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第5章 聖女として……
第五十話 影の報告
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静かな時がゆっくりと流れる。
シャンデリアの灯がジジッっと音をたてた。
「…………………………ふむ、そうか。………わかった。ご苦労だったな。引き続き、彼らの付近にいなさい」
誰かと話しているらしい。
会話が終わると、影はアデレードの方に視線を向けた。
「お待たせいたしました、王よ。わかりましたぞ?」
「何⁉それで、どうだったのだ?」
身を乗り出して耳を傾けるアデレード。
求めていた情報が手に入りそうである。
影は主であるアデレードに促され、求められるままに口を開いた。
「組織の者が闇魔法の幻影を使い、今、勇者様と賢者様と聖女様を確認しました。聖女様は勇者様方とは別行動をとっているみたいですな」
「別行動………。つまり、今勇者と賢者は騎士団と合流し戦闘に、聖女は今はまだ待機しているということか」
顎に手を当て、思案顔するアデレード。
しかし、影は即座に否定した。いや、否定というよりも訂正の方が近かったのかもしれない。
「最初はそうみたいですが…………………」
「む?違うのか?」
アデレードは眉をひそめた。
勇者と賢者が魔物の大群を騎士団と共に討伐し、その後で浄化担当のユーナ殿が合流し、浄化して終わりなのだと思っていた。
多少なりとも討伐が難しくなってしまっている可能性はあるが…………………。
数日前、賢者と勇者が帰って来て結菜が選定が成された日の夜。アデレードは久しぶりに勇者達と酒を酌み交わしながら談笑していた。
やはり友と酌み交わす酒は味わい深い。
その際、賢者と勇者と共に、今後の魔物への対応について話合った。その時、どうするか軽く決めていたのである。
その詳細は……………
一 まず転移魔法陣で移動
二 移動先の騎士団で聖女(結菜)に待機してもらう
三 戦っている騎士達に勇者と賢者が合流し、戦う
四 討伐完了後すぐに聖女(結菜)を現場に案内し、大量の瘴気の浄化を施す
……………が主な工程であったはず。
しかし、予定通りにいっていないということは………。
「やはり魔物が手強いか…………」
「そうですな。………まぁ、それもそうなのですがね…………………」
唸りながら、物事そう簡単には行かないのだなとアデレードが腕を組む。
影も肯定はしているものの、何か全く違うことまで起きているかのような反応があった。
「その、実はですが………。賢者様と勇者様というよりも、聖女様の方が想定外ではあるようですな」
「む?聖女が?」
「えぇ」
「もしかして彼女に何かあったのか?」
もし本当にそうであれば、彼女に申し訳なさすぎる。
不安げに漏らすアデレードに、影は首を振った。
「では、彼女が何らかの怪我でも負ったのか?」
なおも質問するアデレード。
しかし、またもや影は首を振る。
「ならば、どういうことなのだ?聖女に何があった」
何度も問いかけるアデレードに、影は軽く決心するかのように深呼吸して口を開く。
その彼の様子になんだかデジャヴを感じてしまうアデレード。
この会話パターン。覚えがある。
(…………まさか。いや、まさかな……………………………)
たらりとつたう汗が一筋。
聞きたいような、聞きたくないような。
「逆です。それが逆なんです。…………聖女に何かあったというよりも、聖女が行動を起こしたんです」
かくんとアデレードの口が開く。
アデレードは思わず影を凝視した。
さっと主から顔を背ける影。
「その、ですね………。報告によりますと、あの辺境の騎士団長が相当ダメダメ人間だったらしくて。まぁ、色々聖女様が直々に鉄槌を下したそうですな。その後、怪我をした騎士達の治療を施し、彼女率いる騎士団が討伐前の魔物の所へ勇者様方を助けるために乗り込んでいる最中でして……………」
「……あぁ~……………………」
皺の寄った眉の間を指で広げながら、アデレードは嘆息した。
わかってしまった。わかってしまったのだ。
聖女、いやユーナ殿は真っ直ぐな少女だ。真っ直ぐで優しくて、行動力もある。
しっかりと自分で判断して行動し、その上賢い。
まさか普通の少女が経済や農業、政治のことを国王の自分と話を交わすことができるとはあの時は思ってもみなかった。
彼女とはいい相談が出来そうである。国王としても、良き知人としても。
それに関してはほくほく顔のアデレードであった。
…………まぁ、常識がぶっ飛ばされることをやってのける結菜の思い切りの良さに賢者がため息混じりで報告してきてもいたのだが。
ていうか、たまにアデレードも彼女には驚愕するのだが……。
彼女の性質は影や勇者と賢者の言葉からも伺える。
何より彼女とあった時、自分の目で見てそうだと直感的にわかっていた。
あの子はただの普通の少女ではないと。
確かに、あの辺境の騎士団長は貴族階級特有の性格を持つ男であったと記憶している。
嘆願書もいくつか提出されていた。
何かが騎士団であったことは確かであろう。
以上のことを踏まえて、だいたいのことを察してしまったアデレードであった。
