47 / 83
シリルの秘密
しおりを挟む「シリル様が……」
頭が混乱する。確かにシリル様はリクハルド様の実子ではない。セアラ・シンクレアの子供で……。
「で、でも、シリル様のご両親は事故で他界したはずではっ……」
リクハルド様の話を思い出せば、両親は事故で他界したはずだった。確かにそう言ったはずだ。
「セアラ・シンクレア様の子供じゃないのですか!?」
「セアラの子供なのは間違いない。セアラに似ているし……」
ということは……。
「父親は、ウィルオール殿下!? 事故で他界したのは誰ですか!? 他人!? 知らない人と事故に!?」
「そんなわけない。ウィルオール殿下が父親なら、とっくにウィルオール殿下が引き取っている。陰でコソコソ種を撒くような方ではないし……ウィルオール殿下は、やるなら失敗はしない」
「失敗……あちこち種を撒いている……ウィルオール殿下は、下衆ですか?」
私の発言にリクハルド様が頭を抱える。
「不敬罪で捕まるぞ。だいたい、男にどんな幻想を抱いているんだよ」
「だって……色んな方に夜伽させている、ということですよね?」
「あのな……恋人もいないのだから問題ないだろう」
「でも、婚約者が……リクハルド様だって……」
「出会う前のことなど知らん。婚約者のいない時から純潔を貫けというのか? バカバカしい。そんなものは、貫きたい者が貫けばいい。反対はしない。だが、俺にはいつか運命の女性が現れるから大事にしておくという考えはない」
なんだろうか。この謙虚さを微塵も感じさせない物言いは。
確かに出会う前のことを責めるつもりはない。それは仕方ない。極端なことを言えば、産まれた時から出会うまで、誰が運命の相手かわからないどころか、出会ってもわからない可能性すらある。
清い身体でいる必要はないと思うが……。
「まさか、ウィルオール殿下がリクハルド様の婚約者に手を出して……だから、私にも婚約を申し込んできたのでは!?」
「だから、違う。が、キーラに申し込んできた?」
「冗談かと思ったのですけど……」
「ウィルオール殿下の性格では、冗談だろうが……」
声音を強調させたリクハルド様から冷気が流れてくる。不機嫌になると、リクハルド様は表情は変わらないのに、冷気が流れてくるのだ。寒い。
「リクハルド様。寒いです」
「あ、あぁ、寒いのか? では暖めてやろう。こちらに来なさい」
「えっ、嫌です」
即答すると、手を伸ばしたリクハルド様が怖い顔で睨んでくる。
「……とにかく、シリルはウィルオール殿下の子供ではない」
そう言って、温かいお茶をリクハルド様がポットから淹れて渡してくれた。
「それは、わかりましたが……ウィルオール殿下のお子でないなら、余計、シリル様に王位継承権があることがおかしいですよ」
「今の王位継承者に第二位が空席なのは知っているだろう」
「知ってます。陛下の御子はウィルオール殿下だけで……だから、ウィルオール殿下には早い結婚を求められていたはずです」
本人もそう言っていた。
陛下もウィルオール殿下も兄弟もいない。だから、王位継承者第二位が空席なのだ。
王族が少数しかいないせいで、ウィルオール殿下には、早い結婚を求められていた。
「ウィルオール殿下は、今は結婚する気はない」
「婚約者のエレイン様がいるのに?」
「それは、いずれわかるが……ウィルオール殿下がいつまでも結婚しないものだから、陛下たちと話し合って、王族の血筋を辿って王族に近しい人間を探していたんだ」
「まさか……」
「それが、シリルだ」
信じられない。シリル様に王位継承権があるなど考えたこともなかった。可愛いのはわかるのに。
「でも、セアラ様が王族の血筋だったなんて……」
「セアラではない。シンクレア子爵家は王族となんら関わりはない」
「では……」
「父親だ。シリルの父親の血筋が今の王族のなかでも一番血が近いのだ」
「だったら、すぐに王位継承権を授けないのはどうしてですか? 未だに王位継承者第二位は空席のままですよ!?」
「証明ができない。シリルの父親の家は、シリルを引き取ることを反対していたと話しただろう。シリルの存在を認めてないのだ」
そう言えば、そんなことも言っていた気がする。
「いったい。どこの家なんですか? シリル様も引き取らない。今更引き取りにきても渡しませんけど! だけど、認知すらしないなんて……あんなに可愛いのに、なにが不満なのですか?」
腹立たしい気持ちで、リクハルド様が淹れてくれたお茶を一気に飲み干した。
「……ヘイスティング侯爵家」
「は?」
「シリルの父親は、ヘイスティング侯爵家の長男だ」
505
あなたにおすすめの小説
【完結】どうやら時戻りをしました。
まるねこ
恋愛
ウルダード伯爵家は借金地獄に陥り、借金返済のため泣く泣く嫁いだ先は王家の闇を担う家。
辛い日々に耐えきれずモアは自らの命を断つ。
時戻りをした彼女は同じ轍を踏まないと心に誓う。
※前半激重です。ご注意下さい
Copyright©︎2023-まるねこ
わんこな旦那様の胃袋を掴んだら、溺愛が止まらなくなりました。
楠ノ木雫
恋愛
若くして亡くなった日本人の主人公は、とある島の王女李・翠蘭《リ・スイラン》として転生した。第二の人生ではちゃんと結婚し、おばあちゃんになるまで生きる事を目標にしたが、父である国王陛下が縁談話が来ては娘に相応しくないと断り続け、気が付けば19歳まで独身となってしまった。
婚期を逃がしてしまう事を恐れた主人公は、他国から来ていた縁談話を成立させ嫁ぐ事に成功した。島のしきたりにより、初対面は結婚式となっているはずが、何故か以前おにぎりをあげた使節団の護衛が新郎として待ち受けていた!?
