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第二章 ユニコーン
奉殿の幻獣 1
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部屋の前で騒いでいたのはディティーリア国の王妃様だった。
「王妃様といえど、中には入れないで! フィリ―ネ様をお守りするのよ!!」
部屋の前にいる騎士たちにアリエッタが叫ぶ。フェンヴィルム国の騎士たちは、こんな状況で誰も私に接触させないように守ってくれていた。
でも、王妃様の叫ぶ声が聞こえる。
「お願い! 開けてちょうだい! フィリ―ネ様!!」
王妃様の悲鳴のような叫びに、しがみついていたアリエッタの腕を放した。
「アリエッタ。王妃様を入れてください」
「しかし、こんな状況では誰が敵かわかりません!!」
「でも、王妃様の様子は見過ごせません」
こんな状況に、王妃様のあの様子は異常だ。アリエッタもわかっている。だからこそ、私を守ろうとしてくれているのだ。
「わかりました。でも、絶対に近づかないでくださいね」
アリエッタにそう頷く。扉が開かれると、王妃様が狂ったように飛び込んできた。
「フィリ―ネ様! どうかっ、どうか息子を助けて!!」
「息子……? 王妃様、一体何が……」
涙を流しながら懇願する王妃様に困惑する。今にも発狂しそうなほどだ。
「奉殿の幻獣が怒っているのです! 陛下が……陛下が息子を連れて行って怒らせてしまったのです!! このままでは殺されてしまいますわ!!」
「奉殿に幻獣が? でしたら、兄上が適任では……兄上が幻獣士になったと噂を聞きました」
「あんなのは嘘です!!」
「うそ……?」
兄上は幻獣士ではない? 確かにフェレスベルグの子供を見ても幻獣だとは気付かなかったけど……。
王妃様に近づこうとすると、アリエッタが「いけません」と止めるが、そのまま王妃様の身体を支えた。彼女はその場に膝から崩れ落ちた。
「王妃様、一体なにがあったのですか? この雷は幻獣の仕業ですか?」
「そうですわ……この国が密かに隠していた幻獣が怒っているのです。陛下が……あの人が怒らせたのですわ」
「一体、何の幻獣がいるのですか?」
「ご存じないの……? まさか……そこまで……」
泣きながら顔を抑える王妃様は、何も知らない私を憐れんでいた。
「……ユニコーンですわ。ずっと奉殿にはユニコーンが眠っていたのです」
「所在不明の?」
「ユニコーンは貴重な幻獣です。ディティーリア国の祖先がユニコーンの幻獣士だったのですよ。次の幻獣士がいないからユニコーンはずっと眠っていたと聞きましたわ。そして、誰もユニコーンを起こせなかったのです。あれを起こせると予言を受けたのはフィリ―ネ様だけです。お願い。ユニコーンは、眠りを妨げられて怒っているのです」
「私が?」
そんな予言があったなんて知らない。誰もそんなことを教えてくれなかった。それに、もし予言を期待して奉殿に私を連れて行ったのなら、私はユニコーンの幻獣士ではない。
だって一度もユニコーンに会うことなどもなかった。
「陛下が、幻獣士になったと噂になったのは、その時に幻獣が動いたからなんです。でも、起こせていなかったから、陛下は焦って……息子が生まれたばかりだから、もしかしたら息子がユニコーンの幻獣士なのかもと連れて行ってしまったのです……! そしたら……」
ユニコーンが怒り雷を落とした。今もずっと怒っている。
噂になったから兄上は、幻獣士という噂を本当にしようとしていた。それくらい、幻獣士は特別な存在なのだ。それが、フェンリルのように貴重な幻獣ならなおさらだ。
「お願い! もう誰も奉殿に入れないのよ! 中にはまだ息子がいるのにっ……!! どうかユニコーンを鎮めてください!!」
「でも、私は……今までユニコーンにお会いしたこともなくて……」
縋る王妃様の手を取っていると、アリエッタが思い出すように顎に手を当てて話す。
「もしかしたら、ユニコーンの幻獣士でないのに、何度も陛下がお会いに行っていたから怒ってしまったのかも……」
「どういうことですか?」
「ヴァルトから聞いた話では、幻獣は自分の幻獣士や気に入らない人間とはいないそうです」
ということは、フェンリルが私を側に置いてくれるのは、気に入られているから……
「フィリ―ネ様が、お会いに行っていたときはこんな状況にはならなかったはず。きっとあなたが予言通り、ユニコーンの幻獣士なのですわ!」
