犬猿の仲の政略結婚なのに、旦那様が別れてくれません。

屋月 トム伽

文字の大きさ
41 / 47

冷たい旦那様はどこへ 3

しおりを挟む

マルセラさんからお話が聞けて、私とウォルト様はセルシスフィート伯爵邸へと帰って来ていた。

庭の風通しの良いガゼボに、ルドルフがお茶を準備してくれて、アフタヌーンティーを頂きながらウォルト様と過ごしている。
向かいに座っているウォルト様は、いつもの冷たい表情のままお茶を飲んでいる。
ガゼボの椅子には、ブランシュ用にとルドルフが用意してくれた篭がある。その中にクッションが詰められて、心地よさそうにブランシュはお昼寝中だった。

マルセラさんは、本当に娼館から出してあげるらしい。たったあれだけの情報で大金を使わせてしまった気分で申し訳ない。

「ウォルト様。結婚した時の支度金がまだ少しだけ残ってますので、私も出します」
「気にしなくていい。気になる情報もあったから、問題はない」
「アリス様が犯人だと言うことですか?」
「それもだが……離縁が確定しているような言い方だった。アリスとトラビスを追い出すのは、少し待ったほうがいい。気になることができた」
「気になることですか?」

アリス様が犯人だと予想通りだったことだけではないのだろうかと、首を傾げる。

「三年経って離縁する予定でも、あくまでも予定だった。だが、俺が帰って来なかったらどうなっていた。父上もアリスも俺がティアナを望んでいるなど知らなかったんだ」

それは、私もだ。ウォルト様の希望で結婚を用意されたなどと、知らなかったのだ。

「なら、帰ってこない俺とどうやって離縁するつもりだった?」
「それは……セルシスフィート伯爵様だったお義父様が離縁を認めて代理で離縁状を書いてしまえば、受理されたと思いますけど……」

ウォルト様は隣国にいて、白い結婚を理由に私が離縁を申し出たことにすれば、国でも有力な貴族であるセルシスフィート伯爵家の当主が認めたなら、きっと受理される。
そのための離縁状は、セルシスフィート伯爵だったお義父様だけは準備できたかもしれないのだ。

「それって……離縁状を用意していた可能性があると言うことですか?」

だから、私に結婚の条件を突きつけた。ウォルト様が三年で帰還しなかったら、白い結婚のまま、離縁させるつもりで……。

「そう思えた。それを、父上がアリスに渡していたかもしれない。アリスが、妙に強気な態度なのは、そのせいかもしれない」
「強気ですかね……私を追い出す気満々ですけど……」
「あれは、俺が毎晩ティアナの部屋から朝まで出てこないからだ。続き部屋も明け渡さないし……」
「部屋は、どこでもいいのですけど……」
「よくない! 新しい寝室を改装させているから、もう少しだけ待ってもらっているだけだ!」

そんな力いっぱい言われても……。
そう言って、ウォルト様がお茶を一気に飲んだ。そして、空いたカップにお茶を注いであげた。

「……ということは」
「このまま、もしアリスが離縁状を持っていれば、俺たちは知らないうちに離縁になってしまう」
「それは……困ります。私は、もう離縁する気はなくて……」
「だから、離縁状があるかないかを、確認するまでは少し待ったほうがいい。離縁状を持ったままで、セルシスフィート伯爵邸を出してしまえば、探す羽目になる。今は、ウォールヘイト伯爵領のことも考えねばならんし……」
「そうですね……私も、セルシスフィート伯爵邸のことに慣れないと……」

ウォールヘイト伯爵領のことも気になる。明日にでも森の様子を見に行きたいし、やることは山積みだ。

そのせいで、奉仕活動も最近は出来てない。以前は時間があればウォールヘイト伯爵領で、子供たちにお菓子を配ったり、魔法をかけたりいろいろしていたのに……。

ウォールヘイト伯爵領でのことを思い出していると、ふと思いついた。

「ウォルト様。奉仕活動ですよ……」
「何がだ?」
「セルシスフィート伯爵領でチャリティーバザーでもするのです。そこで、ウォールヘイト伯爵領の物を売るんです」
「チャリティーか……確かに、それはいいかもしれん。まずは、ウォールヘイト伯爵領の物は良いと思ってもらうことを目的にすればいいのだからな……」

