12 / 47
冷たい旦那様が離してくれない 4
しおりを挟む
一目ぼれだったと思う。
竜騎士団が魔物討伐から帰還して、すぐに隣国へと旅立つ前に、怪我をした騎士たちに回復の魔法をかけている魔法使いの中にティアナがいた。
その彼女が、自分の怪我を労わる様に魔法をかけてくれていた。無愛想な自分に、健気な様子で魔法をかけていたのだ。細い腕から伸びた小さな手からでる魔法は綺麗だった。
小柄な娘が、一生懸命に魔法をかけている姿は可愛らしいとさえ思った。
セルシスフィート伯爵家は、領地も潤っており資産家だった。殿下の側近にもなれるほどの伯爵家。そのせいか、回復要員として令嬢が近付いてくることも多々あった。
そう思えば、また女性の上目遣いで声をかけられるのかと思うと、いつものように令嬢を警戒し、自然と冷ややかな感情になっていた。
いつものように、「もういい」と一言だけ言うと、ティアナは困ったようになりながらも、持っていた傷薬を「では、代わりにこれをどうぞ。少ししかないので、他の方には秘密ですよ」と言って出してくれた。
そう言って、離れていくティアナに自分が恥ずかしくなった。
ティアナをそういう眼で見てしまったことに、罪悪感が沸いたのだ。
その彼女に、自分から声をかけようと思った。女性に自分から声をかけようなどと思ったのは、初めてだった。
追いかけていったティアナはアルフェス殿下と話しており、結婚相手を探していることを知り、犬猿の仲の伯爵家のウォールヘイトの令嬢だと知った。そして、殿下に頼んだ結婚相手を自分にしてもらった。
隣国に行く直前だったから中止も出来ずに、彼女に自分で結婚の申し込みすら出来なかった。
セルシスフィート伯爵家に帰ることもできずに、結婚だけさせてしまい申し訳ないと思いながらも、もう一度ティアナに会えることを心待ちにしていた。
そんな彼女の噂を聞いた。
色んな貴族に縁談を持ち掛けていたと……それどころではない。
夜会で出会うことすらなかったティアナが、結婚後してから夜会にも頻繫に参加するようになり、幾多の男と遊び歩いている悪女だという噂を聞いたのだ。
そして、父上からの手紙に愕然とした。
ティアナとの結婚は三年の契約で、その後はアリスと結婚するようにと書かれたものだった。
それにティアナも同意していると……。
腹立たしかった。悪女と呼ばれて遊び歩いているティアナが、父上と契約結婚を結んでいたのだ。
結婚して、大事にしたいと思っていた。
でも、俺が一度も触れたことのないティアナを他の男が触れていたのかと思うと、何もかもが腹立たしくて、ぐちゃぐちゃにして壊してやりたくなった。
そして、急いで帰還して、あの初夜を始めた。
潤んだ瞳で抱かれるティアナに、冷ややかな欲を向けて何度も抱いたのだ。
それなのに__。
今、目の前で別邸の庭に大きな桶に手を突っ込んでシーツを洗っているティアナはいったい何をしているのか。
ティアナを書庫から連れ帰って、本邸で用事を済ませている間に彼女は洗濯を始めていた。
「……ティアナ。何をしている?」
「ウォルト様。その……シーツを洗っているのです」
なぜ、ティアナが自分で洗うのだろうか?
ジッと見下ろすと、ティアナが頬を染めて顔を反らす。彼女のピンク色の髪が揺れて、また触れたい気分になる。
……可愛いと思う。
可愛いと思うが、その可愛い顔で男を誘っていたかと思うと苛ついた。
洗濯している桶の前の長椅子に座っているティアナの隣に腰を下ろすと、彼女は椅子から落ちそうなほど横にズレていった。
イラッとしたままで膝に肘をついて睨むと、図らずもティアナの洗っていたシーツが視界に入った。
泡だらけの洗濯の桶の中の真っ白なシーツに、真っ赤なものが付着している。
「………………」
「あの……あまり見られると……」
竜騎士をしていて何度も見た血の色。
見覚えのある色に思考が止まっていると、おそるおそるティアナが恥ずかしそうに言った。
竜騎士団が魔物討伐から帰還して、すぐに隣国へと旅立つ前に、怪我をした騎士たちに回復の魔法をかけている魔法使いの中にティアナがいた。
その彼女が、自分の怪我を労わる様に魔法をかけてくれていた。無愛想な自分に、健気な様子で魔法をかけていたのだ。細い腕から伸びた小さな手からでる魔法は綺麗だった。
小柄な娘が、一生懸命に魔法をかけている姿は可愛らしいとさえ思った。
セルシスフィート伯爵家は、領地も潤っており資産家だった。殿下の側近にもなれるほどの伯爵家。そのせいか、回復要員として令嬢が近付いてくることも多々あった。
そう思えば、また女性の上目遣いで声をかけられるのかと思うと、いつものように令嬢を警戒し、自然と冷ややかな感情になっていた。
いつものように、「もういい」と一言だけ言うと、ティアナは困ったようになりながらも、持っていた傷薬を「では、代わりにこれをどうぞ。少ししかないので、他の方には秘密ですよ」と言って出してくれた。
そう言って、離れていくティアナに自分が恥ずかしくなった。
ティアナをそういう眼で見てしまったことに、罪悪感が沸いたのだ。
