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しおりを挟む「ひましてるだろうヴィンに、ちょっとした情報の提供に来たんだからさ、そんな邪険にすんなよ」
「ニルスウルサイ」
「ジュジュも! じゃまにすんなよ」
「情報?」
怪訝に、ヴィンは眉をひそめる。ニルスは、ラルフとはまた違ったくせ者だ。
面白そうなことがあれば積極的に状況を引っかき回そうとするが、その際は自分が動くよりも人を使う。
――自分で動くの面倒だし。
という怠惰なところが魔族らしく、そこだけはヴィンも同意できた。
放っておけば関わらずに済むことに、わざわざ自分から関わって行く気持ちはわからないけれど。
「マタワルダクミカ?」
「ジュジュ、うるさいぞ」
「で、なに」
「森に、人間が入ったんだってさ」
「入った?」
森、と呼んでいるのは、人の住む地と魔族の住む地を隔てている森だ。
鬱蒼と木々が生い茂り、魔素が濃く漂っている。それは人の住む地に近づけば近づくほど、濃密になる。魔素に耐性のない人間には幻惑を見せ、方向感覚を失わせ、一度入ると出ることが難しいことから、人の世では迷いの森と呼ばれていた。
魔獣も多くいる。それらの大半が、意思の疎通のできないただの獣だ。魔族の地にも、時折現れる。さくっと、討伐されているけれど。
魔素に耐性のある魔族にとっては、普通の森だ。広大ではあるが、正しい道を知っていれば、人の住む地へはたどり着ける。わざわざ森の中を通るような面倒くさいルートを、選ぶ物好きはほとんどいないが。
けれど人間にとっては入れば出てこられない森は恐怖の対象で、普通は近づかない。魔族の住む地と繋がっていることを知っているのは、人間の国の上層部と魔族だけだ。
「時々いるんだよな。度胸試しとか、言い伝えを信じないやつとか」
「ばかなの」
「ばかなんだろうな」
意味もなく、立ち入る心情が理解できない。
「助けてやる?」
「なんで?」
「一応同族だから?」
「くだらない。自業自得だよ」
まだ魔族の地を目指してならば、興味を惹かれたかもしれない。
気まぐれに助けた可能性も――と思って、ないな、とヴィンは否定した。
「まあ、そうだな」
「助ける価値があるって思うなら、ニルスが助けてやったら」
「やだよ。そんなめんどくさいこと」
「なら、ニールにでも行かせたら?」
「あいつが行くわけねぇって。娯楽を求めて森に入ったやつらなんて、助けたところで感謝されねぇもん」
「まあ、そうだろうね」
ニールの見た目は、魔族だとわかる容姿だ。姿を変えることもできるけれど、そこまでして助けてやる義理もない。
「なんか、ヴィンは魔族よりだよな」
「そう?」
自分ではよくわからない。
この地には人間も住んでいるけれど、数は当然魔族よりはかなり少ない。けれど魔族とも交流し、いい関係を築き楽しく暮らしていると聞く。ただ魔王城で暮らすヴィンは、ほとんど交流がない。顔を合わせれば、軽い挨拶をする程度だ。
魔族だと、思われている可能性もある。出自を、わざわざ言いふらしはしない。人間と交流のある魔族に話を聞いているから、ヴィンは知っているだけだ。
「ま、勝手に入り込んだんだから、そいつらがのたれ死のうが、魔獣に食われようが、どうでもいいんだけどさ。ここまでたどり着けるわけねぇんだし」
「じゃあ、なんでわざわざ僕に言いにきたわけ」
「んー? ひまを持て余してるヴィンだったら、どうするかなって」
「どうもしない。ひまじゃないし」
「そこそこ、身なりが良さそうだったけど」
話を聞かないなと呆れ、見てきたのかと呆れる。遠見の魔法の可能性もあるが、どちらにしろ物好きだ。暇を持て余し、娯楽を求めているのかもしれないが。
「だから?」
「色々強奪するとか、助けて恩を売るとか?」
基本的に魔族は弱い人間に対して我関せずでいるが、テリトリーに入ってくれば別だ。悪意があるようなら、排除する。当然のことだ。
「貴族ってこと?」
「可能性はあるってとこ」
「ふうん」
「てことで、ちょっかい出しに行く?」
「行かないって言ってる」
「ええ」
「めんどうくさい」
「そう言わずに」
はあ、とヴィンはため息をつく。
「ニルスがひまなんだろ」
この男に、善意という言葉は似合わない。
「まあ、そうとも言う」
「なら、手合わせする?」
「それはやだ。おまえにぼっこぼこにされるのわかってんもん」
「されればいい」
「ひっでぇな!」
「僕みたいな若輩者に負ける方が悪い」
「いやいやいや、なに言ってんの!? 今のヴィンと対等にやれんの、ヘーカだけだろ」
「そんなことないよ」
「そんなことあるんだよ!」
手合わせがしたくないからと、大げさだ。
序列上位、一桁なのだからやり合えないわけがない。最近誰もがこの調子で、ヴィンの申し出を躱していた。まったくもって、面白くない。
「そんな不満そうな顔すんなよ。そうだ、ヘーカ誘って、祭りでも行ったらどうだ?」
「祭り?」
「そうそう、デートってやつだよ」
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