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縦長の瞳孔
しおりを挟む王妃が毒杯で陛下と心中を図ったとされて、すぐにその情報は拡散された。クレメンスとの痴情のもつれだとまことしやかに噂されて、彼の実家は王都から逃げる様にいなくなった。
フィラン殿下暗殺犯として、ジェイド様は逃げようとしたところをブラッド様が斬り捨て、フェアラート公爵家は沈黙を守っている。ブラッド様はフェアラート公爵家の発言を許さないだろう。近いうちに爵位もなくなる、もしくは降下するはずだ。
フィラン殿下の葬儀は、陛下と王妃とともに人目を避けるように静かに行われた。ささやかな葬儀は、ブラッド様主導のもと、大聖女様たちに見送られて三人は静かに見送られた。
それから、数日後。
アギレア王国の陛下がクラルヴァイン王国へとやって来た。迎えに出るブラッド様の隣には、私が立ち、周りは騎士団で固められている。
ブラッド様と同じ青い髪に同じ青い瞳。ブラッド様は時々竜の眼のように瞳孔が縦長になる。興奮すると特にだ。
それは、竜の血を引くアギレア王国の陛下と同じだった。今もブラッド様の執務室となった陛下用の部屋で向かいあうアギレア王国の陛下とブラッド様は似ている。
「予定よりも早い……もう少しリラとゆっくりと過ごしたかったのに……」
予定よりも早くに到着したアギレア王国の陛下に、ブラッド様が不機嫌な様子で肘をついて睨んでいる。その後ろで私は名前を出され困り顔で立っていた。
「リカルドからの連絡が約束通り来たから、参ったのだ。その顔はやめろ」
嫌そうに座っているブラッド様に、アギレア王国の陛下が呆れる。
リーガと呼ばれたリカルドは、アギレア王国の陛下からブラッド様に贈られた暗殺者だった。密偵もする彼は、アギレア王国の陛下との連絡係でもあった。
「ご要望通りに、陛下と王妃は引いてもらいました」
「……手を下したのはお前か?」
「俺が適任でしたから……あなたが手を下すと、色々問題が起きますからね」
「何のために、リカルドをお前にやったと思う? 暗殺者をお前にやった意味がないではないか?」
「そうでもないですよ。リカルドは優秀ですから。出来れば、このまま俺に下さい」
「リカルドがいいのであれば、構わんが……」
「では、このままリラの従者にします」
リカルドは、アギレア王国の陛下からブラッド様に贈られた暗殺者だった。それを、私への草として上手く使った。
「そちらが婚約者か?」
ちらりとブラッド様の後ろに立っている私を見るアギレア王国の陛下に恭しく頭を下げた。
「ええ、すぐに戴冠式を行います。そこで、アギレア王国との同盟を発表いたします。どうか、ご出席を……結婚式はそのあとに」
「もちろんだ。クラルヴァイン王国は、お前のものだ。アギレア王国は二度クラルヴァイン王国とは争わない。結婚の祝いもすぐに贈ろう」
そう言うと、アギレア王国の陛下が立ち上がった。
「では、すぐに調印式を行おう」
「ええ。リラもおいで」
「はい。ブラッド様」
ブラッド様が優しく見つめて言う。
すると、アギレア王国の陛下がジッとブラッド様を見る。
「……お前を一目見た時に、アリアの子供だとすぐにわかった」
「誰にも似てないと言われましたがね」
「そうでもない。アリアと目の色は違うが、今も婚約者のリラ殿を見る時の眼はアリアに似ている」
「ああ、そういうことですか……」
どういう意味なのだと思いながら首を傾げると、ブラッド様が少しだけ笑みを零した。
「……ブラッド。二度とあんなことをするな」
鋭い目線になったアギレア王国の陛下が、ブラッド様の頭を雑に撫でて部屋から出て行った。
「……親殺しのことを言っているのか?」
ブラッド様が乱れた髪を直しながら聞いてくる。
「そうだと思いますよ」
「自慢ではないが、陛下たちを親だと思ったことはない」
「ええーと、何というか……そういうことではないと思いますよ」
「もしかして、自分でとどめを刺したかったのか?」
「それはわかりませんけど……アギレア王国の陛下は、ブラッド様のお心をご心配なされているのかと」
「別に罪悪感もないが……そうか……」
不思議そうにブラッド様が悩んでいる。
「心配されるのは、初めてだ」
陛下と王妃は、フィラン殿下のことばかりだったから、ブラッド様にとっては初めてのことらしい。驚いたように言うブラッド様に私までもが驚いた。
思わず、くすりと笑みが零れる。
「リラも俺を心配するか?」
「それは、もちろんします。でも、アギレア王国の陛下とは少し違うかもしれませんね」
「そうか……」
少しだけ嬉しそうな表情で私を見るブラッド様。
「では、その心配性なアギレア王国の陛下を待たせないように、行きましょうか」
「そうするか」
ブラッド様が差し出した手に添える様に手を乗せると、彼がしっかりと握りしめた。そうして、ブラッド様は、クラルヴァイン王国の王になり、アギレア王国とは不戦を誓い同盟を築いた。
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