25 / 36
第二章 ユニコーン
正式な訪問
しおりを挟むディティーリア国から招待を受けた正式な訪問。そう言って、フェリクス様が騎士団や近衛騎士団を編成し、彼らを率いてディティーリア国へ向かった。
雪が降っている間は、フェリクス様と馬車の中で進んでいたが、ディティーリア国へ入国する頃には、フェンヴィルム国よりも雪は落ち着いていた。
私は外が珍しく、フェンヴィルム国に来た時と同じように窓の外の景色に釘付けだった。
「……そんなに楽しいか?」
「来る時しか見たことありませんし、すごく綺麗です」
そんな私を見て、彼は雪が止んでいるからと言って、馬に乗せてくれた。初めて乗る馬に胸は高鳴っている。フェレスベルグの子供もついてきており、私がフェリクス様に乗せられたのを見て楽しそうに周りを羽ばたいている。
「寒くないか?」
「刺すように寒いです」
フェリクス様にマントをかけられて、心配されるが馬上の寒さすらも私には新鮮で目が輝いてしまう。そんな道中を楽しみながらディティーリア国の城へと到着する。
いつの間にか、頬は赤くなっていた。
城に着くと、周りには一斉にディティーリア国の騎士団が並んで迎え入れた。その間をフェリクス様の馬に乗せられたまま進む。不安と緊張で恐縮している私を、彼は(大丈夫だ)と心に呼びかけて私の肩を寄せる。
入り口前に着くと、馬車も馬も降りなくてはいけない。フェンヴィルム国の騎士たちが私たちの周りに控えるように囲む。その中で、フェリクス様が私を抱き上げて下ろしてくれた。
すると、何かが頭に響く。
(…………)
「フェリクス様……なにか言いましたか?」
「何も言ってないが……心の声は聴くなよ」
「そうではなくて……呼ばれたような気がしたのです」
不思議だ。何かが私を呼びかけている。まるで、フェンリルが頭に話しかけてくるものに似ていた。
「リーネ。行くぞ」
周りの気配は探ろうとしても、ディティーリア国に迎え入れられてフェリクス様と城へと行く。そこは、すでに祝賀会が行われており、私たちが入ると、一斉に道を開ける。
中央をフェリクス様の傍らで進むとディティーリア国の陛下である兄上と王妃である義姉上が赤ん坊を抱き待っていた。
お互いに形式的な挨拶が滞りなく終わると、祝賀会の主役の赤ん坊を見た。兄上はフェンヴィルム国と婚姻を結ばれてご機嫌なのか、フェリクス様に話しかけている。
「お近くでどうぞ。我が息子です」
「いいので?」
フェリクス様が聞き返す。
「もちろんです。フェンヴィルム王に見ていただけると、大国の祝福を得られるというもの」
兄上は、ご機嫌でフェリクス様を迎え入れる。私と結婚するから、兄上は義兄弟になった気になっていたのだ。
「可愛いものだ」
王妃様の腕にいる赤ん坊を見ると、柔らかいぷにぷにな手足に可愛い顔。これが赤ん坊。
(可愛い……)
赤ん坊を囲み皆の顔が緩んでしまう。赤ん坊は、握るものを探すように手を動かしている。
「お触りになっても大丈夫ですよ。フェンヴィルム国の陛下は幻獣士でしたな。息子もこれで幻獣の庇護を受けられるようにあやかりたいものです」
ご機嫌な兄上に促されて、王妃様がどうぞと柔らかな笑顔で言う。
フェリクス様は、赤ん坊に遠慮したように気を遣っている。
「リーネが先に触るか? そのほうが安全な気がする」
「いいのでしょうか?」
その瞬間ピリッとした。兄上が私は触るなと言っているように、侮蔑した表情を見せているのだ。
やっぱり私は兄上たちに受け入れられてない。先ほどからもフェリクス様にばかり話しかけているし、私の存在をないものとしているのだ。
(……私は、いいです。どうぞフェリクス様だけで……フェリクス様に恥をかかせたくないのです)
私がこんな公でディティーリア国の陛下に嫌われているとフェンヴィルム国や会場にいる人たちが知ればそうなるだろうか。きっと呆れる。そのうえ、フェリクス様はそんな女と結婚するのだと言われるかもしれない。そう思うと、もう手は出なかった。
「……我が婚約者が触れられない子を、俺が先に触れるわけには……」
わざとらしくフェリクス様が悩みながらそう言う。臭い演技に、目がテンになる。
こんな場合は、私が触れるにしても順番的には、陛下が先なはず。そもそも、婚約者が出しゃばって陛下よりも先に動くなど有り得ないのに……
「くすくす……フィリ―ネ様。どうぞ、先に我が子の手を握ってやってください。陛下。よろしいですね」
王妃様が、臭い演技をするフェリクス様に笑みが零れた。そして、それを止めようとした兄上を王妃様が止めた。「ここは公の場です。彼女はフェンヴィルム国の婚約者ですわ」と。
兄上に睨まれながら、握りたくないけど赤ん坊に手を出すと柔らかい感触なのに握る力があることに驚いた。しっかりと握られる手が温かい。握りたくないと思った気持ちが一瞬で消えた。
その握っている手に、フェリクス様が包むように重ねる。そして、フェリクス様が私の頭に話しかけてくる。その言葉通り、フェリクス様と言葉を合わした。
「「幻獣の祝福を」」
フェリクス様と二人で、赤ん坊にそう言って祝福をした。
24
あなたにおすすめの小説
過労薬師です。冷酷無慈悲と噂の騎士様に心配されるようになりました。
黒猫とと
恋愛
王都西区で薬師として働くソフィアは毎日大忙し。かかりつけ薬師として常備薬の準備や急患の対応をたった1人でこなしている。
明るく振舞っているが、完全なるブラック企業と化している。
そんな過労薬師の元には冷徹無慈悲と噂の騎士様が差し入れを持って訪ねてくる。
………何でこんな事になったっけ?
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜
伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。
ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。
健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。
事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。
気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。
そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。
やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。
【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?
きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。
記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】
かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。
名前も年齢も住んでた町も覚えてません。
ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。
プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。
小説家になろう様にも公開してます。
巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について
みん
恋愛
【モブ】シリーズ①(本編)
異世界を救うために聖女として、3人の女性が召喚された。しかし、召喚された先に4人の女性が顕れた。そう、私はその召喚に巻き込まれたのだ。巻き込まれなので、特に何かを持っていると言う事は無く…と思っていたが、この世界ではレアな魔法使いらしい。でも、日本に還りたいから秘密にしておく。ただただ、目立ちたくないのでひっそりと過ごす事を心掛けていた。
それなのに、周りはおまけのくせにと悪意を向けてくる。それでも、聖女3人のお姉さん達が私を可愛がって守ってくれるお陰でやり過ごす事ができました。
そして、3年後、聖女の仕事が終わり、皆で日本に還れる事に。いざ、魔法陣展開で日本へ!となったところで…!?
R4.6.5
なろうでの投稿を始めました。
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる