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2 匠海
しおりを挟む何も知らないふりをしようと心に決めていたはずだった。
だけど、あいつの顔を見るなり放っておけなくなった。
櫂とは寮で同室になって以来、気心の知れた友人同士となっていた。
クラスも育った環境も将来の夢も異なるけれど、なんでも相談しあえる間柄だった。
……そういられるよう、懸命に努力していた。
櫂が大学生と付き合っていたのは同級生の間でも有名な話だったから、部屋替えで同室になって間もない時には何度かふざけて「もったいぶらずに見せろよ、年上の彼女」と冷やかしたりしたものだが、お互いに親しくなりさまざまなことを打ち明けられるようになった頃、こっそり見せられた女の写真を見るなり、俺は愕然としながらも「美人じゃん」と容姿を褒めるだけで興味を失ったふりをした。
この時俺は、櫂に初めて嘘をついた。
櫂が照れ臭そうに見せてくれた写真の中のその女が、離婚した父親の姓を名乗る実の姉であることを、俺はとうとう言い出せなかった。
何故ならば、その時に覚えた感情が嫉妬であることに気づいてしまったからであり、櫂に対して猛烈な独占欲を自分が抱いている事実を、正直に打ち明ける勇気などなかったからだ。
そして今日、俺はまた嘘を重ねる。
櫂が失恋したことを、表情だけで即座に見抜いたわけではない。
放課後に通りがかった駅の近くで、ルームメイトと実の姉が曖昧な空気をまとわせながら、お互いにうつむいて向き合っているのを偶然見かけたのだった。
別々の家庭で育った姉とはどちらかの親と共に会うことはあっても個人的に話す機会はないから、姉は自分の付き合っている子が俺と同室だとは知らなかっただろうし、俺も学校で家の話をすることはほぼないから、櫂は自分の付き合っていた相手が俺の姉だと知ることがないまま終わっただろう。
そして、よりによって自分の血縁と恋仲になったという事実に嫉妬とやり場のない感情で身を焦がす俺が、応援するそぶりを見せながら櫂と姉との関係が早く終わればいいのにと内心で強く願っていたことを、櫂は最後まで気づかなかっただろう。
寮の自室で予想以上に気落ちする櫂の表情を見るなり、俺は自分の恋が叶うはずのない無謀な感情なのだと確信しながら、「大丈夫か」と気遣うふりをした。
なぐさめるのを口実にこの腕の中に抱き寄せたいという浅はかな考えは、櫂の「大丈夫」という突っぱねるようにさえ聞こえる言葉で打ち崩された。
けっして大丈夫ではない顔をしていながら、自分は大丈夫だと答えた。
櫂が俺に嘘をついた。
これはきっと、彼に嘘をつき続けてきた俺への罰なのだろう。
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