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第1章 ダンジョン内に放置されたようです……

第四話 とりあえず、セーフティゾーンを出ます‼

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 興奮が冷めてきたところでようやくセーフティゾーンを出ることにした。……本当にようやくである。というか最初にここを出ると決心してから、とうにかるく十分は超えていた。
 そろそろここから出なくてはと結菜はよいしょと立ち上がった。
 服に軽くついてしまった土埃を払う。
 結菜は新しく作った異空間―アイテムボックス―にマイリュックを入れた。
 いや、流石に傘は入れないよ?どんなにしょぼくても一応武器は武器。
 風の耳を使っていたとしても万が一ということもあるだろうからね。
 結菜は上機嫌でスキル《風の耳》を発動した。
 
《スキル、風の耳を使用します。周辺の消音を確認しました。魔力消費が多いので注意してください》

 もう魔力消費なんてドンと来いである。ビバ魔力∞‼遠慮なく使わせてもらいます。はい。結菜はルンルン気分だった。
 軽い足取りでセーフティゾーンを出る。
 セーフティゾーンの外は以外と狭い回廊が続いていた。
 見渡す限り、モンスターとかはいないようである。
 まぁ、いたとしても全力で逃げ去るだけなのだが…………。
「う~ん。ところで、ここってダンジョンのどの辺りなんだろ?」
 スタスタと歩きながら、結菜はふとここがどこなのかはっきり知りたくなり自分のスキル―鑑定でダンジョンについて調べてみた。
 いろいろ詳しく鑑定結果が出てきたが、結菜は軽くすらすらと流し読みをする。しかし、ある項目に目が止まった。
 ………どうやら誰かいるらしい。ダンジョンマスターと交戦中とも書いてあった。
 耳を澄ますと確かにちょっと離れたところで人の声や剣の音が聞こえてくる。
 ついさっきから風の耳を使用している結菜にとって、ゲームのようにマップなるものの存在が無くともそこがどこら辺かはっきりとわかった。
 ビバ風の耳‼ビバ魔力∞‼本当にいいスキルである。何気にゲーマーが一度は夢見るようなことが実現した瞬間であった。
 ファンタジー及び魔法が大好物な結菜にとってそれは万々歳物。気分は高揚するばかりである。
 それに、人がいるということは上手くいけば外に通じる道を教えてもらえるかもしれないことを意味する。ダンジョン脱出がより早く簡単になるにちがいないのだ。
 常にポジティブ思考傾向にある結菜。「ふっふっふ」とにまにま笑いながら鼻歌を歌い出す。
「うん‼まずは人に会いに行こっと‼」
 さっそく結菜は音の聞こえてくる方へとスキップしながら向かったのであった。


   ◆


 ここは、とある王国の高難易度ダンジョンのダンジョンマスタールーム。
 そこはたくさんの巨木のような柱がいくつも連なっており、天井は高く見上げるほどの遺跡のような神秘的な空間であった。
 天井は魔力の結晶でできており、キラキラと煌めいている。
 そんな中、幻想的な空間には不釣り合いな金属音と破壊音が響き渡っていた。
 ドゴォォ……ギィィン……‼
「おい!気をつけろ‼こいつの攻撃には当たらないように注意しておけ‼」
「はい‼」
「……くそっ‼こいつ速すぎ‼」
「また攻撃がくるよ‼」
 ダンジョンマスターが攻撃してくる。
 アルは自身の持つ剣で、向かってくるモンスターの攻撃をしのいだ。
 まさかこうなるとは思っていなかった。自分達はダンジョンマスターと戦うつもりはさらさらなかったのである。
 アルは周りにいる仲間―《炎樹の森》のメンバー達に激を飛ばした。ここのダンジョンマスターは恐ろしく強いのだ。
 アルは《炎樹の森》というクランのリーダーだ。主に冒険者を育成するという理由で創設されたこのクラン。
 クランが創設される前は冒険者は、特に新人の冒険者達はすぐ死んでしまうことも少なくなかった。
 腕もさほどたつわけでもないうえ、冒険者として必要最低限のこともまだ知らない彼らがすぐ亡くなってしまうのも仕方がないこと……。
 その話をふと耳にした国王-ルーベルト王国の王は、《双剣》の異名を持つアルと彼のパーティーメンバーに育成クランの創設を頼んだ。
 ―「我が国の冒険者が多く死んでしまうことは忍びないことだ。どうか彼らが死なぬようにしてくれないか。」―と。
 自国の民が多く死んでしまうことを王は憂いていた。王とアルは昔からの友人同士であった。アルはそんな王の願いを聞き入れ、クランを創設したのだ。
 クラン創設から幾年か経ち、ダンジョン内のある素材採取の依頼を達成するためにこのダンジョン-ルーベルト王国内高難度ダンジョンに潜入した今現在……、アル達はピンチに思いっきり直面していた。
 ぐっと睨みながら、アルはこの騒動の原因たる人物に目をやった。
「っていうか、コール‼お前何でわざわざ罠にかかったんだ‼お前なら罠だと気付いただろうが‼」
「えっ?いや~、血が騒いでしまって、つい、ね………?」
 えへっと笑う男の子のような容姿の男性が一人。彼の名前はコールと言うらしい。
「あ~。コール、シーフだもんな~」
「あの罠は最っっ高だね‼偽装も完璧‼おまけに、ダンジョンマスターの所まで一瞬でつくなんて‼解除しても良かったけど、むしろ潔くかかってみて正解だったよ‼」
 さっきまでしおらしくしていた様子は何処へやら、鼻息荒く捲し立てるコール。
 その様子にアルは思わず吼えた。
「コールゥゥ‼お前ワザとかかったのかよ⁉」
「……えへ。ごめんね?」
「誤って許されるなら警備隊はいらん‼」
「あっ、ダンジョンマスター来たよ?」
「チッ……。お前後で覚えてろよ‼」
 襲って来るダンジョンマスターの前足を避けて、大きく後ろに下がる。
 ドゴォォォォン…………………………‼
 アル達は再び襲って来るダンジョンマスターの追撃をしのいだ。
 柱が何本か倒れて、キラキラと結晶が雪の粉のように舞う。
 しかし、その幻想的な光景にも目をくれる暇などアル達にはなかった。
 さて、アル達の会話でどうしてこうなったのかある程度わかったかもしれないが詳しく説明しようと思う。


「あっ、罠発見……」
 ダンジョン内に潜入し、素材を採取し終わった矢先、コールがポツリと呟いた。
 だが、残念ながらコールの呟きは本当に声が小さかったので誰も内容は聞き取れなかった。
 しかし、コールが声を出したのが気になったのか、アル達は後ろをふと振り返った。
「?何か言ったか?コール。」
 振り返って見てみると、アル達はとんでもない光景を目にした。
 罠に思いっきり足を踏み込んだためか、魔法陣にコールが飲み込まれかけていたのだ。
(あのコールが罠にかかったのかよ⁉)
 アル達が驚くのも無理もない。
 コールは戦闘はからきし駄目だったが、罠の発見及び解除は超一流の腕を持っていた。あと逃げ足の速さもだが……。これはアルの逆鱗に触れるたびに逃げ回って手に入れたコールの特技第二号である。
 ……話を元に戻そう。そんなコールが罠にかかったことにその場にいたアルを含む仲間達は驚きを隠せなかったが、コールが消えそうになる前に彼を救出するために全員が魔法陣に飛び込んだ。
 その後、想定外の出来事が起きるとは思わずに…………。
 視界が真っ白になり、次の瞬間、アル達は空中に放り出されていた。……しかも気持ちよく寝ていたダンジョンマスターの頭の上にポーンと勢いよくである。
 それはあまりにも災難であった。


 まぁ、ここから先はだいたい想像がつくだろう。
 アルがコールに怒鳴るのも無理もないことなのだ。
 ギィィン‼……ドォゴォォ……‼
 アルがダンジョンマスターに攻撃するのと同時に仲間達-ミリー、クリード、サアシャが攻撃する。……ただし、コールを除いて。三人共魔法も剣も両方使いこなすベテラン勢である。……ただしコールを除いて。
 しかし、確実に急所に当てられると思った攻撃がなぜか当たらない。アルも同様であった。
 攻撃をいなすことはできるが、こちらからの攻撃がなぜか効かない。気がつくと、避けられているのだ。
「こいつ、音に反応してるんじゃない?」
「はぁ⁉」
「こっちの攻撃する時にでる、地面を蹴る音とか、風切り音とかに反応してるみたいだよ?」
「おいおい、マジかよ⁉」
 攻撃を予知されている。それはつまり、こちら側からの攻撃が当たらないことを意味していた。このままだと、こちらの体力が先にそこをついてしまう。……とてもヤバイ状況だった。
 アルは折れそうになる気持ちを隠して仲間に攻撃を頼み、一旦戦線から離脱した。
 休憩しておかなければ、本当に倒す前に自分が倒れてしまう。ミリーやクリード、サアシャ達も、今休憩をとっているアル同様に交代で休憩を取りながら戦っていた。
 休憩を取りながら、ふと顔を上げてすぐそこにある通路を見ると女の子がいた。驚きを隠せないアル。
(どうして、ここに女の子がいるんだよ⁉)
今日は驚き過ぎて心臓が持たない日だ。明日は絶対に仕事しないからな‼っていうか、後でコールに八つ当たりしよう‼アルはそう固く誓った。職権乱用である。
 アルは目を見開いて少女を見た。その少女は歌っていた。それもスキップをしながら。まぁなぜか声は聞こえなかったが……。というか、彼女から音が聞こえなかったのだが…………。もう帰りたい。アルは本気で思った。
 一方その少女、結菜はようやく人を見つけ、心の中で小躍りしていた。歌いながらスキップをして彼に近づいていく。
 これが合田結菜と冒険者クラン《炎樹の森》のメンバー達との出会いであった。


   ◆



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