34 / 55
朝食の時間には 1
しおりを挟む「……ん……ヴェイグ様?」
朝になれば、毎晩一緒に寝ていたヴェイグ様がいない。
「珍しいわね……」
それでも、朝することは変わらずに着替えを済ませると、ヴェイグ様がリリノア様と一緒にサロンにいた。
弱々しく潤んだ瞳で話しているリリノア様を、ヴェイグ様が頭を撫でて慰めている。
婚約者ではないと言っていたけど、リリノア様はヴェイグ様を頼ってきたように見えている。すると、ヴェイグ様が目ざとく私に気付いた。
「セレスティア。起きたのか? 今迎えに行こうと思っていたのだ」
「朝食の時間かと思いまして……」
そう言って、ヴェイグ様がリリノア様の手を離して私の側へとやって来た。
「あの……ヴェイグ様」
「……どうした?」
「後ろの視線が気になるのですけど……」
私の額にキスをするヴェイグ様の後ろでは、リリノア様が不貞腐れたように睨んでいる。
「セレスティア様は聖女なのに、ずいぶんと俗的なのですね。カレディア国の聖女は慎み深いと思っていましたわ」
「普通は、そうですけど……ヴェイグ様は、言っても聞かないのですよ」
「人聞きの悪いことを言うな。セレスティアのお願いは聞いてやるぞ」
「はぁ……」
でも、エリーゼなんかは私の婚約者を寝取りましたからね。現場さえ押さえていれば、慰謝料も発生しなかったのに……!
「そう言えば、慰謝料はどうなったのでしょうか?」
「追手を仕向けることに夢中で、忘れていたんじゃないか?」
「……まさか、実家のウィンターベル伯爵家に押しかけないですよね……」
そんな暇はないと思うけど、マティアス殿下は私のことを知らないから、押しかける可能性もある。イゼル様は、ロクサスを仕向けたぐらいだから、私を連れ戻すことを第一に考えているはずだ。
「慰謝料のことは、今は気にしなくていいのではないか? 俺の婚約者だとは知っているのだから、請求ならシュタルベルグ国に来るだろう。どのみちそれからでないと、動けないからな」
「払う気ありますか?」
「ない。なぜ、俺が払うんだ……セレスティアのための金なら払うが……」
「私は物じゃないですので、買い取れませんよ」
「それは、残念だ。それよりも、すぐに朝食にしよう。朝は腹が減るものだ」
「毎晩、何をやっているんですか……晩餐のあとにどこかに行ってますよね? 朝も早いですし……ちゃんと寝てますか?」
「俺は繊細なんだよ」
まったく繊細には、みえませんけどね。
返答に困りながらも、ヴェイグ様がサロンのテーブルの椅子を引いて私を座らせてくれた。
「ヴェイグ様。お話を聞いてくださってありがとうございます……私、王妃様に呼ばれているので失礼します」
そう言ってリリノア様がジッと私を見た。
「セレスティア様。恋人が迎えに来たのなら、カレディア国に早くお帰りください」
「は? セレスティアには、俺がいるだろう」
「昨日男の方と抱き合ってました。立派な聖女様だと思ってましたのに……」
なぜか私が軽蔑された眼で見られて、リリノア様はヴェイグ様に頭を下げて行ってしまった。
昨日のこととは、ロクサスのことだ。どうやら、見られていたらしい。
魔法を使っているところを見られてないと言うことは、私から闇が出てきたことは見てないとわかるけど……余計なことを言うだけ言って、恐ろしい形相になったヴェイグ様を置いて行かないで欲しい。
「セレスティア」
「なんでしょうか? あ、シオン、お茶はいつものでお願いします」
「はい。お砂糖もいつも通りで?」
「はい。お願いしますね」
「茶なんかどうでもいい!」
ヴェイグ様の眉間に寄ったシワを無視してシオンにお茶を頼むが、見逃してはくれなかった。シオンは聞かないフリをして、お砂糖を一つ添えてお茶を置いてくれる。
「誰といたんだ?」
「何のことですか?」
「怒るぞ」
「もう、怒っているじゃないですか」
物凄く凄んだ声音で睨んでくる。しかも、シオンに「誰が来たんだ?」と確認しているが、シオンはロクサスに会ってないから、「誰も来てないですね」と答えている。
「セレスティア」
「先にお伝えしますけど、抱き合ってないですからね」
「なら、なぜ庇おうとする」
「庇ってません。何をする気ですか」
「止めを刺しに行く」
「ロクサスとやり合ってどうするんですか? お互いに怪我でもしたら大変です」
筆頭聖騎士と言ったはずです。ロクサスの能力も高いのですよ。
「来たのはあの聖騎士のロクサスか……」
「そうですけど、無駄な争いは止めて下さいね。ヘルムート陛下に仲良くするように言われましたよね」
二人が喧嘩すれば、魔法で周りが壊されそうだ。
「あの男は俺に一度剣を抜いたからな。止めを刺す理由は十分だ」
「理由はそっちですか……」
執念深そうな発言をするヴェイグ様に、呆れて思わずため息が出る。
「……ロクサスが、あの時、剣を抜いた理由をわかってないのか?」
「わかってますよ? 私を聖女機関に連れ戻そうとしたのですよね?」
聖女機関であるイゼル様から放たれた追手だったはず。そう思っていると、ヴェイグ様が不機嫌なままでジッと数秒私を見る。
「……落ち着いているな」
「……いけませんか?」
「別に」
眉間にシワを寄せたままのヴェイグ様が、肘をついて不貞腐れている。そのテーブルにシオンが朝食をそっと置いた。
「ヴェイグ様。朝食ですよ」
「知っている」
そう言って、不機嫌そうなままのヴェイグ様と朝食を始めると、下僕(フットマン)が手紙を持ってきた。
2
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
【完結】悪女を断罪した王太子が聖女を最愛とするまで
空原海
恋愛
王太子リヒャードへの贈り物。そこへ毒を盛った幼馴染の令嬢。
彼女は国内でリヒャードの婚約者筆頭候補と目されていた。
令嬢を凶行に駆り立てたのは、果たして。
一方、守りたかった友人の命を、己の判断として奪わなければならなかったリヒャード。
友人の不名誉を挽回することすら叶わず、心に深い傷を負った。
そんなリヒャードの元へ、宗主国の皇女バチルダが婚約者として訪れる。
バチルダは言った。
「そなたがいかにわらわに無礼を働こうと、この身を斬って捨てるような隠匿のかなわぬ著しい狼藉でもない限り、なんの咎もないということよ。
わらわは貴国への親愛を示す献上品である」
※ ざまぁはありません。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
追放された聖女は魔獣を祓い、王子に愛される 〜あるいは抹消された王子が憎悪に燃える聖女を人間にするまで〜
香月文香
恋愛
「聖女ロザリンド=イースを告発する」「私、マリアベル=レ=ジルレーンは、聖女ロザリンドの偽りを断罪します!」「平民のあなたに、聖女の椅子は大きすぎるのでは?」「さようなら、ロージー」十六歳の誕生日。第一王子との婚約発表を行うはずだった大広間で、私は聖女を解任された。私は聖女だけど、魔獣を祓うこと以外は何にもできなくて、偽物なのだと。まぁ一人の方が魔獣祓いも効率的にできていいかもしれないわ。なんて前向きに考えていたら、「身柄は<黄昏の宮>預かりとする」だって。皆さんざわついているけれど、<黄昏の宮>ってどこ? え? 第二王子がいるって? なにそれそんなの聞いてない──! だって、私は魔獣を殺せさえすればいいのだから。
※小説家になろうにも掲載しています
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる