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1 兄貴の彼氏だから抱けっこないって思ってた?
しおりを挟む「兄貴の彼氏だから抱けっこないって思ってた?」
ソファーの上に押し倒しながら硬くなった股間を押しつけ、間近で揺れる瞳にそう囁きかけると、真生さんは観念したようにまつ毛を震わせながら目を伏せて、それから俺の背中におずおずと両手を回した。
*
そもそも、誘ってきたのは、まおさんの方なのだ。
今日だけじゃない。まおさんはいつだって、甘えるようにぴったりと俺に寄り添い、しなだれかかり、うっとりと眠そうな目を向けながら「ショウ」と俺の名前を呼びかける。
酒に酔った勢いのように見せながら、本当は正気を失っていないことは明らかなのに。まおさんが酒にすこぶる強いことはとっくに知っていることなのに。
そんな仕草をしておきながら、いざ俺が行動に出ようとすると突然身体を離し、いかにもただの知人だと、「お前は彼氏の弟だろ」と言わんばかりの顔で、今さらのように澄ました顔で取り繕ってみせる。
そんなことが何度も続き、何日もたち、それでもまるで恋人に会いに来るような頻度で、今日も恋人のいない恋人の家に訪れて、俺にべったりともたれかかってきたのだった。
だから、俺は我慢することをやめ、まおさんをソファーに押し倒したのだ。
*
そもそも、いけないのは、まおさんの方なのだ。
まおさんは俺の兄貴、大輔の恋人だ。いや、恋人だった、と表現するのが正しいのかもしれないし、もっと言えば、恋人ではなく単なる「体だけの関係」だったのかもしれない。
関係性を正確な言葉で表現できないとしたところで、まおさんが毎週末のように兄貴と俺の住むこの家にやってきて、ふたりが俺の目を盗んでセックスをしていたのは確かな事実だった。
俺が出かけている隙だとか、俺が眠っているふりをする間とか、あるいは「大切な話をするから絶対邪魔をするな」と言いつけて、ふたりで部屋にこもったりとか、リビングのソファーだとか、とにかくしばしば愛し合っていた。
五つ年上の大輔は、三兄弟の末っ子で少しだけ歳が離れて生まれた俺のことを、いつまでも子供だと思っている節がある。俺が高校の三年間を全寮制の学校で過ごしたから、子供から大人に変わり始める時期に顔を合わせなかったせいもあるのかもしれない。
大輔だけではなく両親も、十歳年の離れた長兄の陽平も、とにかく家族全員が俺のことをいつまでも幼稚園児ぐらいの子供のように扱うのだ。
だから大輔は、まおさんとふたりで何かをしていたとしても、俺には理解できないだろうと思い込んでいたようだった。
俺だってもう大学二年生、二十歳になったというのに、だ。
自分の兄とまおさんがそういう関係だと最初に気づいたのは、俺が自分の部屋で課題のレポートに勤しんでいる時だった。
高校を卒業し、実家から離れた大学に進学することが決まると、親は当然のように俺を大輔のひとり暮らしのマンションに同居させた。大輔はひとり身だというのに広いマンションに住んでいて、後になって思えば、俺が実家から遠い大学に進学させてもらえたのも、大輔の家に住まわせることが大前提だったのかもしれない。
おかげで、まおさんと毎週のように会うことができる状態になった。
頻繁に顔を合わせるうちに俺のことを「祥吾くん」ではなく、親しい人たちと同様に「ショウ」と愛称で呼んでくれるようにもなった。
だけど、それはけっして俺が望んだかたちではなかった。
「大輔の弟」としてではなく、一対一で向かい合い、微笑みかけられたかった。
だからこそ、俺は胸の内でまおさんへの感情を余計に募らせる結果になったのだと思う。
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