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第一章 フェンリル
後悔
しおりを挟む「……なぜ、逃げる? どこに行こうとしている?」
叫ばれた後の声は、静かなものだった。目を開けると釣りあがった目が心配そうに私を見ていた。
「……放してください。私は……帰りたくないのです」
「理由はなんだ?」
「私を……ディティーリア国へ連れて行くと……私がもういらないから、ディティーリア国に帰すのですよね……でも、私は帰りたくないのです」
(きっと女性といつも逢引きをしているから私が邪魔なのよ。だから、もういらなくなったんだわ……私は、ここに置いて下さるだけでよかったのに。なにもフェリクス様に求めてなどない。ただ帰りたくないだけなのに)
私は、フェリクス様の邪魔なんかしない。
そう思うと、掴まれたフェリクス様の手が緩んだ。彼を見上げるとその場に倒れた。
「フェリクス様!?」
「ぴゅ!?」
フェレスベルグの子供も、フェリクス様の倒れた姿に驚いている。
「フェリクス様! しっかりしてください!!」
彼を揺さぶっても瞼を閉じたまま起きる気配などない。必死で私よりもはるかに大きなフェリクス様の腕を肩に回して支えようとするけど、とても一人では起こせなかった。
『フィリ―ネ』
その時に、フェンリルが私たちの側に歩いてやって来た。
「フェン様! フェリクス様が急に倒れたのです! どうかお助けください!」
『フェリクスは大丈夫だ』
「でも、急に倒れるなんて……こんな寒い中、私を追いかけてきたからでしょうか?」
『フェリクスは、寒さに強い。倒れたのは、魔力の使い過ぎだ』
「魔力の使い過ぎ……? 先ほど一瞬で私の炎を凍らせましたけど……」
あれほどの魔法を一瞬で出せるのに、魔力の使い過ぎなんて不思議だ。フェンリルは、フェリクス様を咥えて背中に乗せている。そして、私を見つめた。
『フィリ―ネ。帰らないのか?』
(帰りたくない。帰りたくないけど……フェリクス様を置いてはいけない)
「帰ります……」
フェンリルが、『乗りなさい』と頭を下げて私を促した。そのもふもふする背中に乗った。
その場に落ちている私のトランクをフェンリルが咥えて城へと歩き出す。
意識のないフェリクス様が少しでも寒くないようにと彼にしがみついていた。
『フィリ―ネ。フェリクスは、毎日魔力を使っている。だから、先ほどもすでに魔力が尽きていた時に無理に使ったから、身体がもたなかったのだろう。少し休ませればフェリクスならすぐに回復するから心配するな』
「どうしてそんな無理を……」
『それくらいフィリ―ネにいなくなって欲しくなかったのだろう。単純なことだ』
「わかりません……」
『すぐにわかる。フィリ―ネもフェリクスから離れないではないか』
フェリクス様にしがみつく私にそう言う。必死で私を追いかけて来たのは、引き留めようとしていたから……。冷たくなったフェリクス様の頬を撫でると、不思議な気持ちになる。その時に、城の方から灯りがたくさんやって来ていた。
「フェリクス様! フィリ―ネ様!」
「ヴァルト様……」
馬で追いかけて来たのは、ヴァルト様や数十人の騎士たち。ヴァルト様は、私とフェリクス様を見るなりホッとした。
「お戻りになってくださって良かった……」
「勝手で出てごめんなさい……」
「無事ならいいんです。して、フェリクス様は?」
「それが、フェン様が言うには、魔力の使い過ぎで倒れたと……」
「では、このまますぐに帰りましょう!」
「はい……フェン様。かまいませんか? できれば、少し急いでくださると……」
『かまわんよ』
そう言って、フェンリルは走り出し、ヴァルト様を筆頭に馬が走り始めた。
城に着くと、フェリクス様は部屋にすぐに運ばれた。魔力が尽きたから休ませるだけで何もすることはない。ヴァルト様は、なにかあった時のために近くの部屋で控えている。
フェリクス様が倒れたのは私のせいだ。何もしないではいられずに、続き部屋からフェリクス様の部屋へとこっそりと行った。ベッドには、フェリクス様が静かに寝ている。
「ごめんなさい……フェリクス様」
目を覚まさないフェリクス様のベッドサイドにもたれかかり、後悔しながらそう言った。
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