ウォルト様が、突然の提案にもかかわらず、驚きと感心を交えて頷いた。

「はい。それには、何か目玉になるような珍しいことをしないと……場所も探さないといけません」
「場所は、セルシスフィート伯爵邸がある。庭では、パーティーをすることもあるのだ。広さも十分だろう」
「それは、素敵です。立派な庭ですから、見るだけでも来訪者は感激しますね。鑑賞にも、もってこいです」

美しい庭に噴水。庭園には、鑑賞するだけでも価値はあると思えて、笑顔が零れた。
その反面、ウォルト様は首を傾げている。育った邸だから、貧乏な私と違っていまいちピンとこないらしい。

「セルシスフィート伯爵邸は、鑑賞する価値があるのか?」
「はい。ありますよ。豪邸でも、他の貴族の邸に引けを取ることはありません」

広大な土地に豪邸。誰もが、憧れるような邸であるセルシスフィート伯爵邸だ。

「ふむ……なら、邸の見学会はどうだ? 人は集まるか? 邸には絵画もあるし……」
「それは……集まるかもしれません。マルセラさんも言っていたじゃないですか。貴族の夜会なんて夢みたいだったと……ウォールヘイト伯爵領でも、お城を見ることを楽しみにしている人もいました。誰もが貴族の生活に少しでも触れてみたいと思うのではないでしょうか」

ウォールヘイト伯爵邸はボロすぎたけど、それでも、ウォールヘイト伯爵領の小作人たちとの話し合いの時に招くときは、みんなが貴族の邸に興味津々だった。

それがセルシスフィート伯爵邸という豪邸なら、絶対に人は集まる。

「では、セルシスフィート伯爵邸の見学会を催そう。そして、庭では、ウォールヘイト伯爵領の農作物や、彼らが作ったお菓子でも売る。見学会には、もちろんウォールヘイト伯爵領の領民も出入り自由だ」

チャリティーなら、きっといける。お互いの交流など今までなかったから、どうなるか予想もつかないけど、きっと何もしないよりはいい。

「でも、セルシスフィート伯爵邸はいいのですか?」
「そうだな……見学会と言っても、セルシスフィート伯爵邸のすべてを見せるわけではないからな。主に一階の大広間や大階段にと……限られてはくる。だが、それなりに広さはあるから十分だろう。廊下には、絵画も調度品もある。一応、不審者や見学者が勝手に邸を探索しないように、使用人たちを交代で配置させる。竜騎士団もちょうど来ているから、警備にも人員を配置させよう」
「素敵です……ウォルト様、感動します。犬猿の仲のセルシスフィート伯爵家とウォールヘイト伯爵家が手を取り合って、何かをするのです」

これは、犬猿の仲と呼ばれた二つの伯爵家には画期的だ。
あまりの嬉しさに感動して目尻をそっと拭った。それを、向かいに座っていたウォルト様が私のそばに来て跪いた。

「近い将来、きっと上手くいく。俺とティアナが好きあったように、セルシスフィート伯爵家もウォールヘイト伯爵家もそうなる。俺たちの子供がお互いの領地を治めるんだ」
「はい。そうなる様にします」




しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

能力持ちの若き夫人は、冷遇夫から去る

基本二度寝
恋愛
「婚姻は王命だ。私に愛されようなんて思うな」 若き宰相次官のボルスターは、薄い夜着を纏って寝台に腰掛けている今日妻になったばかりのクエッカに向かって言い放った。 実力でその立場までのし上がったボルスターには敵が多かった。 一目惚れをしたクエッカに想いを伝えたかったが、政敵から彼女がボルスターの弱点になる事を悟られるわけには行かない。 巻き込みたくない気持ちとそれでも一緒にいたいという欲望が鬩ぎ合っていた。 ボルスターは国王陛下に願い、その令嬢との婚姻を王命という形にしてもらうことで、彼女との婚姻はあくまで命令で、本意ではないという態度を取ることで、ボルスターはめでたく彼女を手中に収めた。 けれど。 「旦那様。お久しぶりです。離縁してください」 結婚から半年後に、ボルスターは離縁を突きつけられたのだった。 ※復縁、元サヤ無しです。 ※時系列と視点がコロコロゴロゴロ変わるのでタイトル入れました ※えろありです ※ボルスター主人公のつもりが、端役になってます(どうしてだ) ※タイトル変更→旧題:黒い結婚

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

処理中です...