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聖女と聖騎士 1
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「セレスティア」
「ロクサス……」
ヴェイグ様の姿が見えなくなるまで見送っていると、入れ違いでロクサスがやって来た。
「見たわね」
「しっかりと見た」
くっ……まさかのキスシーンを見られていたとは……。
そう思うと、恥ずかしさを隠すように表情を引き締めた。
「セレスティアは、あの男が好きなのか? マティアス殿下は、セレスティアとヴェイグ様が不貞をしていたとずっと言い張っていたが……」
しつこいですわ。不貞をしたわけではないけど、これは否定してもいいのだろうか。今さら、カレディア国に帰る気などないのだ。否定すれば、真面目なロクサスならヘルムート陛下に談判しそうな気迫を感じる。
「べ、別にどう思われてもいいですわ」
「なんだその動揺は?」
「動揺なんかしてません。それよりも、ロクサスはすぐにカレディア国に帰ってください」
「一人では、帰れない。何のためにシュタルベルグ国まで来たと思うんだ。セレスティアを迎えに来たんだぞ」
「いやですわ。絶対に帰りません」
腕を組んで、不機嫌さを伝えるようにツンとして言う。ロクサスは怪訝な表情になっていた。
「マティアス殿下との結婚が嫌なら、俺が陛下とイゼル様に掛け合おう。でも、シュタルベルグ国の王弟殿下ヴェイグ様はダメだ。彼は、セレスティアをカレディア国から離す気だぞ」
「それでいいのよ」
「セレスティアは、マティアス殿下が好きだったのではないのか?」
「でも、エリーゼがいるわ」
「浮気を知っていたのか!?」
知っていた。何度も二人で城の奥へと寄り添って消えて行ったのを見た。
それを冷ややかな眼で私は見ていた。
ロクサスは、私が浮気を知っていたことに驚き、目を見開いてしまっている。
「まさか、ショックでこんな暴挙に……?」
「違うわ。ロクサスは、昔から私と知己なのに、何もわからないのね……」
「そんなことはない。セレスティアが聖女に誇りをもっていることだって知っている。でも、マティアス殿下の浮気が原因なら、ヴェイグ様と婚約をしてどうするんだ? 彼は、女好きだという噂を聞いた。婚約者らしき女性もいると聞いたぞ」
「……ヴェイグ様のことは、ロクサスには関係ないわ。余計なことを言わないで」
そんなことぐらい、わかっている。婚約者はリリノア様で、ヴェイグ様は突き放す気もない。
彼女も私と同じでヴェイグ様を頼っているのだ。
私だって、そんな彼女を突き離せないと思う。
今も、何か力になればいいとは思っている。突然現れた私のせいで婚約破棄になったのなら、申し訳ないからだ。だから、せめて魔法が何か一つでも使えるようになれば、リリノア様の自信に繋がると思った。
「……なら、聖女機関の話をする。イゼル様から、セレスティアの黒髪のことを聞いた。隠していた理由も……」
「イゼル様が話したの?」
「そうだ。誰にも言えない話だと言って、シュタルベルグ国に来る前に俺にだけ話してくれた」
「じゃあ……あの地下に行ったの? 次の役目はロクサスなのね。それなら、それこそ私が帰る意味がないわ」
「俺は、地下には行ってない」
「行ってない……?」
「……聖女や聖騎士がこの数年、力が落ちているのがわかっているだろう。聖女も聖騎士も数が減っているんだ」
気付いている。ここ数年で、聖女や聖騎士の能力が落ちていた。それどころか、聖女たちの数も減っていた。その理由は光が闇に押されていたからだ。
だから、イゼル様は大聖女になる前でありながらも、私を地下へと連れて行ったのだ。
真っ暗闇の地下を光魔法で灯りを燈してイゼル様と二人で進んだ。思い出すだけで、嫌な気分になる。
「そんな中で、セレスティアの代わりができる聖女がいると思うのか?」
キュッと唇を引き結んで無表情になっている私に、ロクサスはいつものように話を続けている。カレディア国での私がいつもこうだったからだ。
「……でも、私がいなければきっと力のある聖女がまた現れるわ……」
「そうは思えない」
そう言うと、ロクサスが真剣な眼差しで私を見ていた。
「セレスティア。マティアス殿下との結婚が嫌なら、俺と結婚しよう。必ず大事にする」
「何を言って……」
「マティアス殿下にも陛下にも、イゼル様にもそう話す。だから、一緒に帰ろう」
私は、誰かと結婚したくて逃げたわけじゃない。
マティアス殿下の浮気に、黒髪が出現したことで、さらに広がっていた周りとの距離感。
ただでさえ、大聖女候補であり、王太子殿下との婚約に、周りからは一線を置かれていた。
嫌がらせのように嘲笑されたこともある。
何もかもが嫌になっていた。
だから、マティアス殿下の浮気を突き詰めて婚約破棄をして、城を去るつもりだった。
でも、ヴェイグ様が現れた。
彼だけは、私に聖女を求めない。そして、否定もしない。
私が仕事もしないで一日中パズルに没頭しても、終われば一緒にお茶を飲んでくれる。
「セレスティア」
私の名前を呼びながら、ロクサスが手を伸ばしてくるが、それを避けた。
「帰ってロクサス。ヴェイグ様とは別れないわ」
「ヴェイグ様も浮気をしていたら、マティアス殿下と同じだぞ。それなら、ここにいる意味がないだろう」
「ヴェイグ様は、そんなことしないわ。だから帰って」
「しかし……っ」
「ロクサス……私は帰って、と言ったのよ」
強い声音でそう言った。妃教育や大聖女候補らしく威厳のある態度を作る練習がここで役に立つとは思わなかった。