そして、嫁ぐ先の料理はあまりにも口に合わず、新郎の恋人まで現れる始末。
主人公は、嫁ぎ先で平和で充実した結婚生活を手に入れる事を決意する。
※他のサイトにも投稿しています。
記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】
かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。
名前も年齢も住んでた町も覚えてません。
ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。
プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。
小説家になろう様にも公開してます。
赤貧令嬢の借金返済契約
夏菜しの
恋愛
大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。
いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。
クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。
王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。
彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。
それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。
赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。
このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。
若松だんご
恋愛
「リリー。アナタ、結婚なさい」
それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。
まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。
お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。
わたしのあこがれの騎士さま。
だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!
「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」
そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。
「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」
なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。
あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!
わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!
家族から冷遇されていた過去を持つ家政ギルドの令嬢は、旦那様に人のぬくもりを教えたい~自分に自信のない旦那様は、とても素敵な男性でした~
チカフジ ユキ
恋愛
叔父から使用人のように扱われ、冷遇されていた子爵令嬢シルヴィアは、十五歳の頃家政ギルドのギルド長オリヴィアに助けられる。
そして家政ギルドで様々な事を教えてもらい、二年半で大きく成長した。
ある日、オリヴィアから破格の料金が提示してある依頼書を渡される。
なにやら裏がありそうな値段設定だったが、半年後の成人を迎えるまでにできるだけお金をためたかったシルヴィアは、その依頼を受けることに。
やってきた屋敷は気持ちが憂鬱になるような雰囲気の、古い建物。
シルヴィアが扉をノックすると、出てきたのは長い前髪で目が隠れた、横にも縦にも大きい貴族男性。
彼は肩や背を丸め全身で自分に自信が無いと語っている、引きこもり男性だった。
その姿をみて、自信がなくいつ叱られるかビクビクしていた過去を思い出したシルヴィアは、自分自身と重ねてしまった。
家政ギルドのギルド員として、余計なことは詮索しない、そう思っても気になってしまう。
そんなある日、ある人物から叱責され、酷く傷ついていた雇い主の旦那様に、シルヴィアは言った。
わたしはあなたの側にいます、と。
このお話はお互いの強さや弱さを知りながら、ちょっとずつ立ち直っていく旦那様と、シルヴィアの恋の話。
*** ***
※この話には第五章に少しだけ「ざまぁ」展開が入りますが、味付け程度です。
※設定などいろいろとご都合主義です。
※小説家になろう様にも掲載しています。
森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。
玖保ひかる
恋愛
[完結]
北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。
ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。
アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。
森に捨てられてしまったのだ。
南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。
苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。
※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。
※完結しました。
竜槍陛下は魔眼令嬢を溺愛して離さない
屋月 トム伽
恋愛
アルドウィン国の『魔眼』という遺物持ちの家系のミュリエル・バロウは、同じ遺物持ちの家系である王太子殿下ルイス様と密かに恋人だった。でも、遺物持ち同士は結ばれない。
そんなある日、二人の関係が周りにバレて別れることになったミュリエル。『魔眼』を宿して産まれたミュリエルは、家族から疎まれて虐げられていた。それが、ルイス様との恋人関係がバレてさらに酷くなっていた。
そして、隣国グリューネワルト王国の王太子殿下ゲオルグ様の後宮に身を隠すようにルイス様に提案された。
事情をしったゲオルグ様は、誰もいない後宮にミュリエルを受け入れてくれるが、彼はすぐに戦へと行ってしまう。
後宮では、何不自由なく、誰にも虐げられない生活をミュリエルは初めて味わった。
それから二年後。
ゲオルグ様が陛下となり、戦から帰還してくれば、彼は一番にミュリエルの元へと来て「君を好きになる」とわけのわからないことを言い始めた竜槍陛下。
そして、別れようと黒いウェディングドレスで決別の合図をすれば、竜槍陛下の溺愛が始まり…!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる