異世界転移した町民Aは普通の生活を所望します!!

コスモクイーンハート

文字の大きさ
51 / 75
第5章 聖女として……

第四十九話 王城での緊急会議

しおりを挟む
 赤い絨毯が敷かれた部屋。
 蜜蝋の蝋燭で灯されたシャンデリアが、艶めく大きな木製テーブルに写り込んでいる。
 そのテーブルにつく幾つもの人影が。
 ルーベルト王国王城の王の執務室付近にある会議の間にて、アデレード王含め数人の者がその場に集まっていた。
 緊急招集が王の命でかけられたのである。
 勇者と賢者、そして聖女である結菜が今日の昼近くに魔物の大群発生により、転移魔法陣を使って緊急出動した後、すぐに侍従がその事を王の元へ報告してきた。
 それを聞いたアデレードはすぐさま、国の重要人物や大臣、宮廷魔術師長などに招集をかけた。
 今回の魔物の大群発生は国の緊急事態であったからだ。
 それから数時間後、主要人物は会議の間に到着した。
 今回ばかりは勇者達しか使用を許していない転移魔法陣の使用もアデレードは許可した。
 中には国の中央から離れた位置にいる者もいたからである。
 
 人払いを済ませ、アデレードは席に着席した一同を見渡し、口を開いた。
「此度は緊急招集によく駆けつけてくれたものだ。感謝する」
「いえ、めっそうもございません。ところで、アデレード様。先程ちらりと小耳に挟んだのですが、魔物の大群が我が国内で発生したとか………」
 初老にさしかかる公爵が、自身の蓄えた白ひげを撫でた。
 彼はルーベルト王国の中でも三つの指に入るほどの権力を持ち、忠臣であった。
 名はフィリス·フォン·レデグルス。レデグルス家の者であり、俗にフィリス公爵と呼ばれている。
「何でも、今回の討伐には賢者様や勇者様だけでなく、最近選定をなさった聖女様が行きなさっているとのこと。やはり、先の会議にて出ておった報告も真のようですな」
「そうですな。どう考えても、魔物の発生率が上昇しているとしか…………。同じ地域で月二度も発生するとは思いもしませんでしたぞ?」
 厳つい顔をしかめながら、フィリス公爵に同意するルイス将軍。
 ルーベルト王国の軍事を担当する者で、彼もまた王国に忠誠を誓う者である。
 アデレード王は深刻な面持ちで頷いた。
「うむ。あの辺境は確かにこの国の中でも魔物が発生しやすい場所ではある。他の地域ではその代わりあまり発生することはない。だが、年々国内の魔物発生率は上がっている。このままだと流石に大変だからな。我は以前から探させていた聖女となれるほどの者を今回やっと見つけ、選定に臨んでもらったのだ」
「あぁ、それであのユーナ様を聖女に。聖女は魔物の発生の原因となる瘴気の浄化ができると伝説でも有名な話ですからね」
 納得したようにうんうん頷く宮廷魔術師長に、アデレードは「話が早いな」と笑みを浮べた。
「そうだ。彼女の存在はつい数週間前にわかった」
「もしかして、あの高難易度ダンジョン崩壊ですか?」
 出回っていないはずの情報を既に持っているとは。流石宮廷魔術師長である。
 彼は魔法に関する事ならあらゆることを徹底的に調べる節があった。
 しかも、持てる情報網は全て使ってである。彼は貴族階級の中でも位は高い方なので、だいたいは調べ上げてしまうのだ。
 主に自身の知識欲を満たすためだけに彼は動く。
 アデレードは苦笑した。まぁ、彼の習性は気にするだけ無駄なので放ってはいるのだが………。
「よくわかったな」
「当たり前です。あなた様と賢者様直々に、極秘で彼女の魔力測定と魔法属性の測定を頼まれたのですから。詳しく調べさせたらすぐに出て来ましたよ」
「今回はどんな手を使ったんだ?」
「わかっていらっしゃるでしょ?主に宮廷魔術師関連ですよ」
 含み笑いをする宮廷魔術師長。
(これは、幻術魔法でも使って調べさせたな……………)
 白い目で彼を見つめ、アデレードは咳払いをした。
「そこでだ。今回の討伐にて、賢者からの要請もあり、彼女に討伐に参加してもらった。事前に話合いも済んでいる。なに。少女である彼女に戦闘には参加しろというわけではない。彼女の役割は浄化である。賢者と勇者もそう言っていた」
「ふむ。なら、納得ですな。しかし、そのユーナ様とやらは本当に大丈夫なのですか?」
 側近であるフエルト卿が尋ねる。
 どうやら、結菜が真の聖女となったのか疑問のようだ。
 探していたからといって、そう簡単に聖女の素質がある者などいない。むしろ、今回結菜が見つかったのはほぼ偶然であった。
 もしダンジョン崩壊がなければ見つかりはしなかったであろう。
「あぁ、大丈夫だ。選定の間での選定は成っている。お前も知っているだろう。選定は世界樹しかなせない神聖な儀式であると」
「うむ。確かにその通りですな。選定の間に近づけるなら只者ではありますまい」
 唸るフエルト卿。周りの者達も確かにと腕を組んでいる。
「それにですね?ユーナ様は三属性持ちで魔力量も異常なくらい多いんですよ。魔力の質も最上級の逸品ですね。もし、彼女が聖女じゃなかったら自分の所に是非欲しいくらいですよ」
 残念そうに話す宮廷魔術師長に、一同は驚愕した。
 宮廷魔術師団は入るのはとても難しい。
 なんせ宮廷魔術師長である彼自身が見極め、認めた者しか入らせないからだ。
 魔法ヲタクと化している彼には、もちろんお金や権力など通じるはずもなく、宮廷魔術師団に入れることは貴族の誉とも言われている。
 そんな彼に、是非宮廷魔術師団に欲しいとのたまわせる彼女の魔術師としての素質はいかほどのものなのであろうか。………想像に難くない。
「それほどの者だとは…………。失礼した。ふむ、なるほど。それで陛下は今回招集をかけたのですな?」
「今回招集をかけたのは魔物の大群発生の件だ。聖女のことはもう少し後の王家主催のパーティーの際に話そうと思っていたのだが………。まぁ、仕方がない。話を戻すぞ。此度の魔物の発生は極めて異常である。そこでだ。今後の対策や状況を共有しようと思っている」
「そうですな。それに、今まで通り勇者様や賢者様に頼りきりというわけにはいきますまい」
 頷く一同。
「それならば一つ提案がございますぞ?」
 ルイス将軍が口を開いた。
「我々騎士団が警備を強化するのです。その際、魔術師団との連携ができれば戦力は増大するかと」
 おぉと声を漏らす一同。
 いい提案である。
 しかし、その提案に魔術師長が反応した。
「でも、魔術師団の人数は限られてますよ?」
「それは第一師団である貴君の宮廷魔術師団であるからだ。宮廷魔術師団は魔術師長である貴君が、直々にお目に適った者しか入れていないであろうが。他の下にある通常の魔術師団を幾つかお借りしたい」
「う~ん。確かにそうですね………………。いいでしょう。ただし、魔術師団はあくまで魔術師団です。指揮権はあなたに託しますが、管轄は我々にあることをお忘れなく」
「あい、わかった。陛下、それならばよろしいですかな?」
 話がまとまり、将軍はアデレードの同意を求めた。
 アデレードも良い案だと思い、頷く。
「よかろう。当分その対策で行こうと思う。誰か意見のある者はおらぬか?」
 ぐるりと見渡すが、誰も何もないようだ。
 案は通った。
「ならば、これでゆく。将軍、魔術師長。そなた達は案を具体化しなさい。報告は忘れぬように」
「「畏まりました」」
「官吏長。そなたは予算の配分などを考えておくのだ。そこの二人とも意見を交わしておくのだぞ?」
「仰せの通りに。我が王よ」
 官吏長がすっと頭を下げる。
「よかろう。ではこれにて緊急会議は閉めさせてもらおう。本当にご苦労であった。貴君らの部屋の手配はしておる。十分に休んでゆきたまえ」
 
