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第二章 変わりゆく日常

34話目 適応の効果

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夏休み中も朝のルーティーンは変わらない。

むしろ植物の成長スピードの上がる夏は、絶好の草むしりチャンスだ。

この日も朝早く涼しい時間帯に近くの公園へと草むしりに出かけた。

ちなみに色んな公園を渡り歩き、雑草が生えそろった最初の公園へとで戻ったのである。

「お久しぶりだねー、いいよいいよ―この生え具合」

夏用に麦わら帽子をかぶり首にはタオル、日焼け止めを塗り、虫よけスプレーをする。
草で切らない様にアームカバーをし手には軍手。
下は長ズボンに運動靴。

草むしりマスターと私は呼んだ。

ふふんと胸を張り草むしりに精を出した。


「草~草~今日も今日とて草なのさ~。 
『うわっようやくここまで伸びたというのに……ぐっ……無念……だ』
『兄者!! 己この小娘がぁ!! よくも兄者を……何を……やめ……止めろぉぉぉおお』
 ふははははこの草の楽園は私が滅ぼしてくれよう」

「え……」

「……え?」

誰も居なかったはずだ。
私の耳に私以外の人の声が飛び込んできた。
この声は聞き覚えがある。
そうだ、この声はお姉さんの声……だ……。
顔を上げると、誰も居なかったはずの公園にコジロウとお姉さんが居た。

私の一人芝居が聞かれてた!!!!

「優奈ちゃん、おはよう」

ぐぁぁぁぁああ。 大人の対応された!! 恥ずかしい!!!!
顔に熱が集まる。

「おはようございます」

声が裏返りながらも私も大人の対応をする。 触れない優しさで心にダメージを受けながら。

「この楽園も本日限りだな」

「!?」

足元の草を見ながらお姉さんがそう告げる。
ぎゃぁ。 羞恥で死ねる!!
お姉さん大人の対応はどこに行ったの?! 急いで拾ってよ、お願いします。


「ふ……ふふ……、優奈ちゃん可愛いわね」

私の反応に、笑いを耐えるように口元に手をやり、肩を震わせるお姉さん。
完全におちょくられてる。

「ワン」

「コジロォオオ」

今日も今日とて容赦のないコジロウのすりすり攻撃。 あぁ……私の罪が洗い流されるようだ。
私を毛だらけにするとコジロウは満足したようでお姉さんの隣に戻っていった。

お姉さんがコロコロで毛を取ってくれる。 その間に私は現実逃避を再開した。
足元で働くアリを眺める。
物に適応したけどアリも出来るのかなーとかぼんやり考える。
勢いそのままに一匹のアリを手に乗せ『適応』 と呟いた。
適応されたアリは職業【働きアリ】 になった。

……ハタラキアリニナッタヨ?

色や形、見た目は変わらない。
ただ職業が表示された。
レベルは1だ。

私はそっとその【働きアリ】 を地面に置いた。
【働きアリ】 は近くにあった食べ物のカスを見つけ巣穴に運んでいった。
職無しの状態でさえ働き者のアリ。
働き者の【働きアリ】 として生き方まで縛ってしまった。

私は、なんかごめんね、と思いながら、その働き詰めの運命を背負わされた働きアリを静かに見送った。

勢いそのままにコジロウに対しても『適応』 と呟いた。
コジロウは職業【お姉さんの犬】 レベル1となった。

職……業……? おねえさんのいぬれべるいち? 意味が分からず私は首を傾げた。 
コジロウは誇らしげに座りながら首を上に上げ背筋を伸ばした。
お姉さんの犬が職業? 職業の定義ってなんだ? コジロウはお姉さんの犬で良いの?
……ん? コジロウは元からお姉さんの犬か……? 
職業お姉さんの犬と、ただのお姉さんの犬。 似ているようで何かが違う気がする。

この違和感の正体は何だ……?
私はまじまじとコジロウを眺めた。

そんな考えも、お姉さんの草ネタで弄りで忘れてしまった。
私はその忘却をアリとコジロウの呪いと呼んだ。




「どういうこと?」

「呪いが発動した……」

「自業自得でしょ」

「ですよね!!」

公園であったことを姉に話す。

「つまり虫や、動物に『適応』 をしたら職業が現れた? それが【働きアリ】 と【お姉さんの犬】? どんな職業よそれ……あんたの職業なによ……」

「錬金術師だよ?」

「分かってるわよ」

姉は呆れたようにコーヒーを啜った。

「というか優奈動物に試したの? 飼い主の許諾無しに?」

「タメシマシタ」

「駄目でしょ倫理的に。 それ軽々しく試しちゃダメなやつ。 今回は何ともなかったからいいけど……なんともなかったのか? お姉さんの犬ってなんともないラインなのか? お姉さんの犬って何よ、マジで……。 っと、違う違う、思考が逸れた」

姉は混乱したようだ。

見事にお姉さんの犬に惑わされてる。 これが職業お姉さんの犬の力……?
ならばシロに試したら何になるのだろう。 優奈の猫? 遥の猫? 橘家の猫? 気になるなぁ。

「今後よその家の動物を勝手に適応してはダメです。 問題に発展してしまいます」

「……分かりました。 ならシロは?」

「シロ?」

ソファーで毛づくろいをしてくつろぐシロを二人で見る。
くぁあーと欠伸をしてそのままモフモフの毛並みに顔をうずめた。

「……シロの職業は何だろうね」

「……気になるよね」

2人でマジマジとシロを見つめる。

「よし!! 優奈隊員シロを適応だ」

「ラジャー!! 『適応』」

シロは私たちのやり取りなど気にせずすやすや寝息を立てている。

「……鑑定結果は?」

「えーっと……職業【橘家の主】 レベル1」

「タチバナケノヌシレベルイチ」

まさかの我々の上司だった。
しかもレベルが上がるのか。
【橘家の主】 のレベルが上がったらどうなってしまうのだろう、全ての橘家に君臨する存在となるのか?

「お姉ちゃん、これからシロ様って呼んだ方が良いのかな?」

「シロ部長とか? シロ専務? シロ社長?」

「やだ。 可愛くない」

「なら何が良いのさ」

「主だから……お殿様」

「バカにしてる?」

「してないもん!!」

結果シロの名前は君主シロになった。

帰って来た母に改名の話をしたら少し悩んだ様子を見せ、シロ=オーブリー=タチバナ=ドドーラン・ペシオンテーヌにしましょうって提案された。 
母は一番改名にノリノリだった。

そしてシロはまさかの王族風な名前になってしまった。

最初のうちはノリでそう呼んでたが、面倒くさくなって一週間後にはただのシロに戻った。

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