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贈り物の宛先
__翌日。
朝から継母の言いつけで、使用人と同じでエプロンを付けたメイド服で朝食のお茶をトポトポと入れていた。
継母たちの言い分では、私は置いてやっているただの居候なのだそうだ。
微妙なところだが、当主がジャンである以上、確かに婚約者でもない私はただの居候かもしれない。唯一の血縁だったお父様はすでにいないのだ。この邸を出て行きたいし、継母たちも追い出したいのだろうけれど、子爵様との結婚話があったから外にも出せないとわかる。
でも今は、クライド様が結婚して下さると言った。
ただの戯れでなければいい。
そう思うけど、正直よくわからないでいた。18歳になったばかりの私のような子供をあんな素敵な方がお相手するのだろうか?
婚約者もいるし、クライド様の容姿なら引く手あまただと思う。
その時、下僕(フットマン)が執事に伝言にやって来くれば、執事は目を見開いて驚いていた。
「奥様! お、贈り物が……レイヴンクロフト公爵家より、贈り物がきたそうです!」
みんなのフォークやスプーンの手が一斉に止まった。
「公爵家? あの、レイヴンクロフト公爵家!? いったい何の用で!?」
魔法を使う者には必要なグリモワールの塔を管理している有名なレイヴンクロフト公爵家の名前を聞いてジャンが驚いて言う。
「ど、どうして、レイヴンクロフト公爵家が!?」
継母までもがレイヴンクロフト公爵家の名前を聞いて焦っている。
「私も知っているわ! 昨日お会いしたもの! すごくかっこよかったわ! もしかして、私に!?」
クレア義姉様は、両手を握り喜びで溢れている。
「まさか、あの時にクレアに一目惚れをしたのか!?」
ジャンまでクライド様が、クレア義姉様を狙っているかのように話し出した。
「やったわ! クレア、よくレイヴンクロフト公爵家の目に止まったわね!」
継母たちは立ち上がり、嬉々として玄関へと走り出した。
(でも、クレア義姉様への贈り物かしら?)
結婚を申し込まれたのは私だったはず。思わず、首を傾げてしまう。だけど、レイヴンクロフト公爵家が来たのなら、求婚の話をもう無視できないと思えた。
「あの……お義母様。実はですね。昨夜、クライド・レイヴンクロフト様にお会いしまして……」
「うるさいわね! 今、あんたの話を聞いている暇はないわ」
言いにくいながらも、継母たちの足を止めて話そうとしたけど、継母たちは私の話に聞く耳はなかった。
浮かれているように、足音も気にせずに継母たちが玄関に一直線に走っていると、玄関の開けられた扉には、次々と贈り物が邸内に入れられていた。
思わず、ぎょっと驚いた。
(一体、何事でしょうか?)
引っ越しでもしてくるのかと思うほどの荷物、ではなくて贈り物だった。
我が家の執事は、「こちらが我が家の当主です」とジャンを紹介している。
贈り物を持って来た責任者のような方は執事服の初老の方だった。その彼が、怪訝な表情で胸に手を当てて言う。
「私は、レイヴンクロフト公爵家であらせられるクライド様の執事ベンと申します。本日は、クライド様よりこちらのお嬢様に贈り物を届けるようにと言い使って参りました」
初老の執事は、しわの寄った厳しい顔で言う。顔が怖い。
執事ベンの言葉に、クレア義姉様が反応すれば、飛び上がるほど舞い上がった。
「きゃあぁ!! やっぱり私にだわ!」
「クレアに一目惚れしたのか!?」
「やったわ! さすが私の娘よ!!」
継母まで飛び上がるように喜んだ。
ベンを見ると、これが貴族の振る舞いか? と言いたげに睨んでいる。
「……あなた様がプリムローズ様ですか。クライド様は、本日は仕事で外せないので、先に贈り物を、と伝言を承っております」
ベンが眉間にシワを寄せたまま、喜びに満ちているクレア義姉様に一礼した。
すると、継母たちの落ち着きのない動きが止まった。
「……えっ……プリムローズ……?」
クレア義姉様が不思議そうに聞く。継母もジャンも、困惑し始めていた。
「……? そうですが、なにか? こちらの贈り物は全て、クライド様からプリムローズ様へのものです。どうぞ、お納めください」
ベンは、クレア義姉様が私、プリムローズだと思っているようで、クレア義姉様に軽くお辞儀をして言う。
でも、クライド様に相応しくないと言いたげな雰囲気でピクリとベンの眉間に寄ったシワを見てしまった。
「そ、そんなはずは!? 贈り物はクレアに、でしょう!!」
「婚約を申し込んだのは、プリムローズ様だと伺っておりますが……あなた様はプリムローズ様ではないのでしょうか?」
「「「こ、婚約!?」」」
明らかに継母たちの態度を見るとクレア義姉様は私、プリムローズではないという態度だった。ベンでなくても、察しがつくほどに。
そして、ジャンが「まさか……」と後ろに控えている私をゆっくりと見た。その視線をベンは見逃さなかった。
「……まさか……そちらがプリムローズ様?」
メイド服を着た私を訝しんで見られた。
ベンは、私、プリムローズが伯爵令嬢だと聞いて来たのだろう。その私がメイドの姿でいるのだ。
「プレスコット伯爵様。どういうことですか? 後ろの方が、プリムローズ様でしょうか? 正直に言わなければ、レイヴンクロフト公爵家をたばかることになりますよ」
このまま、クレア義姉様がプリムローズだと勘違いをしたまま、贈り物を受け取ることは許されない。そもそも、さっきからの継母たちの態度に、すでに貴族の振る舞いを疑われている。今も、ベンの眉間にシワは戻らないほどの威圧感だった。
「そ、それは……」
歯切れが悪い継母を見て、ベンは怖い顔で睨んでいる。
でも、私も思う。何を隠すことがあるのだろうか。
継母たちは、贈り物に目がくらんでいるようにさえ見えてしまう。
「……あの……失礼しました。私がプリムローズです」
「……クライド様をご存知でしょうか?」
「はい。存じております。……昨夜、夜会でお会いしました。ご挨拶が遅くなり申し訳ございません」
ベンに頭を下げて謝罪した。
「……プリムローズ様で間違いないようですね」
ベンが不機嫌ながらも、胸を撫で下ろした。
クライド様が、昨夜に夜会でお会いして、求婚したことをベンに話したのだろう。
「では、こちらは全てプリムローズ様への贈り物です。クライド様からは、近いうちにお会いしたいと伝言を承っております」
「わかりました。……私もお会いできるのをお待ちしております。とお伝えください」
ベンは、私に贈り物を届け伝言を承ったことに、仕事はやっと終わったという風になり「失礼いたしました」と言って去って行った。
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