子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽

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シリルの秘密

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「シリル様が……」

頭が混乱する。確かにシリル様はリクハルド様の実子ではない。セアラ・シンクレアの子供で……。

「で、でも、シリル様のご両親は事故で他界したはずではっ……」

リクハルド様の話を思い出せば、両親は事故で他界したはずだった。確かにそう言ったはずだ。

「セアラ・シンクレア様の子供じゃないのですか!?」
「セアラの子供なのは間違いない。セアラに似ているし……」

ということは……。

「父親は、ウィルオール殿下!? 事故で他界したのは誰ですか!? 他人!? 知らない人と事故に!?」
「そんなわけない。ウィルオール殿下が父親なら、とっくにウィルオール殿下が引き取っている。陰でコソコソ種を撒くような方ではないし……ウィルオール殿下は、やるなら失敗はしない」
「失敗……あちこち種を撒いている……ウィルオール殿下は、下衆ですか?」

私の発言にリクハルド様が頭を抱える。

「不敬罪で捕まるぞ。だいたい、男にどんな幻想を抱いているんだよ」
「だって……色んな方に夜伽させている、ということですよね?」
「あのな……恋人もいないのだから問題ないだろう」
「でも、婚約者が……リクハルド様だって……」
「出会う前のことなど知らん。婚約者のいない時から純潔を貫けというのか? バカバカしい。そんなものは、貫きたい者が貫けばいい。反対はしない。だが、俺にはいつか運命の女性が現れるから大事にしておくという考えはない」

なんだろうか。この謙虚さを微塵も感じさせない物言いは。

確かに出会う前のことを責めるつもりはない。それは仕方ない。極端なことを言えば、産まれた時から出会うまで、誰が運命の相手かわからないどころか、出会ってもわからない可能性すらある。

清い身体でいる必要はないと思うが……。

「まさか、ウィルオール殿下がリクハルド様の婚約者に手を出して……だから、私にも婚約を申し込んできたのでは!?」
「だから、違う。が、キーラに申し込んできた?」
「冗談かと思ったのですけど……」
「ウィルオール殿下の性格では、冗談だろうが……」

声音を強調させたリクハルド様から冷気が流れてくる。不機嫌になると、リクハルド様は表情は変わらないのに、冷気が流れてくるのだ。寒い。

「リクハルド様。寒いです」
「あ、あぁ、寒いのか? では暖めてやろう。こちらに来なさい」
「えっ、嫌です」

即答すると、手を伸ばしたリクハルド様が怖い顔で睨んでくる。

「……とにかく、シリルはウィルオール殿下の子供ではない」

そう言って、温かいお茶をリクハルド様がポットから淹れて渡してくれた。

「それは、わかりましたが……ウィルオール殿下のお子でないなら、余計、シリル様に王位継承権があることがおかしいですよ」
「今の王位継承者に第二位が空席なのは知っているだろう」
「知ってます。陛下の御子はウィルオール殿下だけで……だから、ウィルオール殿下には早い結婚を求められていたはずです」

本人もそう言っていた。
陛下もウィルオール殿下も兄弟もいない。だから、王位継承者第二位が空席なのだ。
王族が少数しかいないせいで、ウィルオール殿下には、早い結婚を求められていた。

「ウィルオール殿下は、今は結婚する気はない」
「婚約者のエレイン様がいるのに?」
「それは、いずれわかるが……ウィルオール殿下がいつまでも結婚しないものだから、陛下たちと話し合って、王族の血筋を辿って王族に近しい人間を探していたんだ」
「まさか……」
「それが、シリルだ」

信じられない。シリル様に王位継承権があるなど考えたこともなかった。可愛いのはわかるのに。

「でも、セアラ様が王族の血筋だったなんて……」
「セアラではない。シンクレア子爵家は王族となんら関わりはない」
「では……」
「父親だ。シリルの父親の血筋が今の王族のなかでも一番血が近いのだ」
「だったら、すぐに王位継承権を授けないのはどうしてですか? 未だに王位継承者第二位は空席のままですよ!?」
「証明ができない。シリルの父親の家は、シリルを引き取ることを反対していたと話しただろう。シリルの存在を認めてないのだ」

そう言えば、そんなことも言っていた気がする。

「いったい。どこの家なんですか? シリル様も引き取らない。今更引き取りにきても渡しませんけど! だけど、認知すらしないなんて……あんなに可愛いのに、なにが不満なのですか?」

腹立たしい気持ちで、リクハルド様が淹れてくれたお茶を一気に飲み干した。

「……ヘイスティング侯爵家」
「は?」
「シリルの父親は、ヘイスティング侯爵家の長男だ」




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