王妃様が叫ぶと、また雷が落ちた。身体が震えるほどの振動だった。
「王妃様といえど、中には入れないで! フィリ―ネ様をお守りするのよ!!」
部屋の前にいる騎士たちにアリエッタが叫ぶ。フェンヴィルム国の騎士たちは、こんな状況で誰も私に接触させないように守ってくれていた。
でも、王妃様の叫ぶ声が聞こえる。
「お願い! 開けてちょうだい! フィリ―ネ様!!」
王妃様の悲鳴のような叫びに、しがみついていたアリエッタの腕を放した。
「アリエッタ。王妃様を入れてください」
「しかし、こんな状況では誰が敵かわかりません!!」
「でも、王妃様の様子は見過ごせません」
こんな状況に、王妃様のあの様子は異常だ。アリエッタもわかっている。だからこそ、私を守ろうとしてくれているのだ。
「わかりました。でも、絶対に近づかないでくださいね」
アリエッタにそう頷く。扉が開かれると、王妃様が狂ったように飛び込んできた。
「フィリ―ネ様! どうかっ、どうか息子を助けて!!」
「息子……? 王妃様、一体何が……」
涙を流しながら懇願する王妃様に困惑する。今にも発狂しそうなほどだ。
「奉殿の幻獣が怒っているのです! 陛下が……陛下が息子を連れて行って怒らせてしまったのです!! このままでは殺されてしまいますわ!!」
「奉殿に幻獣が? でしたら、兄上が適任では……兄上が幻獣士になったと噂を聞きました」
「あんなのは嘘です!!」
「うそ……?」
兄上は幻獣士ではない? 確かにフェレスベルグの子供を見ても幻獣だとは気付かなかったけど……。
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「王妃様、一体なにがあったのですか? この雷は幻獣の仕業ですか?」
「そうですわ……この国が密かに隠していた幻獣が怒っているのです。陛下が……あの人が怒らせたのですわ」
「一体、何の幻獣がいるのですか?」
「ご存じないの……? まさか……そこまで……」
泣きながら顔を抑える王妃様は、何も知らない私を憐れんでいた。
「……ユニコーンですわ。ずっと奉殿にはユニコーンが眠っていたのです」
「所在不明の?」
「ユニコーンは貴重な幻獣です。ディティーリア国の祖先がユニコーンの幻獣士だったのですよ。次の幻獣士がいないからユニコーンはずっと眠っていたと聞きましたわ。そして、誰もユニコーンを起こせなかったのです。あれを起こせると予言を受けたのはフィリ―ネ様だけです。お願い。ユニコーンは、眠りを妨げられて怒っているのです」
「私が?」
そんな予言があったなんて知らない。誰もそんなことを教えてくれなかった。それに、もし予言を期待して奉殿に私を連れて行ったのなら、私はユニコーンの幻獣士ではない。
だって一度もユニコーンに会うことなどもなかった。
「陛下が、幻獣士になったと噂になったのは、その時に幻獣が動いたからなんです。でも、起こせていなかったから、陛下は焦って……息子が生まれたばかりだから、もしかしたら息子がユニコーンの幻獣士なのかもと連れて行ってしまったのです……! そしたら……」
ユニコーンが怒り雷を落とした。今もずっと怒っている。
噂になったから兄上は、幻獣士という噂を本当にしようとしていた。それくらい、幻獣士は特別な存在なのだ。それが、フェンリルのように貴重な幻獣ならなおさらだ。
「お願い! もう誰も奉殿に入れないのよ! 中にはまだ息子がいるのにっ……!! どうかユニコーンを鎮めてください!!」
「でも、私は……今までユニコーンにお会いしたこともなくて……」
縋る王妃様の手を取っていると、アリエッタが思い出すように顎に手を当てて話す。
「もしかしたら、ユニコーンの幻獣士でないのに、何度も陛下がお会いに行っていたから怒ってしまったのかも……」
「どういうことですか?」
「ヴァルトから聞いた話では、幻獣は自分の幻獣士や気に入らない人間とはいないそうです」
ということは、フェンリルが私を側に置いてくれるのは、気に入られているから……
「フィリ―ネ様が、お会いに行っていたときはこんな状況にはならなかったはず。きっとあなたが予言通り、ユニコーンの幻獣士なのですわ!」
王妃様が叫ぶと、また雷が落ちた。身体が震えるほどの振動だった。
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