光の聖女は闇属性の王弟殿下と逃亡しました。

屋月 トム伽

文字の大きさ
4 / 55

王弟殿下

しおりを挟む
「大丈夫か?」
「ええ、まぁ……」

あの後、マティアス殿下から引き離してくれたのは、天井から落ちて来た男だった。彼は城の離宮を借りているようで、その部屋へ連れていかれた。
彼は、私と向き合って座り、打撲した腕に鎮痛の軟膏を塗り包帯を巻いてくれていた。
その姿をじろりと睨む。

「何か言いたそうだな?」
「とっても言いたい事があります! 私が苦労して造った探索のシードを返してください!!」
「無理だな。あれは、すでに俺の身体に埋め込まれている。君よりも、俺の方が探索のシードの適正があったのだろう。よく考えて使え」
「よく考えて、誰もいないあの部屋で使ったのですよ! あの部屋には、近くに人もいなかったのに!!」
「驚いたのは俺だ! 天井がいきなり崩れたんだぞ!」
「天井に人がいるなんて予想外です!」

ツンとしてそっぽを向いた。誰が天井に人が忍び込んでいると思うのか。

「婚約破棄と聞こえたが……君が婚約者のセレスティア・ウィンターベルだったのか?」
「そうですけど……聞こえていた通り、先ほどお別れしました。理由は、あなたとの不貞を疑われたからです。あんな現場を見られたので何を言っても無駄でしょう」
「そうだったのか……あの王太子殿下には、どこから落ちて来たか言わなかったのか?」
「言って何になるのです。どうせ信じませんし、私が探索のシードを造っていたことは秘密でしたから……」

私から婚約破棄をするために、浮気現場を押さえようとして探索のシードを造っていたことなど誰も知らない。何の証拠も出せないどころか、あの状況で言えば、私が言い逃れをしたと疑われそうだ。
無駄にマティアス殿下の身分が高いせいばかりに。
しかも、証拠の探索のシードはもうない。この男から取り出すしかないのだ。

「セレスティア。名を名乗ってなかった。俺は、シュタルベルグ国の王弟ヴェイグだ」
「王弟殿下と仰っていましたが……本当に王弟殿下ですか?」
「そうだ。俺の兄上がシュタルベルグ国の陛下だ。仕事で昨日からカレディア国に来ていたのだが……」
「……あの……お聞きしてもいいですか?」
「かまわないが……」
「その王弟殿下が、なぜ、天井にいるんですか!」
「少し調べ物をしていただけだったのだが……」

怪しい。天井で調べ物をする王弟殿下なんて聞いたことがありません。

怪しいと思いながらジッとヴェイグ様を見ていると、彼がにこりとして笑顔を返してくる。どうやら、天井に潜んでいた理由は言いたくないらしい。
にこりと笑顔を見せるヴェイグ様だけど、引き締まった眼のせいか、笑顔までもが怪しい。

「とりあえず、探索のシードを返してください」
「あれは貰う」
「返して下さらないと困ります! 婚約破棄をされたんですよ! 私の有責で! このまま、マティアス殿下が何かしてきたら……」

探索のシードは、相手を探るのに都合の良いものだ。シードを身体に埋め込んでいるから、探索の魔法が使える。それを使えば人や物の居場所など隠している物がわかるから、人知れず調べるのには最適なはずだったのに……!

「……婚約破棄をされたと言ったな」
「ええ。先ほどサインを早々にしてきたばかりですわ。おかげ様で慰謝料をたっぷり払う羽目になることになりましたわ」
「そうなのか? そうか……それは、すまなかったな」
「……あのまま、殴られていたら慰謝料の減額にも訴えられたのに……」
「バカなことを言うな。何もしてないのに、殴られていいわけがない」

真剣な眼差しで彼が言う。この人だけが、私が不貞をしていないとわかっているのだ。
少しだけ、目尻が潤んだ。この国の王太子殿下から庇ってくれたことに、少しだけ感動したのかもしれない。そんな私に、彼が頬を撫でる。