影はなるべくオブラートに包んで王に報告を述べたのだが………………。哀れなり……。
アデレードは頭を抱えた。
「それにあの方は騎士達の治療の際、幻とも言われるあのヒールを何人もの怪我人にかけまくっていたそうですな。報告してきた影も泣きそうな声で伝えてきましたよ……………」
「………まぁ、なんだ」
「……はい」
「本当にご苦労であった………」
「ありがとうございます。その言葉だけでも気分が晴れましたから………」
遠い目をした二人の乾いた笑いが広い室内に響き渡った。
傍目から見ると不気味極まりない光景であった。
まぁ、これも二回目なのだが……………。
前にもこんな会話を影と交わしていたような気がしないでもない。
もうあの少女のチート加減は何なんだろうかと思う二人。
ダンジョン崩壊からというもの、彼女はほぼ無意識に行動しているが、むしろその無意識がチートを加速させている気がする。
彼女には持つ知識、力、この世界の常識が全く当てはまらないのである。
どうかそのことを結菜にすぐに気付いて欲しいと刻々と願うアデレードと影であった。そして、自覚していただきたい。そんでもって、自重していただきたい。
諦めるのが一番の選択肢だと気づかないアデレードと影であった。……諦めた方が早いのに。
ちなみに、勇者と賢者はとっくに思考を放棄しているので被害は少ない方である。思考放棄グッジョブ‼いい言葉だ‼
しばらくして、現実逃避から逃れたアデレードが話をさらに切り込んだ。
「それで?どうしてその彼女がわざわざ戦場に出る必要があったのだ?」
「あぁ、それはですね。大量の瘴気が発生してしまったため、魔物が討伐しても再生したり進化したりし始めたそうですな。それに聖女様が気付き、浄化をするために騎士団と共に乗り込んでいるのかと……」
「やはりそうであったか……」
嫌な予感はすぐに当たるのは何故であろうか。
こんなにも当たってほしくないと願っているというのに………。
アデレードは重いため息をついた。
先月の討伐に勇者達が行った際、彼らは地獄を見た。
倒しても倒しても復活する魔物。
予想外の出来事にパニックになる騎士と人々。
魔物が暴れ、壊れる美しい町並み。
勇者が《世界の言葉》を使って瘴気を散らし、ようやく魔物は倒れた。
しかし、被害は甚大だったと言う。
(また魔物が進化した、か………………)
アデレードは報告が終わった影を下がらせると、すっかり冷えて冷たくなった紅茶を口にした。
気持ちが沈んでゆく。
はぁと重いため息をついてアデレードはカップをテーブルの上に置いた。
空になったカップが静かに音をたてる。
「…………頼んだぞ」
その言葉は誰に宛てたものなのか。
勇者か。
賢者か。
それとも結菜か。
それとも………………………。
その言葉の真意を知る者は誰もいない。
シャンデリアの灯がジジッっと音をたてた。
「…………………………ふむ、そうか。………わかった。ご苦労だったな。引き続き、彼らの付近にいなさい」
誰かと話しているらしい。
会話が終わると、影はアデレードの方に視線を向けた。
「お待たせいたしました、王よ。わかりましたぞ?」
「何⁉それで、どうだったのだ?」
身を乗り出して耳を傾けるアデレード。
求めていた情報が手に入りそうである。
影は主であるアデレードに促され、求められるままに口を開いた。
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「別行動………。つまり、今勇者と賢者は騎士団と合流し戦闘に、聖女は今はまだ待機しているということか」
顎に手を当て、思案顔するアデレード。
しかし、影は即座に否定した。いや、否定というよりも訂正の方が近かったのかもしれない。
「最初はそうみたいですが…………………」
「む?違うのか?」
アデレードは眉をひそめた。
勇者と賢者が魔物の大群を騎士団と共に討伐し、その後で浄化担当のユーナ殿が合流し、浄化して終わりなのだと思っていた。
多少なりとも討伐が難しくなってしまっている可能性はあるが…………………。
数日前、賢者と勇者が帰って来て結菜が選定が成された日の夜。アデレードは久しぶりに勇者達と酒を酌み交わしながら談笑していた。
やはり友と酌み交わす酒は味わい深い。
その際、賢者と勇者と共に、今後の魔物への対応について話合った。その時、どうするか軽く決めていたのである。
その詳細は……………
一 まず転移魔法陣で移動
二 移動先の騎士団で聖女(結菜)に待機してもらう
三 戦っている騎士達に勇者と賢者が合流し、戦う
四 討伐完了後すぐに聖女(結菜)を現場に案内し、大量の瘴気の浄化を施す
……………が主な工程であったはず。
しかし、予定通りにいっていないということは………。
「やはり魔物が手強いか…………」
「そうですな。………まぁ、それもそうなのですがね…………………」
唸りながら、物事そう簡単には行かないのだなとアデレードが腕を組む。
影も肯定はしているものの、何か全く違うことまで起きているかのような反応があった。
「その、実はですが………。賢者様と勇者様というよりも、聖女様の方が想定外ではあるようですな」
「む?聖女が?」
「えぇ」
「もしかして彼女に何かあったのか?」
もし本当にそうであれば、彼女に申し訳なさすぎる。
