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冷たい旦那様はどこへ 3
しおりを挟むマルセラさんからお話が聞けて、私とウォルト様はセルシスフィート伯爵邸へと帰って来ていた。
庭の風通しの良いガゼボに、ルドルフがお茶を準備してくれて、アフタヌーンティーを頂きながらウォルト様と過ごしている。
向かいに座っているウォルト様は、いつもの冷たい表情のままお茶を飲んでいる。
ガゼボの椅子には、ブランシュ用にとルドルフが用意してくれた篭がある。その中にクッションが詰められて、心地よさそうにブランシュはお昼寝中だった。
マルセラさんは、本当に娼館から出してあげるらしい。たったあれだけの情報で大金を使わせてしまった気分で申し訳ない。
「ウォルト様。結婚した時の支度金がまだ少しだけ残ってますので、私も出します」
「気にしなくていい。気になる情報もあったから、問題はない」
「アリス様が犯人だと言うことですか?」
「それもだが……離縁が確定しているような言い方だった。アリスとトラビスを追い出すのは、少し待ったほうがいい。気になることができた」
「気になることですか?」
アリス様が犯人だと予想通りだったことだけではないのだろうかと、首を傾げる。
「三年経って離縁する予定でも、あくまでも予定だった。だが、俺が帰って来なかったらどうなっていた。父上もアリスも俺がティアナを望んでいるなど知らなかったんだ」
それは、私もだ。ウォルト様の希望で結婚を用意されたなどと、知らなかったのだ。
「なら、帰ってこない俺とどうやって離縁するつもりだった?」
「それは……セルシスフィート伯爵様だったお義父様が離縁を認めて代理で離縁状を書いてしまえば、受理されたと思いますけど……」
ウォルト様は隣国にいて、白い結婚を理由に私が離縁を申し出たことにすれば、国でも有力な貴族であるセルシスフィート伯爵家の当主が認めたなら、きっと受理される。
そのための離縁状は、セルシスフィート伯爵だったお義父様だけは準備できたかもしれないのだ。
「それって……離縁状を用意していた可能性があると言うことですか?」
だから、私に結婚の条件を突きつけた。ウォルト様が三年で帰還しなかったら、白い結婚のまま、離縁させるつもりで……。
「そう思えた。それを、父上がアリスに渡していたかもしれない。アリスが、妙に強気な態度なのは、そのせいかもしれない」
「強気ですかね……私を追い出す気満々ですけど……」
「あれは、俺が毎晩ティアナの部屋から朝まで出てこないからだ。続き部屋も明け渡さないし……」
「部屋は、どこでもいいのですけど……」
「よくない! 新しい寝室を改装させているから、もう少しだけ待ってもらっているだけだ!」
そんな力いっぱい言われても……。
そう言って、ウォルト様がお茶を一気に飲んだ。そして、空いたカップにお茶を注いであげた。
「……ということは」
「このまま、もしアリスが離縁状を持っていれば、俺たちは知らないうちに離縁になってしまう」
「それは……困ります。私は、もう離縁する気はなくて……」
「だから、離縁状があるかないかを、確認するまでは少し待ったほうがいい。離縁状を持ったままで、セルシスフィート伯爵邸を出してしまえば、探す羽目になる。今は、ウォールヘイト伯爵領のことも考えねばならんし……」
「そうですね……私も、セルシスフィート伯爵邸のことに慣れないと……」
ウォールヘイト伯爵領のことも気になる。明日にでも森の様子を見に行きたいし、やることは山積みだ。
そのせいで、奉仕活動も最近は出来てない。以前は時間があればウォールヘイト伯爵領で、子供たちにお菓子を配ったり、魔法をかけたりいろいろしていたのに……。
ウォールヘイト伯爵領でのことを思い出していると、ふと思いついた。
「ウォルト様。奉仕活動ですよ……」
「何がだ?」
「セルシスフィート伯爵領でチャリティーバザーでもするのです。そこで、ウォールヘイト伯爵領の物を売るんです」
「チャリティーか……確かに、それはいいかもしれん。まずは、ウォールヘイト伯爵領の物は良いと思ってもらうことを目的にすればいいのだからな……」
ウォルト様が、突然の提案にもかかわらず、驚きと感心を交えて頷いた。
「はい。それには、何か目玉になるような珍しいことをしないと……場所も探さないといけません」
「場所は、セルシスフィート伯爵邸がある。庭では、パーティーをすることもあるのだ。広さも十分だろう」
「それは、素敵です。立派な庭ですから、見るだけでも来訪者は感激しますね。鑑賞にも、もってこいです」
美しい庭に噴水。庭園には、鑑賞するだけでも価値はあると思えて、笑顔が零れた。
その反面、ウォルト様は首を傾げている。育った邸だから、貧乏な私と違っていまいちピンとこないらしい。
「セルシスフィート伯爵邸は、鑑賞する価値があるのか?」
「はい。ありますよ。豪邸でも、他の貴族の邸に引けを取ることはありません」
広大な土地に豪邸。誰もが、憧れるような邸であるセルシスフィート伯爵邸だ。
「ふむ……なら、邸の見学会はどうだ? 人は集まるか? 邸には絵画もあるし……」
「それは……集まるかもしれません。マルセラさんも言っていたじゃないですか。貴族の夜会なんて夢みたいだったと……ウォールヘイト伯爵領でも、お城を見ることを楽しみにしている人もいました。誰もが貴族の生活に少しでも触れてみたいと思うのではないでしょうか」
ウォールヘイト伯爵邸はボロすぎたけど、それでも、ウォールヘイト伯爵領の小作人たちとの話し合いの時に招くときは、みんなが貴族の邸に興味津々だった。
それがセルシスフィート伯爵邸という豪邸なら、絶対に人は集まる。
「では、セルシスフィート伯爵邸の見学会を催そう。そして、庭では、ウォールヘイト伯爵領の農作物や、彼らが作ったお菓子でも売る。見学会には、もちろんウォールヘイト伯爵領の領民も出入り自由だ」
チャリティーなら、きっといける。お互いの交流など今までなかったから、どうなるか予想もつかないけど、きっと何もしないよりはいい。
「でも、セルシスフィート伯爵邸はいいのですか?」
「そうだな……見学会と言っても、セルシスフィート伯爵邸のすべてを見せるわけではないからな。主に一階の大広間や大階段にと……限られてはくる。だが、それなりに広さはあるから十分だろう。廊下には、絵画も調度品もある。一応、不審者や見学者が勝手に邸を探索しないように、使用人たちを交代で配置させる。竜騎士団もちょうど来ているから、警備にも人員を配置させよう」
「素敵です……ウォルト様、感動します。犬猿の仲のセルシスフィート伯爵家とウォールヘイト伯爵家が手を取り合って、何かをするのです」
これは、犬猿の仲と呼ばれた二つの伯爵家には画期的だ。
あまりの嬉しさに感動して目尻をそっと拭った。それを、向かいに座っていたウォルト様が私のそばに来て跪いた。
「近い将来、きっと上手くいく。俺とティアナが好きあったように、セルシスフィート伯爵家もウォールヘイト伯爵家もそうなる。俺たちの子供がお互いの領地を治めるんだ」
「はい。そうなる様にします」
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