 緊急会議はものの数十分で終わったが、もともと以前した会議でだいたい煮詰めていた案件だったため、問題なくスムーズに終わった。
 がたがたと椅子から立ち上がり、皆が扉の方へ向かう。
 会議の間の厚い扉がすっと開かれる。
 続々と会議の間を出て行く将軍達。
 話も弾んでいるようだ。……本当に何よりである。
 アデレードは彼らを見送りながら、自身の執務室に戻った。
 彼を待っていた侍従がさっと執務室の扉を開ける。
「ありがとう。しばらく一人にしてくれないか」
 側にいる侍従に人払いを頼む。侍従はすぐに紅茶の用意をし、扉の前で礼をして去って行った。
 ふぅとため息をつきながら、アデレードはソファに腰を深く沈めた。
 色々あったため、少し疲れてしまったようである。
「…………まさか、また魔物が出るとはな………………」
 皺が寄った眉の間をぐりぐり押しながら、ため息混じりでアデレードはぽつりと呟いた。
 この頃は異常なことが多すぎる。
 ダンジョンが崩壊したり、大気中の瘴気が増えたり、もちろん魔物の大量発生もである。
 大気中に瘴気がたくさん増えたからであろうか。魔物の大量発生は。
 どちらにしろ、大変なことになっているのは事実である。逃げようもない事実なのだ。
「……また、被害が出ているのだろうか………………。辺境の民達は大丈夫なのだろうか………」
 心の中は色々な考えがグルグル渦巻き、嫌な想像が頭の中を占めていく。
 町が壊れ、逃げ惑う人々。
 暴れる魔物達。
 今回は十体以上の魔物が発生したらしい。
 勇者と賢者は大丈夫であろうか…………。ユーナ殿は大丈夫であろうか………………………。
 後ろのソファに預けていた頭をもたげながら、アデレードはふぅと息をはいた。
「やれやれ……………この頃はため息ばかりついてるな…………」
 また娘のフィーナに「幸せが逃げるよ」って怒られてしまうなとぼやく。
 身を起こして、温かい紅茶を飲むとだんだん気持ちが落ち着いてきた。
「………美味いな…………………」
 ほぅと息を吐く。
 さてと………。アデレードは扉の方を見やり、しっかり閉じているか確認した。ソファから立ち上がり、カーテンを閉め切る。
「影。影はいるか?出て来なさい……………」
 アデレードの声が広い室内に響く。
 何も変化はない。
 アデレードは気にせず、またソファに身を沈めた。
 紅茶カップを持ち上げ、口元に持ってゆく。
「…………何用でございますかな?」
 カーテンを締め切った室内にシャンデリアの光だけが揺らめく中、部屋の一角の陰りから闇が膨張して人の形を象った。
 やがて闇は『影』となる。
 影が王の近くまで滑る様に近付いていき、ソファに座り直したアデレードの側に寄った。
 足音は一切ない。
 人か人でないかよくわからないほどの動作であった。
「アデレード様…………。お呼びですかな?」
 カチャリと紅茶カップの置く音。
「あぁ。……影、辺境では今どうなっておる。今現在の状況は?勇者と賢者は?聖女は大丈夫なのか?」
 屈む様に揺らめく闇に瞳を向け、アデレードは問いかけた。
 半ば憔悴気味に問うアデレードに影は心配を隠せなかった。
 この頃主は色々なことを気に負いすぎている。
 しかし、影は気持ちをぐっと抑えて、主の望みを叶えんとする。
 彼もまた、忠誠を誓う者の一人であった。
「そうですな。少々お待ちくださいませ。…………………………………」
 誰かに通話しているかのように黙り込む影。
(………………民は………勇者と賢者は……………………ユーナ殿は無事なのであろうか……………………)
 ゆらゆらと思案している影をアデレードはじっと静かに見つめ続けた。



    
しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

処理中です...