不安げに漏らすアデレードに、影は首を振った。
「では、彼女が何らかの怪我でも負ったのか?」
なおも質問するアデレード。
しかし、またもや影は首を振る。
「ならば、どういうことなのだ?聖女に何があった」
何度も問いかけるアデレードに、影は軽く決心するかのように深呼吸して口を開く。
その彼の様子になんだかデジャヴを感じてしまうアデレード。
この会話パターン。覚えがある。
(…………まさか。いや、まさかな……………………………)
たらりとつたう汗が一筋。
聞きたいような、聞きたくないような。
「逆です。それが逆なんです。…………聖女に何かあったというよりも、聖女が行動を起こしたんです」
かくんとアデレードの口が開く。
アデレードは思わず影を凝視した。
さっと主から顔を背ける影。
「その、ですね………。報告によりますと、あの辺境の騎士団長が相当ダメダメ人間だったらしくて。まぁ、色々聖女様が直々に鉄槌を下したそうですな。その後、怪我をした騎士達の治療を施し、彼女率いる騎士団が討伐前の魔物の所へ勇者様方を助けるために乗り込んでいる最中でして……………」
「……あぁ~……………………」
皺の寄った眉の間を指で広げながら、アデレードは嘆息した。
わかってしまった。わかってしまったのだ。
聖女、いやユーナ殿は真っ直ぐな少女だ。真っ直ぐで優しくて、行動力もある。
しっかりと自分で判断して行動し、その上賢い。
まさか普通の少女が経済や農業、政治のことを国王の自分と話を交わすことができるとはあの時は思ってもみなかった。
彼女とはいい相談が出来そうである。国王としても、良き知人としても。
それに関してはほくほく顔のアデレードであった。
…………まぁ、常識がぶっ飛ばされることをやってのける結菜の思い切りの良さに賢者がため息混じりで報告してきてもいたのだが。
ていうか、たまにアデレードも彼女には驚愕するのだが……。
彼女の性質は影や勇者と賢者の言葉からも伺える。
何より彼女とあった時、自分の目で見てそうだと直感的にわかっていた。
あの子はただの普通の少女ではないと。
確かに、あの辺境の騎士団長は貴族階級特有の性格を持つ男であったと記憶している。
嘆願書もいくつか提出されていた。
何かが騎士団であったことは確かであろう。
以上のことを踏まえて、だいたいのことを察してしまったアデレードであった。
影はなるべくオブラートに包んで王に報告を述べたのだが………………。哀れなり……。
アデレードは頭を抱えた。
「それにあの方は騎士達の治療の際、幻とも言われるあのヒールを何人もの怪我人にかけまくっていたそうですな。報告してきた影も泣きそうな声で伝えてきましたよ……………」
「………まぁ、なんだ」
「……はい」
「本当にご苦労であった………」
「ありがとうございます。その言葉だけでも気分が晴れましたから………」
遠い目をした二人の乾いた笑いが広い室内に響き渡った。
傍目から見ると不気味極まりない光景であった。
まぁ、これも二回目なのだが……………。
前にもこんな会話を影と交わしていたような気がしないでもない。
もうあの少女のチート加減は何なんだろうかと思う二人。
ダンジョン崩壊からというもの、彼女はほぼ無意識に行動しているが、むしろその無意識がチートを加速させている気がする。
彼女には持つ知識、力、この世界の常識が全く当てはまらないのである。
どうかそのことを結菜にすぐに気付いて欲しいと刻々と願うアデレードと影であった。そして、自覚していただきたい。そんでもって、自重していただきたい。
諦めるのが一番の選択肢だと気づかないアデレードと影であった。……諦めた方が早いのに。
ちなみに、勇者と賢者はとっくに思考を放棄しているので被害は少ない方である。思考放棄グッジョブ‼いい言葉だ‼
しばらくして、現実逃避から逃れたアデレードが話をさらに切り込んだ。
「それで?どうしてその彼女がわざわざ戦場に出る必要があったのだ?」
「あぁ、それはですね。大量の瘴気が発生してしまったため、魔物が討伐しても再生したり進化したりし始めたそうですな。それに聖女様が気付き、浄化をするために騎士団と共に乗り込んでいるのかと……」
「やはりそうであったか……」
嫌な予感はすぐに当たるのは何故であろうか。
こんなにも当たってほしくないと願っているというのに………。
アデレードは重いため息をついた。
先月の討伐に勇者達が行った際、彼らは地獄を見た。
倒しても倒しても復活する魔物。
予想外の出来事にパニックになる騎士と人々。
魔物が暴れ、壊れる美しい町並み。
勇者が《世界の言葉》を使って瘴気を散らし、ようやく魔物は倒れた。
しかし、被害は甚大だったと言う。
(また魔物が進化した、か………………)
アデレードは報告が終わった影を下がらせると、すっかり冷えて冷たくなった紅茶を口にした。
気持ちが沈んでゆく。
はぁと重いため息をついてアデレードはカップをテーブルの上に置いた。
空になったカップが静かに音をたてる。
「…………頼んだぞ」
その言葉は誰に宛てたものなのか。
勇者か。
賢者か。
それとも結菜か。
それとも………………………。
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