その彼女に、自分から声をかけようと思った。女性に自分から声をかけようなどと思ったのは、初めてだった。
追いかけていったティアナはアルフェス殿下と話しており、結婚相手を探していることを知り、犬猿の仲の伯爵家のウォールヘイトの令嬢だと知った。そして、殿下に頼んだ結婚相手を自分にしてもらった。
隣国に行く直前だったから中止も出来ずに、彼女に自分で結婚の申し込みすら出来なかった。
セルシスフィート伯爵家に帰ることもできずに、結婚だけさせてしまい申し訳ないと思いながらも、もう一度ティアナに会えることを心待ちにしていた。
そんな彼女の噂を聞いた。
色んな貴族に縁談を持ち掛けていたと……それどころではない。
夜会で出会うことすらなかったティアナが、結婚後してから夜会にも頻繫に参加するようになり、幾多の男と遊び歩いている悪女だという噂を聞いたのだ。
そして、父上からの手紙に愕然とした。
ティアナとの結婚は三年の契約で、その後はアリスと結婚するようにと書かれたものだった。
それにティアナも同意していると……。
腹立たしかった。悪女と呼ばれて遊び歩いているティアナが、父上と契約結婚を結んでいたのだ。
結婚して、大事にしたいと思っていた。
でも、俺が一度も触れたことのないティアナを他の男が触れていたのかと思うと、何もかもが腹立たしくて、ぐちゃぐちゃにして壊してやりたくなった。
そして、急いで帰還して、あの初夜を始めた。
潤んだ瞳で抱かれるティアナに、冷ややかな欲を向けて何度も抱いたのだ。
それなのに__。
今、目の前で別邸の庭に大きな桶に手を突っ込んでシーツを洗っているティアナはいったい何をしているのか。
ティアナを書庫から連れ帰って、本邸で用事を済ませている間に彼女は洗濯を始めていた。
「……ティアナ。何をしている?」
「ウォルト様。その……シーツを洗っているのです」
なぜ、ティアナが自分で洗うのだろうか?
ジッと見下ろすと、ティアナが頬を染めて顔を反らす。彼女のピンク色の髪が揺れて、また触れたい気分になる。
……可愛いと思う。
可愛いと思うが、その可愛い顔で男を誘っていたかと思うと苛ついた。
洗濯している桶の前の長椅子に座っているティアナの隣に腰を下ろすと、彼女は椅子から落ちそうなほど横にズレていった。
イラッとしたままで膝に肘をついて睨むと、図らずもティアナの洗っていたシーツが視界に入った。
泡だらけの洗濯の桶の中の真っ白なシーツに、真っ赤なものが付着している。
「………………」
「あの……あまり見られると……」
竜騎士をしていて何度も見た血の色。
見覚えのある色に思考が止まっていると、おそるおそるティアナが恥ずかしそうに言った。
68
あなたにおすすめの小説
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
さようなら、お別れしましょう
椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。
妻に新しいも古いもありますか?
愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?
私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。
――つまり、別居。
夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。
――あなたにお礼を言いますわ。
【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる!
※他サイトにも掲載しております。
※表紙はお借りしたものです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
能力持ちの若き夫人は、冷遇夫から去る
基本二度寝
恋愛
「婚姻は王命だ。私に愛されようなんて思うな」
若き宰相次官のボルスターは、薄い夜着を纏って寝台に腰掛けている今日妻になったばかりのクエッカに向かって言い放った。
実力でその立場までのし上がったボルスターには敵が多かった。
一目惚れをしたクエッカに想いを伝えたかったが、政敵から彼女がボルスターの弱点になる事を悟られるわけには行かない。
巻き込みたくない気持ちとそれでも一緒にいたいという欲望が鬩ぎ合っていた。
ボルスターは国王陛下に願い、その令嬢との婚姻を王命という形にしてもらうことで、彼女との婚姻はあくまで命令で、本意ではないという態度を取ることで、ボルスターはめでたく彼女を手中に収めた。
けれど。
「旦那様。お久しぶりです。離縁してください」
結婚から半年後に、ボルスターは離縁を突きつけられたのだった。
※復縁、元サヤ無しです。
※時系列と視点がコロコロゴロゴロ変わるのでタイトル入れました
※えろありです
※ボルスター主人公のつもりが、端役になってます(どうしてだ)
※タイトル変更→旧題:黒い結婚
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる