君だけの理解者になりたい

ラリックマ

文字の大きさ
43 / 70
彼と彼女の過去……

第42話寂しげな声音……

しおりを挟む
 そして迎えた土曜……。
 その日花とラーメンを食べる約束になっていた。
 一方的に約束させられたが、まあラーメンは好きだしいいと思ってしまう。
 休日は特にやることもない。
 花がうちに来るまでまだ一時間ほどある……。
 いつもやっているゲームもマンネリ化してきて飽きていた。
 でもゲーム以外特にやることがない俺は、どうやって暇をつぶそうか考えていた。
 ……。
 どのくらいたったか……、時計を見ると針の長針は11を指していた。
 つまり55分。
 ボーと何しようか考えていたら、いつの間にかこんな時間になっていた。
 まるで時間が超越ちょうえつしたかと思った……。
 俺ほど暇つぶしの才能に恵まれた奴はいないだろう。
 そんな才能いらなかったな……。
 なんて思ってると、家のチャイムが鳴った。
 五分前だが、多分花だ。
 俺はクロックスを履いてドアを開ける。
 ドアの前には、白のワンピースを着た花が片手バッグを両手で持って待っていた。

「じゃあ行くか」

「えぇ、朝から何も食べてないからお腹が空いたわ」

 朝から!?
 この人どんだけラーメン楽しみにしてたの?
 俺達は駅の近くにあるこってり系なラーメン屋に行くことにした。
 その途中で花が何か話したそうに口を開こうとしていたが、最後まで出てこないのか下を向いたりしていた。
 結局その間ほとんど会話せずに目的地に着いた。
 俺達は店内に入ると、券売機けんばいきの前に立ち尽くす。
 
「俺はとんこつにするけど花は?」

「あ、私もそれで」

 俺はとんこつラーメンの食券を二枚買って、店員に差し出す。

「えーと麺硬め油多めニンニク有りでお願いします」

 俺はいかにも行きなれてますよ感を出す。
 暇な時とか小腹が空いたときとかはよく来るので、まあ本当に行きなれてるんだけど。
 店員は花にもどうします? と聞いていたが、花は困惑していた。
 まさかコイツ、ラーメン屋に来たことないのか?

「ええーと……この人と一緒で」

 絶対来たことないですね、はい。
 さすがにニンニクぐらいは無しと答えてほしかった……。
 
「おい、ニンニク食えんの?」

「ええ、好き嫌いはないから安心して!」

 そういう問題じゃない気がするんだけど……。
 まあ別に花の口臭が臭くなったところでどうでもいいか。
 俺達はラーメンが来るまで座って待っていたが、花は店内をきょろきょろ見回していた。
 
「何でラーメン行こうって誘ったんだ?」

 ふとそんな疑問が浮かんだので聞いてみる。
 すると花は、昔を懐かしむような目で。

「前に優太が言ってたじゃない。駅前のラーメン屋がすごくおいしいって」

 そうだっけ?
 多分何となく話した会話の一部なのだろう。
 
「それでどんなものなのか食べてみたくなったから」

「食べたことないのか?」

「うん……。うち外食あんまりしないしこういうの一緒に行く人もいなかったし……」

 少しさびしそうになった花の表情は、ラーメンが出されるなり歓喜に満ちた表情になった。
 出されたラーメンをずるずるとすすっている花は、満足していたように思える。
 しかし改めて花の格好を見ると、ラーメン屋とは合わない。
 白いワンピースは、店内でもひと際目立っていた。
 俺も花に続いて麺をすすりだす。
 うめぇ。
 やっぱラーメンといったらとんこつだな。
 他の味も食べてはみたものの、いまいちインパクトに欠ける……。
 とんこつこそ至高しこう
 俺達はラーメンを完食して店内を後にする。
 花も満足した様子でだったので、俺としても非常にうれしい限りである。
 時刻は七時ぐらいだろか……。
 俺達が来た時は夕暮れ時だったが、今は真っ暗だ。
 周りもとても静かで、虫の鳴き声が聞こえてくる。
 しばらく沈黙が続いた後に、花は口を開いた。

「ねぇ……。このままずっとこうなのかな」

 唐突に話を始める花だが、主語がなくいまいち何の話をしているのか分からない。
 『こうなの』っというのは何を指しているのだろう……。
 今の学校への嫌がらせのことなのか?
 だとしたら俺はなんて声をかければいいのだろう……。
 俺はとりあえず何か話す。

「まあこういうのは一時的なもんだろ。夏休みが明ければあいつらも飽きてやめると思うし……」

 自分で言っておいて自信がない。
 問題や悩みというのは時間が解決してくれるというが、本当にそうだろうか?
 確かに卒業したらもう会わなくなるだろう……。
 でもそれは”解決した”と言いきれるのか?
 確かに表面的には終わったのかもしれない。
 でも彼女らの関係がよくなるわけでもない。
 結局時間というのは、問題や悩みを解消してくれるだけで、解決はしてくれないのではないだろうかと思う……。
 花は俺の言葉を聞いて、うつむいた。

「本当にそうなるといいな」

 暗闇で表情は見えないが、その声音こわねはひどくさびしげで冷たかった……。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

結婚する事に決めたから

KONAN
恋愛
私は既婚者です。 新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。 まずは、離婚してから行動を起こします。 主な登場人物 東條なお 似ている芸能人 ○原隼人さん 32歳既婚。 中学、高校はテニス部 電気工事の資格と実務経験あり。 車、バイク、船の免許を持っている。 現在、新聞販売店所長代理。 趣味はイカ釣り。 竹田みさき 似ている芸能人 ○野芽衣さん 32歳未婚、シングルマザー 医療事務 息子1人 親分(大島) 似ている芸能人 ○田新太さん 70代 施設の送迎運転手 板金屋(大倉) 似ている芸能人 ○藤大樹さん 23歳 介護助手 理学療法士になる為、勉強中 よっしー課長 似ている芸能人 ○倉涼子さん 施設医療事務課長 登山が趣味 o谷事務長 ○重豊さん 施設医療事務事務長 腰痛持ち 池さん 似ている芸能人 ○田あき子さん 居宅部門管理者 看護師 下山さん(ともさん) 似ている芸能人 ○地真央さん 医療事務 息子と娘はテニス選手 t助 似ている芸能人 ○ツオくん(アニメ) 施設医療事務事務長 o谷事務長異動後の事務長 ゆういちろう 似ている芸能人 ○鹿央士さん 弟の同級生 中学テニス部 高校陸上部 大学帰宅部 髪の赤い看護師 似ている芸能人 ○田來未さん 准看護師 ヤンキー 怖い

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

デイジーは歩く

朝山みどり
恋愛
 デイジーは幼馴染に騙されるところだったが、逆に騙してお金を手に入れた。そして仕立て屋を始めた。 仕立て直しや小物作り。デイジーは夢に向かって歩いて行く。      25周年カップにエントリーしております。

処理中です...