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敵は執事
別邸とはいえ快適だった。
埃っぽかった部屋はリアムの指示のもと綺麗に掃除され、食事は毎食用意される。アフタヌーンティーも忘れない。それに美味しい。
今日も、「庭に何か植えようかしら?」とルノアと楽しく相談していたところだった。
そこに、ライラさんが乗り込むようにやって来た。
「プリムローズさん!! どうして何も言って来ないの!?」
「何をでしょうか?」
突然やって来たライラさんにキョトンとして応えた。
「ここに追い出されてなんとも思わないの!?」
自分で追い出しておいて何を言っているのだろうか。
別邸で楽しくやっている私は怒らなくて、何故かライラさんが憤慨している。
「あの……お邪魔なら私はグリモワールの塔に行きましょうか?」
「それは、ダメよ!」
一体どうして欲しいのだろうか……わからずに頭を抱えてしまう。
「……あの、良かったら、お茶でもしませんか? クワの片付けをしてくるので少し待っていただければ、すぐに準備させますので……」
「なんだか楽しそうね……」
「こんなに自由な時間があるのは初めてですから……意外とゆっくりとした生活もいいかもしれませんね」
考えてみたら、いつもプレスコット伯爵家ではメイドの仕事に領地の帳簿の整理にと忙しかったかもしれない。しかも、幼い私にはわからないこともまだあったから、小作人頭やシャルタン男爵には、色々なことを教えてもらっていた。懐かしいなぁと思っていると、ライラさんがお茶を一緒にしてくれるようで、庭に出していたイスに座り始めた。
「ルノア。すぐにリアムにお茶の準備を頼んできてくれる? 片付けは私がするから……」
「あんな意地悪な方とお茶をして大丈夫ですか?」
「意地悪かしら?」
「どう見ても意地悪です!」
そうかなぁと思う。クレア義姉様の意地悪とは違うと思うのだ。
クレア義姉様は私を見下していたけど、ライラさんは見下している感じと違う。
「すぐにお茶を準備しますので、少しお待ちくださいね」
「急いでね」
「はい」
ルノアがお茶を頼みに行っている間に、私は庭を耕していたクワを片付け別邸に戻ろうとすると、郵便配達がやって来ていた。
もう数日経ったのだから、もしかしたらクライド様から手紙が来るかもしれないと、少し期待してしまう。
いそいそと玄関に行くと、手紙の束を受け取ったベンが手紙を一つ一つ確認しながら下僕(フットマン)に渡していた。
「これは、ライラ様に……こちらは……」
ベンが指示していると、一通の手紙でベンの手がとまった。
「それは、プリムローズ様ですね?」
下僕が聞くと、ベンはあろうことか私宛の手紙を開けようとして慌てて止めた。
「ベン! それは、私宛じゃないの!?」
「……覗き見ですか? なんと品のない。これだから格式のない貴族は……!」
見下されている。プレスコット伯爵家を見下し、その家から来た私を見下しているのだ。
それは、執事にあるまじき行為だった。
「……ベン。あなたは、何年執事をしているの? このレイヴンクロフト公爵家宛てに来た手紙なら、クライド様の言いつけのもと先に手紙を確認することもあるでしょう。でも、階上の人間個人に来た手紙を確認してもいいとは許可をしてないはずよ。どうしても手紙の中身を確認したいなら、私の許可を取ってちょうだい。それが出来ないなら、手紙の受け取りはリアムに任せます」
私に指摘されて、ベンはカァッと顔を赤くして今にも声を荒げそうだった。
こんな小娘に注意をされたことに、怒りを隠せないのだ。
「……何と無礼な! これだから下品な伯爵家で育った娘は……! プレスコット伯爵が下品な平民の女を娶ったことだけはある」
「口を慎んでちょうだい。あなたが無礼なことと、プレスコット伯爵家のことは別の問題よ」
確かに、ジャンやクレア義姉様たちは最初にベンに会った時に、贈り物に舞い上がり貴族らしからぬ態度だったと思う。
でも、だからといってベンが好き勝手にして私を見下す理由にはならないはず。
それに執事一人納められないなら、それこそ私は公爵家の女主人にはなれない。
今ならわかる。ジャンの時は我慢さえしてれば良いと思っていたけど、そうじゃなかった。使用人たちの無礼な態度を増長させてはいけなかったのだ。
「私が……無礼だと……レイヴンクロフト公爵家に仕えて何十年のこの私が……」
張りつめた空気にベンは今にも掴みかかってきそうなほど私を睨み、思わず後ずさりしたくなる。それを止めたのは、ライラさんだった。
「ベン!! おやめなさい!」
後ろを振り向くと、いつの間にかライラさんが来ていた。
「手紙はプリムローズさん宛てでしょう。彼女に渡しなさい」
ライラさんに止められて、苦虫をかみ潰したようにベンが力任せに握りしめた手紙を、後ろでこの状況に困っている下僕(フットマン)に渡した。
この状況でも、私には直接渡せないほどベンのプライドは傷ついているのだ。
でも、それは間違いだ。
この先もベンが執事でいるなら、こんな態度では私とはやっていけなくて、意を決して言った。
「ベン。今回のことは見逃します。少し休憩してから仕事に戻ってください」
ベンは益々顔を赤くして立ち去った。
火に油を注ぐような言い方だとはわかっているけど、お互いの立場はわかってもらうべきで、今、この場で冷や冷やしながら見ていた下僕(フットマン)まで、ベンのような態度を取られては困るのだ。
第二夫人の予定とはいえ、執事や使用人に見下されるような夫人になるわけにはいかない。だから、私が下がらせたという体にするためにあえてそう言った。
「……意外と言うのね。大人しい頼りない令嬢かと思っていたのだけど」
ライラさんは、含みがあるようにニコリとした。
「よく、可愛げがないと言われていました。私は、攻めるように正論を吐くそうです。それが生意気だと……」
「気にすることないわ。あなたは間違ってないから。相手がそう思うのは、あなたを見下したいからよ。見下したい相手が自分より何か一つでも優れていれば、嫌がらせもしたいのでしょう。それに、いくら執事でも個人に来た手紙を見る権利はないわ」
「ええーと……手紙のことをお話しましたでしょうか? もしかして、ずっと覗いていました?」
「……どうかしらね。それよりも、早くお茶を頂けるかしら? 私は、待たされるのは嫌いなの」
いつから覗いていたか知られたくない様子のライラさんがプイッと顔を背けて別邸に歩き出した。そのあとに、私も歩いて付いて行った。
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