「セレスティア。詫びに助けてやろう。探索のシードも頂いたことだしな」
「……そうしてください。そして、探索のシードは返してください。あれは三ヶ月もかけて苦労して造ったのです」
「君が造ったのか?」
「そうです。全てのシード(魔法の核)が作れるわけではありませんけど……」

ふむ、と考えているシュタルベルグ国の王弟殿下が、こちらを向いた。

「名を名乗ってなかったな。俺は、ヴェイグだ。ヴェイグ・シュタルベルグ」
「私は、セレスティア・ウィンターベルです。王弟殿下」

ご存知の通りです、と思えば、にこりとした怪しい笑顔を向けるヴェイグ様と目が合う。
天井から落ちて来たので、名乗る暇もありませんでしたけどね。

「……セレスティア。呼び方は王弟殿下ではなく、ヴェイグと呼びなさい」
「ヴェイグ様ですか?」
「そうだ」

いいのだろうか。大国シュタルベルグ国の王弟殿下を名前呼びで……とは思うが、腕の包帯が巻き終わったのに、彼は私の手を掴んだままで緊張する。
それに、天井で何をしていたかは言いたくないらしい。怪しさ満点だけど……。

「あの……ヴェイグ様。助けて下さるとは、慰謝料を立て替えて下さるのですか?」
「そうしてもいいが……一つ提案がある」
「何でしょうか?」
「俺と婚約しないか?」
「……婚約?」
「詫びをすると言っただろう。責任は取ろう。良いものを頂いたしな」
「いや……だから、返してください。あれがないと……」
「それに、俺の婚約者なら、マティアス王太子殿下も手は出せないぞ」

確かにそうだ。このままでは、私はふしだらな聖女のレッテルを張られる。すでに多くの近衛騎士たちに見られているのだ。
人の口には戸が立てられないということは、大いにある。

それに、このままだと、私は婚約破棄をしてもマティアス様の側妃に召し上げられるかもしれない。きっとエリーゼの教育係という名目で彼女の仕事を押し付けられる気もしている。

だから、探索のシードを使って逃げるしかないのだ。でも……。

「一緒にシュタルベルグ国に帰ろう。それでどうだ?」
「……本当に私をここから連れ出してくれるのですか?」
「必ず、守ってやろう」
「私は……聖女も疑わしいのですよ」
「そうなのか?」
「聖女には、こんな黒髪はいないのですよ……気持ち悪くないですか?」
「確かにそう聞いたことはあるが……まぁ、どちらでもいい。何の問題でもない」
「探索のシードを返す選択は?」
「ない。あれはずいぶん俺に合っている。おかげで、すでに俺に馴染んでいる。拒否反応もない」

それは、薄々気付いている。だから、あの場所で、私ではなく天井に潜んでいたヴェイグ様に向かって飛んで行ったのだ。

困惑しながらヴェイグ様を見ると、黒い笑顔を私に向ける。

「セレスティア。返事は?」
「……よ、よろしくお願いします……」
「ああ。よろしく頼む」

そう言って、ヴェイグ様が私の手をそっと口付けをした。





しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?

長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。 王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、 「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」 あることないこと言われて、我慢の限界! 絶対にあなたなんかに王子様は渡さない! これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー! *旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。 *小説家になろうでも掲載しています。

出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→

AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」 ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。 お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。 しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。 そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。 お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

義妹に苛められているらしいのですが・・・

天海月
恋愛
穏やかだった男爵令嬢エレーヌの日常は、崩れ去ってしまった。 その原因は、最近屋敷にやってきた義妹のカノンだった。 彼女は遠縁の娘で、両親を亡くした後、親類中をたらい回しにされていたという。 それを不憫に思ったエレーヌの父が、彼女を引き取ると申し出たらしい。 儚げな美しさを持ち、常に柔和な笑みを湛えているカノンに、いつしか皆エレーヌのことなど忘れ、夢中になってしまい、気が付くと、婚約者までも彼女の虜だった。 そして、エレーヌが持っていた高価なドレスや宝飾品の殆どもカノンのものになってしまい、彼女の侍女だけはあんな義妹は許せないと憤慨するが・・・。

処理中です...