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第一章 フェンリル
フェンリルの腹枕
しおりを挟むあれから何度もフェンリルのところに来ている。
フェンリルは、普段は森や山に行って魔物が人里に下りたりしないようにと目を光らせているらしい。たまに襲い掛かってくる魔物もいるようで、それもフェンリルが討伐したりとするらしく、初めてお会いした時に怪我をしていたのは、魔物狩りのあとだったらしい。
フェンリルは寒いところが好きみたいで、温室の外に座り込み、私は彼のお腹にもたれて足を伸ばしていた。
『足は痛くないのか?』
「大丈夫です。すぐに魔法でなおしますし、雪に乗せていればひんやりとして気持ちいいですから……」
夜会が近いうちにあるらしく、私はハイヒールに慣れるために、普段から踵の高い靴をはくことになった。いつもと違い慣れないままで、足には靴ずれが出来ていた。でも、魔法で治せるから、なにも問題はない。
「お菓子をもっと食べますか? フェリクス様がフェン様にご用意をしてくださったのですよ」
『気がきくな』
「フェン様は、フェリクス様と仲良しなのですね」
気の知れない仲の二人が少しうらやましい。
私と言えば、今日もジルに「ハイヒールぐらい履きこなせなくてどうしますか」と怒られたばかりだ。
『フェリクスは特別だ。私は、フェリクス以外に従う気はなかったからな』
このフェンヴィルム国は、フェンリル様の幻獣士になった王族が陛下になる。フェンリル様が誰にも従わないという時は、王位継承権順に陛下になると王妃教育で習った。
だから、第二殿下であったフェリクス様も陛下が崩御されて次の陛下とおなりになったのだ。
『フィリ―ネも特別だ』
「私も幻獣士ですか?」
『まさか。私はこの国の守護獣だ。王族以外は私の幻獣士にはなれんよ』
フェンリルに、喉を鳴らされて一蹴されてしまった。それでも、フェンリルは私のことが気に入っているらしい。フェリクス様も、フェンリルは彼以外寄せ付けなかったと話していた。
「私は魔法の才もないと言われていましたから、図々しいことを言いましたね」
『ククッ……おかしなことを言う奴がいるもんだな』
「なにか違いますか?」
『魔法を覚えたいなら、私が教えてやろう』
「教えてくださるのですか?」
『フィリ―ネならかまわん。珍しい癒しの魔法を見せてくれたからな』
嬉しくて言葉にできずにフェンリルの白い身体に抱きつく。
もふもふ具合が気持ちよくて、(気持ちいい……)と思いながらギュッと力を入れると嬉しそうに喉を鳴らして頭を摺り寄せてくる。
『気に入ったか?』
「……また心の声が聞こえました?」
『聞こえたな。フィリ―ネはあまり心の声が聞こえにくいが……』
「……きっとなにも考えていないからです」
『そうは見えないが……おかげでフィリ―ネの好きなものがわからん。フィリ―ネは、なにが好きだ? 食べ物は? 好きなことはなんだ? 人間の女なら歌とか劇か?』
「なにも……私は歌一つも知らないのです」
『そうなのか?』
「はい……」
みんなが知っていることを、私はなにも知らない。フェリクス様もそんな妃は嫌だろう。
『フェリクスに嫌われたくないか?』
「わかりません……でも、きっといつか婚約破棄をされます。それまでは一緒にいてくださいね」
『私も歌など知らん。気にすることはない』
慈しむようにフェンリルが私を寄せる。外は雪が止んでいるとはいえ、積もったままだ。でも、フェンリルの腹枕の温かさと雪の冷たさが心地よかった。
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