手に発言し始めた。
「俺は殿下の態度も確かに悪かったとは思う。でもな、愛妾を認めないってのはどうかと思ってな」
「そうですね。夫が愛妾を持つのはステータスの1つ。それを認める寛容さが妻には必要なことでしょう」
なにやら盛大に勘違いも甚だしいことを言っているのだが、リディアには一つだけどうしても確かめたいことがあったので、いろいろとのみ込む。
そして、ゆっくりと口を開く。
「……とりあえずお三方にお聞き致しますが、たしかあなた方も彼女に好意を抱いていたように見受けられましたが?」
そう、完璧な逆ハールートに入っていると思ったのだが、どうも違うように感じる。
その問いに、三人は顔を見合わせたかと思うと、やや辛そうに表情をゆがめた。
「……確かにその通りです。ですが、我々では彼女を幸せに出来ないと感じました」
「ああ、悔しいが俺では無理だ。だから殿下に託したんだ」
「ええ、そうです。殿下ならば、彼女もきっと幸せになれる」
「……そう、ですか」
これまた勘違いにもほどがある。
彼らの中で何がどうなってそういう結論に達したのかはわからないが、どう考えてもネイラは幸せになどなれるわけがない。
いったい彼らの中のネイラ像はどうなっているのだろうか。
隣室で、ネイラが額に青筋を浮かべているだろうことは、想像に難くない。
「リディア、僕は彼女を幸せにしたいんだ。だから頼む、愛妾として認めてほしい」
「お願いします、リディア嬢」
「俺からも頼むよ。愛妾の一人や二人、貴族の義務だろ?」
「そうです。殿下がここまで言っているのです。寛大な心でどうかお許しを」
「――。――」
リディアは揃って頭を下げるその様子を、ただじっと見る。
前世の記憶が戻ってからのリディアは、とにかくクロメレッドが好みではなかった。
では、戻る前のリディアはどうだったかというと、顔は好きでも嫌いでもなかった。
けれど、何処か好きにはなれなかった。それは何故か?
「…………」
手に持つ扇を閉じて、そして開き、また閉じる。
ゆっくりと息を吸って、そして静かに口を開いた。
「……つまり皆様方は、私を愛妾の存在も認められない狭量な小娘だとお思いで?」
「「「「え?」」」」
先ほどからそれなりに我慢していたのだが、流石に限界である。
貴族の令嬢としての教育を受けてきたリディアである。夫が愛妾を持つことも必要だと思っているし、それは記憶がよみがえった後でも変わらない。
それなのに、王子は、彼らは、リディアはそれが認められなくて、ネイラに嫉妬して婚約を破棄したのだと思っている。
つまりそれは。
「……ずいぶんと、我がオルコット家は侮られたものですこと」
そう、それはリディアを令嬢失格だと、オルコット家の教育に不備があったのだと言っているのに他ならない。
それに怒りを覚えるのは当然であった。
「だ、だがっ」
「そもそも私が婚約破棄を申し出たのは、殿下が生徒会の仕事を放棄なさったのが原因です」
何かを言いかけたクロメレッドの言葉をさえぎって、リディアは言う。
「なぜ、仕事も碌になさらない方を我が家の婿として向かい入れなければならないのでしょう」
学園ではそれぞれの学年で生徒会が存在しており、ここにいる、リディアを含めた全員が生徒会に属していた。
そして、その生徒会の仕事というのはそれなりに多岐に渡り、決して少なくはない。
だというのに、途中からリディア以外のものがことごとく放棄していったのだ。では、そのしわ寄せがどこに来るのかというと、当然リディアである。
つまり、リディアは約1年間ほぼすべての業務を一人で片付けていたのである。
今思えば、本当に記憶が戻る前のリディアは、よく我慢したなと思う。いや、ひょっとしたら我慢の限界で、前世の記憶とやらがよみがえったのかもしれないが。
「ですので、私が婚約破棄を申し出たのに彼女は全く、欠片も、関係ありません」
「だ、だが」
「そもそも、本人に確認したのですか?」
「え?」
「ですから、愛妾になるか否かを」
もちろん、確認なんてしているはずもなく、していてもネイラは承諾などしなかっただろう。
わかりきった質問なのだが、念のため何と答えるのか聞いてみたかった。
「いや、それはまだこれからだが。その、ネイラはきっと喜んでくれると思うんだ」
それはない。
「それに、君がネイラをここに連れて来たんじゃないのか? 僕から離すために」
それは嫌がらせで、ということだろうか。
先ほどまでいったい何を聞いていたんだと、思わず扇を持つ手に力が入る。
「……私の言葉は理解できていますか? 何処に、ネイラを連れて行く要素がございました?」
「だが! ならばなぜネイラは僕から離れた! 君の言葉は矛盾だらけだ!」
思わず、といった様子でクロメレッドが叫び、周りの3人も厳しい眼差しでこちらを見る。
それにリディアは、とうとう淑女としての微笑みの仮面が保てなくなった。
呆れた表情を隠すことなく、視線を返す。
「そもそも、なぜそんなにまでネイラに好かれている自信があるのか甚だ疑問なんですが」
そして、言葉も崩れ始める。
若干訝しげな視線が注がれるが、そんなものはもはや無視である。
「思い込みが激しいと、誰かに言われたことはありませんか?」
「なっ、無礼な!」
「無礼なのはどちらです? ありもしない嫉妬を疑われ、さらに誘拐の罪を着せられたのはこちらです」
「それはっ」
「そもそもあなたは私の好みからは、ものすごく外れたところに存在するので、嫉妬はあり得ません」
「――!!」
絶句の表情をするクロメレッドと3人。
まあ、それなりに顔がいいのでこんな態度など取られたことがないのだろう。
だが、とらないだけで、そう思うものはそれなりに存在するのをリディアは知っている。
「まあ、なぜそんなに驚いてますの? まさか自分を好きになるのは当然だとでも思ってますの? とんだナルシストですわね」
さらに畳みかける。
グリーフィッドからお墨付きは貰ったと言えど、最初はそれなりに言葉を選んでいた。けれどもはや遠慮する気は一切ない。そうさせたのは、他ならないクロメレッド達自身であるのだが、本人たちは気付かない。
「それに私、よく考えたら昔からあなたのその、いかにも自分が正しいことをしているんだと言わんばかりの態度が嫌いでしたの」
そう、それが嫌だったのだ。
一見反省しているように見せかけて、それでも自分の主張は正しいと信じてそれを押し通そうとするその態度が。
「ですからあなたと結婚なんて、まったく、これっぽっちも、欠片も、する気はございません」
にっこりとほほ笑んで、きっぱりと告げる。
唖然としたその表情に、リディアは少しだけすっきりとした。
これでリディアの言いたいことは、まあ、それなりに言った。
ならばあとは任せようと、隣の部屋にいるネイラに合図を送る。
さあ、真打の登場である。
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