「わかった……だが、また来る」
ロクサスは、そう言って仕方なく去っていった。
「ロクサス……」
ヴェイグ様の姿が見えなくなるまで見送っていると、入れ違いでロクサスがやって来た。
「見たわね」
「しっかりと見た」
くっ……まさかのキスシーンを見られていたとは……。
そう思うと、恥ずかしさを隠すように表情を引き締めた。
「セレスティアは、あの男が好きなのか? マティアス殿下は、セレスティアとヴェイグ様が不貞をしていたとずっと言い張っていたが……」
しつこいですわ。不貞をしたわけではないけど、これは否定してもいいのだろうか。今さら、カレディア国に帰る気などないのだ。否定すれば、真面目なロクサスならヘルムート陛下に談判しそうな気迫を感じる。
「べ、別にどう思われてもいいですわ」
「なんだその動揺は?」
「動揺なんかしてません。それよりも、ロクサスはすぐにカレディア国に帰ってください」
「一人では、帰れない。何のためにシュタルベルグ国まで来たと思うんだ。セレスティアを迎えに来たんだぞ」
「いやですわ。絶対に帰りません」
腕を組んで、不機嫌さを伝えるようにツンとして言う。ロクサスは怪訝な表情になっていた。
「マティアス殿下との結婚が嫌なら、俺が陛下とイゼル様に掛け合おう。でも、シュタルベルグ国の王弟殿下ヴェイグ様はダメだ。彼は、セレスティアをカレディア国から離す気だぞ」
「それでいいのよ」
「セレスティアは、マティアス殿下が好きだったのではないのか?」
「でも、エリーゼがいるわ」
「浮気を知っていたのか!?」
知っていた。何度も二人で城の奥へと寄り添って消えて行ったのを見た。
それを冷ややかな眼で私は見ていた。
ロクサスは、私が浮気を知っていたことに驚き、目を見開いてしまっている。
「まさか、ショックでこんな暴挙に……?」
「違うわ。ロクサスは、昔から私と知己なのに、何もわからないのね……」
「そんなことはない。セレスティアが聖女に誇りをもっていることだって知っている。でも、マティアス殿下の浮気が原因なら、ヴェイグ様と婚約をしてどうするんだ? 彼は、女好きだという噂を聞いた。婚約者らしき女性もいると聞いたぞ」
「……ヴェイグ様のことは、ロクサスには関係ないわ。余計なことを言わないで」
そんなことぐらい、わかっている。婚約者はリリノア様で、ヴェイグ様は突き放す気もない。
彼女も私と同じでヴェイグ様を頼っているのだ。
私だって、そんな彼女を突き離せないと思う。
今も、何か力になればいいとは思っている。突然現れた私のせいで婚約破棄になったのなら、申し訳ないからだ。だから、せめて魔法が何か一つでも使えるようになれば、リリノア様の自信に繋がると思った。
「……なら、聖女機関の話をする。イゼル様から、セレスティアの黒髪のことを聞いた。隠していた理由も……」
「イゼル様が話したの?」
「そうだ。誰にも言えない話だと言って、シュタルベルグ国に来る前に俺にだけ話してくれた」
「じゃあ……あの地下に行ったの? 次の役目はロクサスなのね。それなら、それこそ私が帰る意味がないわ」
「俺は、地下には行ってない」
「行ってない……?」
「……聖女や聖騎士がこの数年、力が落ちているのがわかっているだろう。聖女も聖騎士も数が減っているんだ」
気付いている。ここ数年で、聖女や聖騎士の能力が落ちていた。それどころか、聖女たちの数も減っていた。その理由は光が闇に押されていたからだ。
だから、イゼル様は大聖女になる前でありながらも、私を地下へと連れて行ったのだ。
真っ暗闇の地下を光魔法で灯りを燈してイゼル様と二人で進んだ。思い出すだけで、嫌な気分になる。
「そんな中で、セレスティアの代わりができる聖女がいると思うのか?」
キュッと唇を引き結んで無表情になっている私に、ロクサスはいつものように話を続けている。カレディア国での私がいつもこうだったからだ。
「……でも、私がいなければきっと力のある聖女がまた現れるわ……」
「そうは思えない」
そう言うと、ロクサスが真剣な眼差しで私を見ていた。
「セレスティア。マティアス殿下との結婚が嫌なら、俺と結婚しよう。必ず大事にする」
「何を言って……」
「マティアス殿下にも陛下にも、イゼル様にもそう話す。だから、一緒に帰ろう」
私は、誰かと結婚したくて逃げたわけじゃない。
マティアス殿下の浮気に、黒髪が出現したことで、さらに広がっていた周りとの距離感。
ただでさえ、大聖女候補であり、王太子殿下との婚約に、周りからは一線を置かれていた。
嫌がらせのように嘲笑されたこともある。
何もかもが嫌になっていた。
だから、マティアス殿下の浮気を突き詰めて婚約破棄をして、城を去るつもりだった。
でも、ヴェイグ様が現れた。
彼だけは、私に聖女を求めない。そして、否定もしない。
私が仕事もしないで一日中パズルに没頭しても、終われば一緒にお茶を飲んでくれる。
「セレスティア」
私の名前を呼びながら、ロクサスが手を伸ばしてくるが、それを避けた。
「帰ってロクサス。ヴェイグ様とは別れないわ」
「ヴェイグ様も浮気をしていたら、マティアス殿下と同じだぞ。それなら、ここにいる意味がないだろう」
「ヴェイグ様は、そんなことしないわ。だから帰って」
「しかし……っ」
「ロクサス……私は帰って、と言ったのよ」
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「わかった……だが、また来る」
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